51.公爵家を継ぐ者
ティナが5人目の子供を産んでから、夫ネーポムクの体の体調がおかしくなった。まだ40歳なのだから、年を取ったといっても十分生きられる年齢である。
しかし、弱気になったのか、今後のことを話しておくと言って、私や子供たちそして家令のハンスとメイド長のメアリーを集めた。
「私が死んだら、この公爵家は長男の、アルデルトが継ぐ。もしアルデルトが成人していない場合は代理としてティナを公爵代理とする」
するとハンスが
「おそれながら、ティナさんはこの公爵家のことを何も知りません。公爵代理となるのは無理ではありませんか」
「ハンスお前は、俺の意見を無視するのか。ティナは有能だ。十分公爵代理が務まる。それに、アルデルトは今10歳、15歳になれば、成人して正式に公爵となる。私もあと5年ぐらいは生きる。安心しろ」
「わかりました」
ハンスも口では了解したと言っているが、顔は笑っていない。心の中は何を考えているのか分からない。ティナとしては公爵家のことはどうでもよかったが、子供たちが路頭に迷うのだけは避けたかった。このまま夫であるネーポムクに長生きしてほしいと思った。
その年の暮れも夫であるネーポムクは嫌々ながら王都のパーティーに出掛けて行った。王都から帰ると、ティナはこれまでは関与したことがない領地経営のことにも関わるようになった。
夫はあれ以来、体のことは何も言わない。体調がいいのか悪いのか、これまで、夫のそんな表情を気にしたことのなかったティナだったが、さすがにここで夫に死なれては困る。日々の夫の体調の変化を気にするようになった。すると、わずかだが、時々蒼い顔をしている時があるのが分かった。
夜寝室で、ティナは夫に聞いてみた。
「ネーポ、貴方は時々蒼い顔をしているときがあるけど、体調が悪いの」
「ティナは気づいたか」
「はい」
「そうか、それなら言っておくか、あれは魔力過多だ」
「魔力過多?」
「そうだ、俺は魔力が多い。時々魔力が暴走する時がある。俺は3度結婚して3度離婚したと言ったな」
「はい、聞きました」
「子供が出来なったからだ。俺の魔力に当てられると普通の女性は子供が出来ない。それまでの妻は俺と一緒に居ると時々苦しそうにしている時があった。しかし、ティナにはそれがなかった。だから子供が出来るのではないかと思った。そして、子供が出来た。ティナには感謝している。若し俺に何かあったら子供たちを守ってやってくれ」
「わかりました。子供たちは私が守ります」
無理やり嫁がされた公爵家だったが、夫は悪い人ではなかった。優しいところもある。公爵家では貴族の煩わしいことには関与しなくてもよかった。子供たちのことに専念させてもらっている。夫には感謝している。
「それから言っておくが、ハンスとメアリーはお前を平民と侮っているので注意しろ。最悪彼らを解雇することも視野に入れろ。それから公爵家の公印は俺が死んだらお前しか扱えないようにしておく」
「そんなことできるのですか」
「出来る。手を出せ。そこに公印を乗せる。そして魔法をかける」
ティナが手を出すと、そこに公印が乗せられた。そして、ネーポムクが呪文を唱えると、膨大な魔力が流れ込んできた。一瞬気絶しそうになるがやっとの思いで耐えた。
すると、ネーポムクが「ニヤ」と笑って
「やっぱり、お前は魔力耐性があるな。普通の人間なら気絶しているだろう。これは一定以下の魔力量の人間が触ると気絶するようになっている。この公印は手に持たないと押せないようになっている。だから一定の魔力量以下の人間では扱えないのだ。これでこの公印を扱えるのは俺とティナだけになった」
「もし、アルデルトが扱えなかったらどうします」
「その時はアルデルトが扱えるようにまた魔法をかけ直す」
その後、アルデルトにその公印を扱わせてみたら問題なく扱えるようである。これでこの公印を扱えるのは夫のネーポムクと妻のティナ、それに長男のアルデルトの3人となった。
それから1年ほどしたとき、夫ネーポムクが急に倒れて帰らぬ人となった。




