49.子供との距離
それから7か月ほどしてティナは出産した。元気な男の子であった。目はライトブルー、髪は金髪、公爵にそっくりである。一目で公爵の子供と分かる。公爵は大喜びである。名前はアルデルトと付けた。そして、すぐに長男誕生の届を王宮に出した。
子供を前にするとティナも母になった喜びをかみしめた。母になるとはとはこんなにも幸せなものだと初めて実感した。時々ジェフのことが頭をよぎるが、それはもう過去のことのように思う。今は我が子大事である。
普通上位の貴族は自分で子育てをしない。生まれた子供は乳母やメイドに任せるようだが、ティナはこの子を自分で育てたいと思った。公爵に言うと「公爵夫人の仕事はしなくていいから好きにしろ」と許してくれた。それで乳母を雇わず自分で母乳を与えることにした。しかし子供を産んだばかりで、体力がないのでメイドがその補助をすることになった。
しかし、付けられたメイドはティナにあまり従順でなかった。そこで公爵に「平民のメイドを雇ってほしい」とお願いした。すると公爵はすぐにメイドを変えてくれた。
ティナの毎日は長男アルデルトの世話から始まる。そして授乳、おしめや服はメイドが洗ってくれる。ティナは幸せだった。公爵家のことは何もしなくてもいい。ただ子供のことだけしていればよかった。
長男が1歳になるころ、またティナは妊娠に気が付いた。最初は子供の世話を出来たが、お腹が大きくなってくるとだんだんと子供の世話はメイドたちの仕事になっていった。
そして長男が2歳になるころに長女を出産した。子供が2人になるとさすがに、長男の世話はメイドたちの仕事になっていった。メイドが居るからいいとは思うが、子供と関われないのは寂しかった。
長男が3歳になるころ、またティナは妊娠に気が付いた。そして、その頃から始まった長男のしつけや教育は専任の侍女が雇われた。なぜか子供が遠くへ行ってしまったようで寂しかった。そうやって、ティナが子供産むたびに、子供との距離は開いて行った。
貴族の子女は7歳になるとお披露目のパーティーが行われる。長男アルデルトの7歳のお披露目パーティーは派閥の寄子を集めて領都の公爵邸で行われた。その時は是非とも参加したかったが、お腹に子供がいたので、最初の挨拶だけで、後は部屋に戻った。だから、ルーリール公爵家にどのような寄子がいるのかよくわかっていない。まして、その顔などは分からない。
そしてティナが5人目の子供を産んだ時、8歳になった長男アルデルトのしつけと教育は専任の侍女と家庭教師に完全にとって代わられた。
ティナの居場所はこの公爵邸では少ない。公爵家の仕事は夫であるネーポムクが家令のハンスと相談して決めている。
屋敷の中の仕事はメイドの採用を含めて名目上ティナの仕事であったが、メイド長のメアリーがティナと相談することなく決めている。
これに異議を唱えることもできるが立て続けに妊娠したこともあり、ただ了承する形となっている。唯一できたのは平民のメイドの雇用である。
ティナは最初の出産以降自分や子供の周りのメイドにはすべて平民を雇用してきた。メイド長のメアリーが公爵に文句を言ったようだが、公爵は「ティナにストレスがかかっても困るので、ティナの好きなようにさせろ」と取り合わなかったようだ。
ただ、長男アルデルトの家庭教師と侍女は公爵が決めてきた。ティナは貴族の子女のしつけや教育が出来る人間に心当たりがなくこれは仕方がなかった。
貴族の付き合いは全く分からない。公爵の方針もあって、ティナはパーティーとかお茶会とかに行ったことがない。公爵もそういう付き合いは苦手のようで、ほとんど領地に引っ込んで王都には行こうとはしない。年1回の王都の年末のパーティーにはいやいや参加していくが、それが済むとすぐに帰ってくる。
また、領地でも寄子を集めての派閥のパーティーが夏にあるが、ティナは参加したことがない。




