30.新学期と剣術の授業
期末休暇はティナは工房の手伝い。ジェフは商人の修業。たまにジェフがティナの家に来て話をする。そんな感じで過ぎていった。
そして、期末休暇が終わって、新学期が始まった。また、いつもの日常と思ったら、期末試験の結果が150番前後だった人は、家で休みがなかったそうです。
貴族だと家で家庭教師をつけられて朝から勉強漬けだったそうです。そのせいかその人たちは真剣に授業を聞いています。悲壮感が伝わってきます。
何でも、年度末試験で成績が悪いとクラス落ちするそうです。私は110番だったので、年度末試験もこれくらいの成績ならCクラスで、クラス落ちはしないと思います。
不安になってジェフに聞いてみたら
「ティナは、今の成績ならクラス落ちはないと思うよ。クラス落ちしなければ引き続き授業免除だろう」
「そうだ。私の場合クラスがどうのというよりは、授業料免除を心配しないといけないのだ」
それで、私も真剣に授業を受けることにしました。とにかく先生の言うことは片言も聞き漏らさない。大事なところは理屈が分からなくてもすべて丸暗記。同じ問題が出たら解ける。それだけでいいのです。
前回の試験もそうでしたが、学院の試験では、授業で習ったことをどれくらい理解しているかを調べるための試験なのです。全く違った問題は出ないのです。
だから問題と解き方を丸暗記していれば、理解はしていなくても問題は解けるのです。そうは言っても全く同じ問題が出るわけはなく、数値は少し違っているので計算だけはしなければなりません。それくらいは出来ます。計算は得意です。
でも、季節は春、温かな日差しに、心地よい風が吹いてくる。難しい授業が子守唄に聞こえます。睡眠環境は万全です。瞼が重たくなってきます。
そんな時は決まってジェフを見ることにします。すると眠気が飛んでいきます。
「私はジェフが好き」
そう思うだけで眠気が飛んでいきます。
すると、時々、ジェフと目が合って、ドギマギする時があります。そんな時は下を向いてしまいます。顔が赤くなっていないか心配ですが、そんな余裕はありません。
剣術の授業ですが、私たち平民組もやっと素振りを卒業して、2人で向かい合って、木剣を構えるようになりました。しかし、ジェフは男の子、マイクと剣を交えています。ルナとレムは当然私を相手にしてくれません。
1人でポツンとしていたら、ヨハン先生が、貴族の女子のところへ連れて行ってくれました。
「おい、お前らティナも交えてやってくれ。これから平民も素振りを卒業して、今日から剣を交えることにした」
「剣を交えるのは初めてですが、よろしくお願いします」
そう言って、頭を下げた。
「ティナでしたっけ、剣を交えるのは初めてなのですよね」
「はい、以前『腕を見たい』と言われて冒険者の人と対峙した時は、一瞬で転がされて『剣は無理だ。魔法にしろ』と言われました」
「そう、その程度なの。怪我をしないようにね」
するとヨハン先生が
「半年間も素振りしてきたんだ。少しは上達しただろう。おい、アリーヌ、ティナと剣を交えてみろ」
「わかりました、でも手加減はしませんわよ」
「よろしくお願いします」
アリーヌさん、男爵家のご令嬢の人と木剣を構えて対峙した。
ヨハン先生が
「始め」
と言われて試合が始まった。
アリーヌさんがどのような攻めをしてくるのか分からないので、最初はとにかく相手の剣を見ることにした。アリーヌさんは剣を上段に構えると、そのまま距離を詰めて剣を振り下ろしてきた。
私は素早く後ろに下がって剣をよけた。アリーヌさんの剣が空を切った。すると振り下ろした剣の勢いにアリーヌさんが体勢を崩した。
それを見て私は踏み込んで一瞬で距離を詰めた。そして、斜め45°から腹を狙って剣を振り下ろそうとしたが「若し貴族に怪我をさせると恨まれる」と思い、剣を放して、アリーヌさんのお腹を手でたたいた。
これにはアリーヌさんだけでなく、ヨハン先生も驚いた。
「どうした、ティナ、なぜ剣を放した」
「わかりません。剣が手から抜けました」
「そうか、まあ仕方がない。試合はティナの勝だな」
「どうしてですか。私は剣を持っています。ティナは剣を持っていません」
「分からないのか。もしティナが手に短剣の様な武器を持っていたら、お前は怪我をしていたぞ」
「今度は俺が相手してやる」
そう言って、今度はヨハン先生が相手をしてくれることになりました。
「ティナお前から打ってこい」
私は、剣を振り上げるとヨハン先生に、そのすきを狙われると思い、素早く距離を詰めると、剣を振り上げることなく、剣を突き出すように押し出した。
ヨハン先生は、その剣を自分の剣ではじいた。
「いい剣だ。もっとかかってこい」
褒められた。私はうれしくなった。再度剣を構えると、今度はヨハン先生の剣を持つ手を狙って剣を突き出した。この剣も弾かれた。その後何度か剣を突き出したが、結局私の剣はすべて弾かれた。
「今度は俺から行くがいいか」
「はいよろしくお願いします」
ヨハン先生が一瞬で間合いを詰めて剣を振り下ろしてきた。私はとっさに後ろに飛びのいてこれをよけた。するとヨハン先生がさらに私に向かって剣を突き出してきた。
私は楽しくなってきた。ヨハン先生の剣を私の剣ではじくと、今度は私がヨハン先生に向けて踏み出して間合いを詰めた。
そしてヨハン先生の足を私の足で払いのけた。以前私が冒険者にされたことと同じことをヨハン先生にやってみた。しかし、ヨハン先生は以前の私のように転ばなかった。なんとか踏みとどまったようです。
「いい攻撃だ、試合は剣だけでなく体全体でするものだ。剣だけでなく足や手も武器になる」
「わかったかアリーヌ、先ほどのティナの手の攻撃が若しパンチだったら、お前の脇腹は怪我をしていた。ティナは手を握るのではなく、手を広げた。だからお前は怪我をしなかった。それで俺は試合はティナの勝ちと宣言した」
「わかりました。試合はティナの勝でいいです。しかしティナの戦い方はまるで冒険者の戦いの様ですが、いいのですか」
「確かに冒険者は剣術というよりは、喧嘩のような戦い方をするな。しかし戦場や盗賊に襲われたときは、その方が生き残れる確率は高いぞ」
「そうですね、そのような戦い方も有効ですね」
このようにして、初めて剣術の授業で剣を交えることが出来た。




