53.王都での邂逅
昨日は王宮で長男アルデルトの公爵位の拝命式とティナの公爵代理の任命式があった。ティナは公爵家へ嫁いでから一度も王都に行ったことがない。今回は久しぶりの王都である。
難しい式典が終わり、今日はゆっくり羽を伸ばすことができる。久しぶりに王都を散策することにした。そして、久しぶりに王都の実家を訪ねた。ティナが実家の扉を開けると父がハンマーを持つ手を止めて、驚いた顔をした。
私が子供たちを順番に紹介した。孫を見せるのは初めてである。
「久しぶりに王都に来たの。長男のアルデルト11歳、長女のカルナ9歳、次女アンナ7歳、次男ミシェル5歳、三女レノア3歳です。みんなお祖父ちゃんよ」
「おじいちゃん、初めまして」
父は私の子供たちを見ると嬉しそうに破顔した。
しばらく実家で歓談した。弟夫婦も交えて近況を語り合った。
その後、花時計のところに行った。そして花時計のことを子供たちに説明した。
「この花時計は、ずっと昔からあるのよ。それこそ私のおじちゃんの子供頃にはもうあったそうよ。私が小さい時はいつもこの花時計の前の広場で遊んだのよ。
この花時計は私たちを見守っていてくれているから、ここで遊ぶと人さらいに会わないのよ。私たちの守り神なのよ。だから、私はうれしい時や悲しい時はいつもここに来て花時計に祈ったのよ」
子供たちも花時計が珍しいようで、近寄って眺めている。そして、中央に建てられた棒を見て、
「この棒は何のためにあるの」
「この棒はね、この棒に太陽の陽が当たると影が後ろの版に映るの。太陽が動くと影も動くの、すると時間が分かるのよ」
「そうなんだ、すごいね」
そうやって、子供たちと花時計を眺めていたら、私たちと同じように花時計を見に来た家族連れがあった。見ると、ジェフだった。
随分年を取っているがすぐにジェフだとわかった。昔の面影がそのままだ。整った顔、すらっとした体形、少し太ったように思うがそれでも昔のままだ。
とたんに子供頃の記憶がよみがえる。懐かしい思い出が走馬灯のように脳裏を流れて行く。ここで遊んで、ここで泣いた。そして一緒に花時計に祈った。そして、一緒に学院に通い、そして分かれた。
しばらく無言でジェフを見つめていたら、隣の女性から声を掛けられた。
「お久しぶりティナさん。私セリーナですよ。憶えていますか」
そうだった。今ジェフはセリーナさんと結婚しているのだ。とたんに現実に引き戻される。2人の間には子供もいる。上の子は私の長女カルナと同じくらい。そして下の子は、私の次女アンナと同じくらいの年だ。
もうジェフと遊んだ頃のティナではないのだ。もうお互い違う人と結婚して子供もいる。そして違う人生を歩んでいるのだ。
「お久しぶりです。セリーナ様、ジェフ、ええーと、ジェフは伯爵家に婿入りしたからジェフ様かしら」
「気を使わないでいいよ。俺はジェフでいいよ。そちらこそ公爵夫人だからティナ様かな」
「私は相変わらずティナでいいわ」
すると長男のアルデルトが
「こちらの人たちはお母様のお知り合い」
「私とセリーナ様とジェフは学院の同級生なのよ。それと私とジェフは家がこの近所で一緒に遊んだ幼馴染なの」
「そうなの、私は長男のアルデルト、父が死亡したのでルーリール公爵家当主となりました」
それから私たちはお互いの子供たちを紹介した。そして、昔の思い出話に花を咲かせた。それをお互いの子供たちが興味深そうに聞いていた。
そして、そんなティナとジェフの様子を花時計が静かに見つめていた。
(セピア色の写真)
(ここはティナとジェフのいた世界とは違います。しかし、ここも現実世界と違う異世界という設定です)
○○駅は○○から〇〇分、便利でいいが、電車は走っていなくて機関車が客車を牽引する。客車もぼろくって、4人がけの向かい合って座るシートには、隙間風がいっぱい入ってくる。夏は涼しいので窓際の席に座るが、冬は寒いので通路側の席に座って震えている。
またその駅の待合室の冬の暖房はストーブ、煙を出す煙突が窓の外に出ている。駅の前の郵便ポストは赤い円柱のポスト、さらに休日には国旗が掲げられる。いつの時代にタイムスリップしたのかと思ってしまう。
ティナとジェフの思い出もこの写真のようにセピア色に輝いているのかもしれない。




