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第12話 魔都シティ

今回は5700Wです。

都会でのレイン一行の活躍をお楽しみください。

「すげえ……」


 ジョーが感嘆のため息をもらします。

 レイン一行はついに大陸随一の大都市シティに足を踏み入れました。

 昨夜変身魔法を使って人間体になった妖精レイン、ゴブリンのジョー、ドラゴンのサンディ、そして人間のウッディは通りの片隅に陣取り、夕暮れどきの町を眺めました。

 人間体に変身したもののレインはまだ背中に羽根があり、ジョーは髪が緑色で耳は尖り、さらにサンディは頭にツノが二本生えたままです。

 田舎では目立ってしようがない姿ですが、ここシティではだれも足を止めて彼らを一瞥しようとすらしません。

 レインは感心しました。


「他人に興味を持たないのが都会のマナーってとこかな。おっ」


「どけどけ!」


 歩行者を蹴散らすように、馬車がすごい速度で何台もすれちがいます。


「右や左の旦那さま……」


 路上に座り、目の前にコーヒーカップを置いたまだ年若い物乞いが、古典的な口上で慈善を乞います。


「あれは」


 ウッディは路地に面したショーウィンドウを見あげました。

 ガラスの内側でミニスカートを履いて胸をさらけ出した女エルフが踊っているのです。

 なにかの宣伝のようですが、なにを宣伝しているのかわかりません。


「ギャッ?」


 ウッディのとなりにサンディがきました。

 ポカンと口を開けて女エルフのダンスを見つめています。

 女エルフは熱心に自分を見つめる巨女に向かってニッコリほほ笑みました。


「ギャッ」


 喜んだサンディはベロッとガラスを舐め、女エルフを驚かせました。

 通りの向こう側ではドワーフが、リヤカーの重そうな荷物を一人で引いています。


「さ~夜勤の募集だ。日当一万ベル!」


 人買いの景気のいい口上に引き寄せられ、猫背の陰気な労務者が次々馬車に乗り込みます。

 ジョーは屋台の売り物を眺めました。

 売られているのはなにかの薬です。

 小瓶がずらっと並び、売り子の老婆が歌うように宣伝します。


「薬、クスリ、くすりだよ~。風邪薬、かゆみ止め、しゃっくり止め、解熱薬に発熱薬、目つぶし薬、惚れ薬、縁切り薬に毒薬もあるよ~」


「さらし者~、さらし者~、さらし者だよ~」


 老婆の口上に続いて、今度は瑞々しい少年の声が通りに響きます。


「さらし者だよ~」


 少年の背後に、二人の男女がいました。

 女性は三十代後半、男性は二十代前半に見えます。

 男女は全裸で縄によって後ろ手に縛られ、その縄尻を斧を手にした屈強な大男がそれぞれ握っています。

 男女を先導する少年はプラカードを掲げていました。

 レインはプラカードの文章を読みあげました。


「『不倫の罪を犯した者たち。女は貿易商の妻、男はその家に出入りするドラゴントレーナー。二人は市中引き回しののちシティから永久追放される』か」


「さらし者だよ~」


「あ」


 ウッディはとっさに顔を赤らめました。

 裸で引き回されている女と偶然目が合ったのです。

 女はニッコリ笑ってウッディにウィンクしました。


「女の人ってすごいね」


 ウッディの言葉にレインもうなずきます。


「男は今にも死にそうな顔してるのにな」


「あ、ごめんなさい」


 呆然とした面持ちでさらし者の二人を見ていたジョーは、大きな荷物を肩に担いだおじさんとぶつかりました。


「おいグリーンボーイ、ぼやぼやしてっとぶっ殺されるぞ」


 そういい残し、おじさんは足早に去っていきました。


「アニキ、都会はおそろしかとこですばい」


 怖気づいたジョーがレインにしがみつきます。


「よし、そろそろ行こう」


 レインは開いた黒革の手帳を見ました。


「治安警護本部に行き、シズエ・ハラ本部長に会ってください」


 「お客」からの指示でそう書かれていました。





