第11話 ファッションショー
今回4700Wになりました。
どうぞお楽しみください。
「亜人なんて泊められないよ。行った行った」
宿の主人にシッシッと野良猫のように追い払われ、ゴブリンのジョーは歩きながらぼやきました。
「シティが近づいてきたら亜人への風当たりがきつくなってきやがった」
「田舎より都会のほうがいろいろ偏見ひどいからな」
ウッディの肩に腰かけうなずく妖精レインにジョーが尋ねます。
「なんでそうなるんだろうね? 都会のほうが進んでる印象あったけど」
「景気悪いんじゃねえ? 景気悪くなると亜人いじめがひどくなるってむかしからいうぜ。とくに都会は生存競争が激しいからいじめかたもよりひどくなる」
「なるほどね。要するに八つ当たりだ」
「日が暮れてきた」
レインは空を見あげて決断しました。
「しようがねえ、今夜は森で野宿しよう」
森の中で休むのにふさわしい空き地を見つけると、ジョーは大きく伸びをしました。
「やっぱ森ん中は落ち着くぜ」
ウッディは背嚢をおろすと中からてのひらサイズの石を二個取り出し、それぞれ木の洞に置きました。
すると空き地がパアッと明るくなります。
ウッディが木に置いたのは自律して光る光石です。
光石はまわりが明るくなったり持ち主のウッディが眠りにつくと、自然に暗くなります。
「おれたちは飯食わなくて平気だけど、ウッディどうする?」
「この中にあるよ」
ウッディはまた背嚢に手を突っ込み、そこからパンと果物とチーズのかたまりを取り出しました。
「いただきま~す」
「ウッディの背嚢ってなんでもあるんだね」
とジョーが感心します。
「クー」
「お~いサンディ、まだ寝るなよ」
レインは眠そうな顔をしたサンドドラゴンのサンディの鼻先に腰かけました。
「このあとやることあるからよ」
「やることって、なにやるのアニキ?」
とジョーが質問したときです。
「やあレイン、ひさしぶり」
ひらりと宙を舞って闇の中からあらわれたのは、花のように可憐な顔立ちの妖精です。
「ようジュン!」
レインが懐かしそうに笑います。
「この森おまえの縄張りだったのか」
「そうだよ。レインこんなところでなにしてるの?」
木の枝に腰かけ親しげに会話する二人の妖精を見て、ジョーがボソッとつぶやきます。
「きれいな妖精さんだ……」
「ジョーこいつに惚れんなよ。こいつ男だぞ」
「へ?」
「レインよけいなこといわないでよ。黙ってたらわからないのに。ね?」
ジョーに向かってウィンクし、それからジュンは心配そうにレインに忠告しました。
「これからシティに行くの? やめたほうがいいよ。最近のシティは亜人に対する風当たりがものすごくきつい。ついこの間ドワーフの工房が燃やされたし、エルフの女の子も理由なく殴られた。亜人に関していい話聞かないよ」
「でも仕事で向こうに行かなきゃならねえ。そこでおれたち今から人間に化ける」
「化ける?」
レインの発言を聞いたウッディとジョーは顔を見合わせました。
「変身さ。人間に化けたら裸でいられないから今から自分に似合う服を見つけて、それを着てみんなに採点してもらう。ファッションショーさ。ジュンも手伝ってくれ」
「変身!」
と叫んでジョーはゴブリンから人間に変身しました。
緑の髪に緑の瞳、それに尖った耳にゴブリンらしさを感じますが、それ以外は完璧に人間です。
「身長百六十センチ体重五十キロってとこだな」
レインが変身したジョーの体格を計測します。
「どんなもんだい!」
「ジョー、もう人間なんだからフルチンで胸張っちゃだめだ。ジュンが恥ずかしがる」
「あ、ごめん」
慌てて前を隠すとジョーはウッディの背嚢に手を突っ込みました。
「えーと、服とズボンと……これでどうだ!」
ジョーは山高帽をかぶって黒いスーツに赤いネクタイを締めて登場しました。
胸ポケットに赤いハンカチを挿し、足もとは黒い革靴です。
「お洒落な都会人って感じだろ?」
「かっこいいよ」
とウッディ。
「クー」
とこれは相変わらず眠そうなサンディ。
「だめだぞウッディやさしさは批評を殺す。ちゃんと『そんなチンドン屋みたいな恰好はやめろ』っていわなきゃ」
