表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監察官ヒナ  作者: 羽生ルイ
Mission #3『安寧の戦車』アーレス-滅焉の惑星
31/43

#12

 やがてモーリオンギルド、アーレス支部の職員とその家族、併せて78名。そこに加えて2名の記者を乗せた避難船はアーレスの軌道ステーションからゆっくりと離れて行った。


 彼らが目的地であるサニーサイドに到着するのは6年半後。彼らの主観時間では約100日の旅程だ。記者達はさぞ色々な話を聞くことが出来るだろう。

 願わくば、彼らが語る話がアーレスという星の歴史を残す切っ掛けになりますように。


 そう願いながらヒナは加速する航宙船を見送った。


 ヒナはマリエッタと相談し、自分達も一度サニーサイドへ戻ることを決めた。対立する二つの派閥に所属する約4,600人もの難民が到着するのだから、受け入れの準備は整えておいた方が良い。

それに……件の卵料理も恋しかったから。


 そんな話をして、笑い合いながら2人はアーレスを離れた。



 翌日遅く、サニーサイドの交信可能エリアに到達した2人はネットワークがあるニュースの話題で持ちきりになっている事に気が付いた。

 恒星間ネットワーク上で恐ろしい勢いで視聴されている映像のタイトルは「惑星アーレスの滅亡」。

 それは言うまでも無く、ヒナ達が昨日後にした惑星の名だった。


 慌てて動画を確認したヒナとマリエッタは絶句した。

 映像はPGNの記者達が惑星アーレスの地表へ降り立ったところから始まっていた。ギルドのエンブレムが描かれた四脚戦車を、ギルドの暴力の象徴だと扱き下ろす記者達。

 そして廃墟となった町を進み、やがて荒れ地となった戦場へと映像は切り替わる。


も っともらしい陳腐な煽り文句で戦争の悲惨さを語る記者の背後で、大気の色が不気味な赤へと変色していく。

 騒然とする記者達。

 乱れる映像。

 やがて映像には突然地表が割れ、マグマが吹き出す様子が映し出された。


「なに、これ……」


 まるでSFXのような映像にヒナの目は釘付けになる。

 放り出されたカメラが地面に落ち、走り去る記者達の後ろ姿が見えるが、記者達の前方にも地割れが発生しその退路を断つ。

 そして……吹き出したマグマがカメラにゆっくりと近づき、映像は途絶えた。


『ヒナ、こっちの動画!』


 マリエッタが通信で示すもう一つの映像には、放送事故というタグがつけられていた。

 どうやらそれは衛星軌道上に留まっていたメディア船から撮影されたもののようだった。


 惑星全土に、まるでひび割れるかのように地割れが形成され、至る所からマグマが流出していることが見て取れた。


 そして……次の瞬間。


 惑星が明るく輝いたところで映像は途絶えた。

 視聴者が寄せたコメントの多くは配信メディアがパンギャラクティカニュースであったことから、ヤラセのフェイク映像だろうという評価が大半を占めていた。


 だが、ヒナは……PGNが現地にいたことを知っているし、アーレスが危機的な状況であったことも知っている。

 つまり、この映像が事実であることを知っていた。


「今の、どういうこと?」

『ちょっと待ってっ!今、接触回線に切り換えるからっ!ブリギッタ、お願いっ!』


[Ready.]


 マリエッタはリュミエールとオンブルで行っていた無線通信を一旦解除し、二つの船を接近させブリギッタのアームに双方の船体を掴ませることで接触回線を形成した。

 周囲1光日は誰もいない宇宙空間。

 そしてネットワークに接続された情報端末をオフにすれば2人の会話は誰にも盗聴することはできない。


『うん、これでいいねっ。それでさっきの映像だけど、もしかしたら、星喰み(アバドン)が証拠隠滅したんじゃないかなってっ!』


 犯罪の証拠を隠滅するために惑星一つを砕く?

 マリエッタの言葉はあまりにもスケールが大きすぎてヒナには理解できなかった。

 いや、そもそもどうやって惑星を砕くというのか。


 そう問うたヒナに、マリエッタは小さな声で答えた。


『惑星破壊爆弾……』


 冗談のような名前のそれは、マリエッタがかつて訪れたロストテクノロジーを保管する施設に実際に存在していたらしい。

 常識的に考えればそれは一笑に付すような類いの話だが……実際に今マリエッタが乗っている超光速艇リュミエールやブリギッタはその星で託されたものだ。


 つまり、超技術の産物であるリュミエールやブリギッタが実在する以上、惑星破壊爆弾も実在するということだ。


 アーレスを破壊したのがその冗談のような爆弾なのかどうかはわからない。だが、あまりにも不自然なアーレスの崩壊は、何者かの……いや、星喰み(アバドン)の手によるものだとヒナは確信した。



 星が砕ければ人は生き残れない。


 アーレスに残った住民達も。

 制止を無視して地表へ向かったメディアの記者達も。

 そして衛星軌道上に留まっていたメディア船も。


 その全てが確実に命を落としているだろう。ヒナはそのいずれにも救いの手を差し伸べていた。

 だが彼らはヒナの手を自ら振りほどいて惑星へ残り……そして、死んだ。

 自業自得だと切って捨てることは簡単だったが、それでもヒナには後悔が残った。もっと強く引き留めていれば。違う言葉で説得していれば。

 だが、もはや全ては手遅れだった。


「やっぱり星喰み(アバドン)は止められないのかな」


 思わす弱気な言葉が口を突く。フェーズの進んだ星喰み(アバドン)は法の正義も粛清も受け付けない。

 なら、どうすれば良いのか?悩むヒナにマリエッタが想定外の答えを示した。


『ね、ヒナ。今度はこっちから仕掛けようよっ』

「仕掛けるって……どうやって?」

『実はね、ユーティミアのサーバーへ侵入した時に――』


 マリエッタの語る内容に、ヒナの瞳は少しずつ光を取り戻してゆく。

 これなら星喰み(アバドン)に……その黒幕と思われるピアースに一泡吹かせてやれるかもしれない。

 そして、アレクシスを止めることも。作戦の相談が終わったあとに、ヒナは言った。


「ね、マリエッタ。やっぱりワタシの養子にならない?」

『あはは、残念っ!マリエッタは身も心もアイリスさんに捧げてるからっ!』

「振られちゃったかー」


 気分はまだ優れなかったが、それでも少しだけ前を向けたとヒナは思った。

 この勢いで今度は星喰み(アバドン)を食い止めてみせる。ディスプレイ上で静止したままになっていた、光を放ち崩壊するアーレスの映像に、ヒナはそう誓った。



 その後、2人は通信封鎖を解除し予定通りサニーサイドへと戻った。

 ギルド支部を訪れた2人を出迎えた受付係は休暇は楽しめましたか?と笑顔で告げる。

 その言葉に、ヒナは自分は休暇を中断してアーレスへ向かった事を思い出した。今回の件で心身共に疲れたし、難民の受け入れ準備は急いでする必要もないだろう。


「――ええ。でも、休暇の延長申請をしに来ましたっ!1週間ぐらい!」


 ヒナは受付係に笑顔でそう告げた――

これにて「監察官ヒナ」第3話は終了です。


引き続き本日18時より第4話の掲載を開始します。


なおマリエッタが言及した「惑星破壊爆弾」に関連する本編エピソードは以下の第2部9章になります。

ブリギッタやリュミエールの初登場回でもありますので、未読でしたら是非ご併読ください

https://ncode.syosetu.com/n0802lr/310/



★評価やブックマーク、感想等で応援頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