「すげえ……」


 今度感嘆の声をもらしたのはレインでした。

 レインが見あげる先に、真っ黒な巨大な城がありました。


「これが真ん中の国の治安警護本部……ああ、ちょっと」


 レインは通りかかった白い制服を着た若者に本部室の場所を尋ねました。


「本部室? おまえらみたいのが本部長に会うのか?」


 胡散臭そうにレイン一行をじろじろ眺め「一階の案内所へ行け」といい捨て若者は去りました。


「あんたレインさんだね? はいはい名前は伺ってますよ。本部室は十三階ね」


 受付窓口にいたのはよぼよぼのおばあさんです。


「案内するよ」


 おばあさんは椅子から立ち自ら一行を案内しました。


「これに乗っとくれ」


 おばあさんが指さすと壁の一角が音もなく開きました。


「『上昇箱』だよ。わたしの魔法で上まで押しあげるからね」


「ばあさん大丈夫?」


 箱に乗りながらジョーが不安そうに尋ねます。


「大丈夫だよ。去年八百五十回上昇させて、二十三回しか失敗しなかった」


「そんなら平気だね……いや失敗しすぎ!」


 ジョーが悲鳴をあげた瞬間扉が閉まりました。





 チン、と涼し気な音がして上昇箱の扉が開きました。

 そこはとても広い部屋でした。

 扉の正面、はるかかなたにポツンとデスクがあり、そこに人が一人腰かけています。


「どうぞ。こちらにいらして」


 張りのある女性の声が、ガランとした室内にこだまします。

 レイン一行はおそるおそる足を運びました。

 広い部屋にブーツの足音が妙に色っぽく響きます。


「ギャ……ギャ」


 サンディが不安そうにウッディにしがみつきます。

 デスクに座った人の背後に大きな窓があり、そこからさす夕陽を背負ってその人の顔はよく見えません。

 ですがやがて見えてきました。

 デスクにいたのは白い詰襟の制服を着て、燃えるような赤い髪を長く伸ばした美しい女性です。

 一行が近づくと女性は立ちあがりました。


「わたくし治安警護隊シティ本部長のシズエ・ハラです。はじめまして」


 ニッコリほほ笑むシズエ本部長を見てジョーはデレーッと鼻の下を伸ばし、サンディはなぜか「ウウッ」とうなり声をあげました。

 レインとウッディはぼんやりした表情です。

 二人ともシズエ本部長の美しさに圧倒されていました。

 圧倒されつつ、レインはシズエの身体のサイズをすばやく計測しました。


(百七十センチ六十五キロ。スリーサイズは九十、六十五、九十三。年齢はたぶん二十八か九)


「ウッディさんはどなた?」


 シズエがハスキーな声で尋ねます。


「はい、ぼくです」


 ウッディが手をあげます。


「ウッディさん以外のかたは亜人とうかがっていましたが?」


「昨日変身(メタモルフォーシス)した」


 背中の羽根を揺らしてレインが説明します。


「シティは最近亜人いじめがひどいって聞いたからね。おれは妖精のレイン。こいつはゴブリンのジョー」


「どうもっす」


「こいつはサンドドラゴンのサンディ」


「ギャッ!」


「どうどう」


 牙を剥いてシズエを威嚇するサンディをウッディがたしなめます。


「だめだよサンディ」


「みなさんの職業は書記官ですね? シティの書記官は登録制です。これを」


 サンディの威嚇をまったく意に介さず、シズエは落ち着いた物腰で全員に薄い手帳を手渡しました。


「書記官手帳です。町で治安警護人に尋問されたらこの手帳を見せてください。ふてくされた顔で去っていきます。さて、これからみなさんをお家にご案内します」


「え、家を用意してくれたの?」


 レインは驚いてウッディと顔を見合わせました。


「おれたちボロアパートにでも住むつもりだったんだけど」


「寮として使っていた家が空いたのです。それにあなたがたの『お客さま』はわたしにとっても大恩あるおかたなのです。どうぞ遠慮なくお住まいになってください。家まで部下が案内します。ホリー」