「チンドン屋ってアニキぃ」
「その恰好で旅するのはつらいよ」
ジュンがアドバイスします。
「ジョーくんはボーイッシュだからさっきまで履いてた半ズボンが似合うよ」
ジョーはジュンが背嚢から取り出した服に着替えました。
「どうだいアニキ?」
「白Tシャツにベストタイプの黒い革甲冑、黒革の半ズボンに緑革のショートブーツ……合格!」
「緑のブーツがポイントだよ。髪と瞳の色に合わせた」
ジュンが得意そうに解説します。
「かっこいいよ」
ウッディも手を叩きます。
「いっとくけどこれはお世辞じゃない」
「クー」
「やったあ!」
「よし次はサンディだ」
「サンディ?」
レインの発言を聞いたウッディが首をかしげます。
「サンディをどうするの?」
「都会では亜人だけでなくドラゴンのような霊獣もいじめられる。だからおれの魔法で今からサンディを人間に変身させる。まあ見てろよ」
「変身!」
レインが呪文を唱えるとサンドドラゴンのサンディは青い光に包まれました。
光が消えると四足歩行の竜は、二本足で立つ女の子になりました。
「身長二メートル体重百二十キロってとこだな。そこらへんの女剣闘士よりごついぞ」
レインがまた律儀にサンディの体格を計測します。
髪と瞳が灰色で、そこにサンドドラゴンの名残りがあります。
いえ名残りはもう一つ、決定的なものがありました。
「頭にツノが二本残ったままだ」
ジュンが呆れたように首を振ります。
「レインこれじゃドラゴンとバレるよ?」
「いいんだ、サンディは東方民族の末裔って設定にする。ジョー、尖り耳の理由を聞かれたらおまえも東方民族の末裔と答えろよ」
「わかった」
「ギャ? ギャ」
まだ人間の言葉を発語できないサンディが、ふしぎそうに裸の自分の体を見まわします。
「すげー巨乳だ」
興奮したジョーは鼻の穴をふくらませました。
「尻もでけえ。こりゃたまんねえや」
「体はすごいけど顔は新米巫女のように可愛いね」
ジュンに褒められサンディは
「ギャッ♡」
と歓声をあげました。
発音できなくても言葉はわかるのです。
「サンディは人間の年齢でまだ四~五歳のはずだが、今の見た目は十四五歳って感じだな。年頃の女の子をいつまでも裸にしてられねえ」
レインは背嚢から服を取り出し、ウッディと一緒にサンディに着せました。
「ギャ! ギャ!」
レインが与えた青いドレスを、サンディはあっという間に引き裂きました。
「ギャッ!」
「だめかあ」
「ドラゴンはもともと裸だからうっとうしいんだよ。コーディネートはぼくにまかせて」
ジュンは背嚢から別の服を取り出しました。
「どうかな?」
ジュンが与えたのは黒革のブラジャーと黒革のホットパンツ、そして黒革のブーツです。
サンディは新たに身に着けた服をしきりに撫で回し、それからいきなり長い舌でベロッとジュンを舐めました。
「ギャッ!」
「ハハ、くすぐったい」
「気に入ったみてえだ」
レインはウッディの肩から飛び立ちました。
「よし、最後はおれだ」
「変身!」
呪文を唱え、レインは人間に変身しました。
青い光が消えて空き地にあらわれたのは金髪碧眼に甘いマスク、スマートな体格の若者です。
年齢は二十歳ぐらいに見えます。
「百七十センチ六十キロってとこだな」
素っ裸のレインが律儀に自分の体のサイズを測定します。
「レイン背中に」
ウッディは相棒の背後を指さしました。
「羽根が生えたままだよ」
「羽根は消せねえんだ。このままにしとく。おれも東方民族の末裔って設定にするよ。シティの連中はそれで納得する……はずだ」
「シティの人って東に対する偏見ひどくない?」
ウッディがあきれている間にレインは背嚢に手を突っ込み、ジュンとあれこれ相談しながら自分の服を見繕いました。
新しい服に着替えるとレインは最初に相棒に尋ねました。
「どうだウッディ?」
「白いシャツにベスト型の赤い革甲冑と赤い革ズボン、赤いブーツ……いいね!」
ウッディは親指を立てました。
「シャツと革甲冑は背中に切れ目が入った妖精仕様になってるんだ」
