47.伯爵令嬢の提案
もうティナと結婚することはできないと悟ったジェフは、しばらく何も考えられなかった。空白の日々が続いて行く。そんなジェフの様子を心配した父親がセリーナ様の屋敷を訪ねた。
「お父様はジェフをどうしたいと考えていますか」
「私はジェフに幸せになってほしいと思っています。ジェフは小さい時から頭がよくて、何でもすぐに覚えるので学院の試験も通るのではないかと考え、家庭教師をつけました。
そして学院の試験に受かった時はとてもうれしかったです。私としては学院を卒業したら家業の商会を継いでほしいと思っていました。
ところがジェフは学院を卒業したら王宮の官吏になると言い出して、見事試験も通りました。そこまでは順調でした。
しかし、その後『貴族令嬢に言い寄られた』と言っていました。ジェフにはティナという幼馴染があります。お互いに好き同士というのは私も分かっていました。
ジェフが貴族令嬢の話を断ったと聞いた時は、『あっそうか』それぐらいの気持ちでした。しかしジェフの赴任先を聞いた時、『ジェフが断った時のことが尾を引いている』と悟りました。
『もうこれ以上問題を抱えたくない』と思いティナさんが両親と来た時はつれなくあたりました。その結果がこれです。私はどうしていいのか分からなくなりました」
「そうですか、そうですね。平民が貴族と付き合っていくというのは大変なことです。平民は貴族に言い返せません。貴族の言うことは命令と同じです。
もし、平民が貴族に対抗しようとすれば、貴族と同じ力を身に着けるか貴族の後ろ盾を持つことです。ここから先のことはジェフとも話し合って決めたいと思うので、今度ジェフを連れてきてください。私も父と話をしておきます」
しばらくして父親とジェフは再度セリーナ様の屋敷を訪ねた。すると今度はセリーナ様だけでなくその父親の伯爵様も同席することになった。
これには驚きである。セリーナ様は何回か会っているうちに慣れてきたが、その父親である。サンシッソンヌ伯爵家の当主である。驚愕して顔を上げられない。すると、
「そんなに緊張しなくていい。私はサンシッソンヌ伯爵家の当主クラウスだ。娘からジェフ君の事情は聞いている。もし、ジェフ君が王都に戻りたいというなら、力になる。その前に確認したいことがある。ジェフ君はもうティナさんと結婚するのはあきらめたのだな」
「はい、もうティナのことはあきらめました。相手が貴族、それに子供を産んだのであれば、もう離縁されることもないでしょう」
「そうか、それでジェフ君は結婚する気はあるのか」
「私がですか。私は自分の結婚相手はティナと思っていましたが、ティナが結婚した今となっては、どうでもよくなってしまいました。今はあえて考えないようにしています」
「ジェフ君は兄弟は弟がいるのだよな」
「はい、弟がいます。私が王宮官吏になったのは、家は私が継がなくても弟が継げばいいと考えたからです」
「単刀直入に聞く、わしの力をもってすればジェフ君を王都に呼び戻すことが出来る。しかし、それをすると、以前ジェフ君に声をかけてきた男爵令嬢が動くと思う。貴族に対抗するには貴族の後ろ盾が必要だ。それなくして王都に戻ればジェフ君はつぶされると思う」
そう言ってクラウス伯爵様は一息ついた。次の言葉を待ってジェフとその父親は身を乗り出した。しばらくして
「これは娘の提案なのだが、ジェフ君は成績がよかったそうじゃないか。何でも学院の卒業時の試験は全体で40番だったと聞いた。その後官吏になってからも今の職場でも優秀と聞いている。若し、ジェフ君がセリーナと結婚して、わが家に婿に入るというなら、君を王都に呼び戻そう。サンシッソンヌ伯爵家の婿となれば男爵令嬢ごときでは手も足も出ないだろう」
これにはジェフもその父親も驚きである。セリーナ様の顔を見ると
「私も、ジェフさんのことは気に入っていたのですよ。ただ、隣にティナさんがいたから、ティナさんに悪いと思って声をかけるのをやめていたのですよ」
貴族の提案に平民が逆らえるわけもなく、また、これまで親身になってもらったセリーナ様の提案ということでジェフと父親はこの結婚を了承した。そしてこの日セリーナとジェフの婚約が整った。




