44.悲しい結婚1
その日ティナの家に激震が走った。フラン王国の貴族がティナを嫁に欲しいと言ってきたのだ。相手は貴族、断るわけにはいかない。どうしたらいいのか分からない。今は家令の人が来て、綴り書きを持ってきた段階だ。
父が
「貴族の結婚についてはよくわからないので後日返事する」
ととりあえず返事は保留にしてくれた。
どうしたらいいのかよくわからないので、またセリーナ様のところへ行くことにした。今度は父と母も行くことになった。伯爵邸を訪ねると、門番の人に「またですか」と言われたが、またセリーナ様の予定を聞いてきてくれた。今回もすぐに会ってくれた。
セリーナ様の部屋に行くと、セリーナ様が
「家族そろって来たということは、今度はティナさんのことですか」
「はい、今度は私に結婚の話がきました。今綴り書きをもらった段階で、返事はしていません。私たち平民は貴族のことがよく分からないのでどうしていいか分からないのです」
「それで、どんな人から結婚を申し込まれたのですか」
セリーナ様に先日預かった綴り書きを見せると、セリーナ様の顔が曇った。
「これは難しいですね。このネーポムク・ルーリールという人はフラン王国では有名な人です。この人は公爵家の当主ですが、子供が出来ないということで妻を3度替えています。
1度目は侯爵令嬢でした。2度目は伯爵令嬢、3度目は男爵令嬢でした。もう貴族でこの人に嫁に行く人はいないだろうと言われていた人なのです。貴族なら断られるということで今度は平民にしたようですね」
「すると私も子供が出来なかったらすぐに離縁されるということですか」
「そうですね。それに3度結婚して3度離婚しているのですよ。子供が出来ないのは妻のせいではなく、たぶんその公爵にあると思うのですが、本人はそれを認めたくないのでしょうね」
「そんな人、断るわけにはいかないのですか」
「貴族だと寄り親がいます。だから、嫌なら、その寄り親から返事してもらえばいいと思います。それにそんな問題のあるような人だと、寄り親の方から『断れ』というと思います。しかし、平民だと保護している貴族はありませんから、ある意味自由に結婚を申し込めます」
「もし、断ったらどうなります」
「そうですね、ティナさんどころか家族にも影響が出ますね。それに下手をすればジェフさんの商会にも影響が及ぶかもしれません」
「断れないということですか」
「そうですね。結婚して、子供が出来なくて離縁される。そんな未来が見えますね」
「それにしても変ですね。どこでティナさんのことを知ったのか不思議ですね。ティナさんは貴族の参加するパーティーとか行ったことありませんよね」
「ありません」
「するとジェフのことが尾を引いているのかもしれませんね。ここからは推測ですが、誰かがジェフのことを気に入って、ティナさんが結婚すれは、ジェフも結婚すると思ったのかもしれませんね」
「そんなことあるのですか」
「分からないわ。ただ、貴族は陰湿で妬み深いということです。それだけは肝に銘じておいた方がいいでしょう」
結局、セリーナさんに相談したけど、貴族社会の陰鬱さを垣間見ただけで、いい案は出てこなかった。唯はっきりしたことは、この話を断れば影響がティナだけでなく家族やジェフの商会にも及ぶということだ。
父は「いやなら断ってもいい」と言ってくれたが、そんな事をしたら、私たちがこの国で生きていけない。それに影響がジェフの商会に及ぶ。それだけは嫌だった。
結局、ティナはこの話を受けることにした。
その後、ティナはいつもの花時計のところに行って
「私も結婚することになった。これでもうジェフとは………」
と言って、報告した。淡々と報告するつもりだったけど、途中から涙があふれて最後の言葉は言えなかった。
それから、ティナはジェフに渡すブローチを作った。自分の出来る渾身の技を込めて、最高の物を作った。これをジェフに持っていてほしかった。もうジェフと一緒に歩む幸せは諦めたけれど、ジェフには幸せになってほしかった。そのそばに自分の代わりになる物があれば、自分はそれだけで幸せな気持ちになれる。そう思った。
それから1週間ほどして家令の人が返事を聞きに来た。ティナは
「この結婚受けます」
と返事した。