「はっ!」


 いつの間にかレイン一行の背後に人がいました。


「ホリー・サンドだ」


 金髪を後頭部で束ねた恵体美女が、敬礼したまま自己紹介します。


(百八十センチ八十キロ。スリーサイズは九十八、七十、百。年齢は十九)


 とレインがまたもやすばやくサイズを測ります。

 ホリーの制服もシズエと同じ白い詰襟ですが、きっちり襟元を閉めたシズエと対照的にホリーは詰襟と上着のボタンを数個外して大胆に乳房をさらしていました。

 下半身は白いミニスカートと白いブーツで、そして腰に剣があります。


「ギャッ」


 サンディはホリーを見るとニッコリ笑いました。

 さっきシズエを見たときと対照的です。

 さらにサンディはホリーの顔をベロッと舐めました。

 ウッディが慌てて止めます。


「あ、こらだめだ」


「きさまらを家に案内する。ついてこい」


 サンディに顔をベロベロ舐められながら、ホリーは表情変えずにそういいました。

 すると


「わたしも行きます」


「え、本部長も?」


 シズエも行くと聞いてホリーはちょっと驚きました。


「ええ。みなさんのお家を一度見ておきたいのです」


 シズエは壁にかけていた剣を手に取り、腰にさしました。


「さ、行きましょう」





「死ね女狐!」


 本部を出てすぐでした。

 夏なのにマントを羽織った痩せた男が突然シズエに突進してきました。

 夕陽に照らされ、男の腰がキラリと光ります。


(刺客だ)


 男は短刀を腰だめにしてまっすぐシズエに突っ込みました。

 レインはとっさに手をかざしましたが男の突進が速く、魔法は間に合いません。

 ウッディも虚を突かれて棒立ちのままです。


(だめだ!)


 とレインが覚悟したときです。

 シズエの前にゆらりと白い影が立ちました。

 動きは速くありません。

 ただ風に吹かれるレースのカーテンのように、白い影は自然にふわりとそこに立ったのです。


「【粉砕】」


 と一言技名をつぶやき、ホリーは腰の剣を抜きまっすぐ振りおろしました。


「やべえ!」


 ジョーは思わず悲鳴をあげました。

 刺客がホリーの剣をすり抜けたのです!

 そのまままっすぐ走り、刺客はシズエの目前に迫りました。


「危ない!」


「ギャッ!」


 ウッディとサンディが同時に叫んだとき、また奇妙なことが起きました。

 刺客が今度はシズエをすり抜けたのです。

 そのままトト、と数歩歩き、刺客はふいに足を止めました。


「ケク」


 刺客が絞め殺されるニワトリのような声をあげた次の瞬間


「うわ!」


 その場にいた全員が悲鳴をあげました。

 刺客の体が爆発したのです!