レインと一緒に服を選んだジュンが得意そうに語ります。
「ジョー、サンディ、おれの服どうだ?」
「かっこいいよアニキ!」
「ギャッ!」
サンディはレインに抱きつくと顔をベロベロ舐め回しました。
「うわよせ……ジュンありがとな。いいエキスを手に入れたんだ。今夜はここで宴会にしよう」
レインはまた背嚢に手を突っ込むと人数分のエキスを取り出し、全員に渡しました。
サンディはもらった細く短い棒をふしぎそうに眺めています。
「こうやるんだ」
レインがクンクン棒の匂いを嗅いでみせると、サンディもすぐ真似しました。
「あ~きたきた」
「ギャッ……」
レインとサンディはたちまちうっとりした表情になって草地に横になり、夜空を見あげました。
「たまんねえ……」
「うん、これ上物だね」
ジョーもジュンもすぐ陶酔し、さらに今夜はこの前無反応だったウッディまでエキスにはまりました。
「あ~これいいね~」
エキスの匂いを嗅ぎながら、ウッディも夜空を見あげます。
若者たちはそれぞれ静かに陶酔しました。
どこかで虫が鳴いています。
それは十四歳のウッディが、初めてなにかに依存する愉しみを知った夜でした。
「ハハすげえ」
トリップしたレインが笑います。
「夜空が流れ星で埋まってる。すげえ幻覚だ。みんなはどうだ?」
「おれの夜空では星がグルグル渦巻いてるよ」
とジョー。
「ぼくの夜空ではあらゆる星が爆発してる」
とジュン。
「ハハ! ジュンがいちばん過激だな」
「ギャ! ギャ!」
トリップしたサンディにも夜空の異変が見えるようです。
「ギャ!」
「ウッディはどうだ?」
「……城が見える」
「城?」
こいつへんなこといい出したな? とレインは相棒の顔を見ました。
「たぶん東国の城だ。石垣の上に城が建ってる」
「東国の城……あ」
レインはにわかに緊張しました。
(ウッディの記憶が甦った)
ウッディはレインと出会った十一歳以前の記憶をすべて失っています。
その記憶の一端が、トリップでしたことで甦ったのです。
「今ぼくはお城の天守閣にいる」
ウッディが淡々と語ります。
「城が燃えていてぼくは炎に囲まれてる。ぼくのそばに女の人がいる」
「どんな女だ?」
「きれいな大人だ。それから、あれは……」
そこでウッディの言葉は途切れました。
「ウッディ?」
レインは相棒との対話をあきらめました。
スヤスヤ寝息が聞こえてきたのです。
翌朝レインは目を覚ましたウッディに昨夜のことを尋ねましたが、ウッディは何も覚えていませんでした。
自分が見た幻覚も忘れたのです。
「しようがねえ。ジュンおれたちもう行くけどさ」
レインは旧友を旅に誘いました。
「一緒にシティに行かないか? こんなしけた森にいるよりずっといいぜ」
レインに続いてウッディとジョーも妖精を誘います。
「そうだよ一緒に行こう」
「アニキといると毎日冒険で楽しいぜ!」
「ギャッ!」
「みんなありがとう。でもぼくには……」
「ジュン待った?」
そこにひらりと宙を舞い、一人の妖精があらわれました。
黒髪に黒い瞳の、なかなかハンサムな顔立ちの妖精です。
ハンサムな妖精はジュンの頬にチュッとキスし、それからレイン一行に頭をさげました。
「こんにちは」
「紹介するよ、ぼくのパートナーのチャーリー」
「なんだ恋人いたのか」
「レインよりずっとハンサムだ」
とウッディがからかいます。
するとジュンがいいました。
「ありがとう。でもチャーリーは女性だよ」
「え?」
「混乱させてごめん。ぼくたちいろんな森を管理しながら旅してるんだ」
「まあ恋人が一緒なら心配ねえな。おれたち当分シティにいるから暇なときは遊びにこいよ。じゃあな」
レインは手を振り仲間ともに空き地を去りました。
「気をつけて」
ジュンとチャーリーも手を振ります。
こうしてウッディと背中に羽根を生やしたレイン、耳が尖ったジョー、そして頭に二本ツノが生えたサンディの奇妙な一行はそれぞれ二本足で歩き出しました。
大都市シティはもう目の前です。
いかがだったでしょう。
次回第12話は9月20日(日)朝5時投稿します。
お楽しみに!