「魔法剣……」


 とレインがつぶやきます。

 魔法剣は剣術と魔法をミックスした秘術です。


「そうだ」


 レインのつぶやきを耳にしたホリーがうなずきます。


「きさまよく知ってるな。たしかに今のは魔法剣だ。わたしの剣に込めた魔力を刺客に放ち、数秒遅れて発動させた。すぐ発動したらわたしや本部長が巻き添えを食うからな」


 ホリーは軽く剣を振り、鞘に納めました。

 シズエは悠然と笑みを浮かべ、部下を褒めました。


「お見事です、ホリー・サンド捜査官」


「ありがとうございます!」


「本部長ご無事ですか!?」


 そのとき爆発音を聞いた治安警護人が続々現場に集まってきました。

 みんな詰襟の白い制服を着ています。


「わたしは大丈夫です。死体処理をお願いします。さ、みなさん参りましょう」





 本部から歩いて十分ほどの場所にある二階建ての家に荷物を置き、レイン一行は近くの食堂に向かいました。

 シズエが歓迎の宴を開いてくれたのです。

 一行は用意された個室で赤い円卓を囲み、食事やワインを楽しみました。


「アハハハ!」


 酔ったホリー捜査官はサンディにベロベロ顔を舐められ、豪快に笑いました。


「そうかサンディ、きさまそんなにわたしが好きか?」


「ギャッ!」


「アハハ! そうかそうか!」


 また顔を舐められ、ホリーはうれしそうに声をあげて笑いました。


「へへ、ひさしぶりのワインは効くねえ」


 ジョーもご機嫌で、そのとなりで生まれて初めてアルコールを口にしたウッディはボーッとした顔をしています。

 ボーッとしていますが背嚢と不知火丸は手放しません。


「現在わが国の政治は二分されています」


 シズエは静かにワインを嗜みながら語りました。


「レインさんは一年前わが国のウィリアム・ミラー国王陛下がお亡くなりになったのはご存知?」


「そんなことあったっけ?」


 国王の死という重大事件なのに、あきれたことにレインはその事実を知りませんでした。


「亜人のかたは本当に人間の政治に無関心ですね」


 シズエは自分の真っ赤な髪を撫でて苦笑いしました。


「国法に従えば次の国王は亡きウィリアム公のご長男デヴィッド王子で決まりです。しかし議会が強硬に反対しています。議会は軍人あがりの貴族ヴラド・シグナル公を次の国王に推薦しているのです」


「ふ~ん、そのヴラドって貴族はやり手なの?」


「一流の政治家で富裕層に人気があります。軍人あがりですから軍隊もヴラドを支持しています」


「治安警護隊は?」


「もちろんデヴィッド王子を支持しています。われわれ治安警護人は法の番犬ですからあくまで国法に従います。それにわたくしは個人的にヴラドを国王にしてはならないと考えています。ヴラドは法や道徳をまったく意に介しません。今日の刺客もヴラドが放った殺し屋です。わたしはデヴィッド支持派の筆頭格に見られていますから。とにかくおのれの欲望を満たすためなら人の命などなんとも思わない。それがヴラドという男です」


「そりゃヤバい!」


 ヴラドか、どっかで聞いた名前だな、とレインが考えていると


「それから南の地方にナザレのイエスという謎のカルト宗教家があらわれました」


 イエスの名を聞いて、レインはうっすら緊張しました。


「おそるべきカリスマの持ち主で急速に信者の数を増やしています。イエスの信者の多くは異世界からの転生者です。イエスも転生者なのです」


 レインはとっさに旅で出会った転生者たち、アツシ先生や漁村のみんな、それにトロッコに乗ってやってきたダニエルやメロディを思い出しました。


(あの連中もイエスの信者になったのかな?)


「イエスを信仰する者はシティでも急速に増えています。というわけで現在シティはかなり不安定で破裂寸前の風船みたいな状況です。レインさん、あなたがた書記官は町で多くの人に出会いますね? なにかおかしなできごとや不審な人物に会ったらわたしに教えてくださいませんか?」


「書記官が取材内容を客以外にばらすのは仁義にもとる……けどあんたには世話になってるしな。わかった。なんかあったら知らせるよ」


「ありがとうございます」


「アハハ! きさま飲んでるか!」


 ホリーはいきなりレインに抱きつきくと、唇にキスしました。


「プハ―! さあ飲め飲め!」


 厚みがあって暖かな唇が離れてから仲間を見ると、サンディはニコニコ笑っていますが、ウッディとジョーは呆然とした表情で椅子に寄りかかっています。

 ほかのみんなもホリーに唇を奪われたのです。


「アハハ!」


(都会はおそろしかとこですばい)


 小声でそうつぶやきながら、レインはワインをちびちび啜りました。


いかがだったでしょう。

次回13話は9月27日(日)朝5時投稿します。

どうぞお楽しみに!

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