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監察官ヒナ  作者: 羽生ルイ
Mission #3『安寧の戦車』アーレス-滅焉の惑星
27/43

#8

 軌道ステーションからの報告には続きがあった。ユーティミアの進軍に呼応するようにアインツ、ツヴァイの双方から四脚戦車が多数出撃している。

 しかも不思議な事にアインツとツヴァイの四脚は互いに争わず、まるで共同作戦でも行うかのように併走してユーティミアの部隊へと向かっている、と。


「強力な第三勢力が出現して、慌てて手を組んだってところ?」

「自軍の秘密兵器を奪ってる相手だからねっ。本気になってるんじゃないかなっ!」


 マリエッタはそう言った後、一瞬何かを考えてから呟いた。


「もしかして、戦争が起きた時にギルドが悪者を演じてたら……すぐに戦争終わってたんじゃないっ!?」


 たしかにギルドのような強大な組織が仮想敵として立ちはだかれば内戦どころではなくなるのは事実だろう。

 マリエッタの言葉に支部長のジョンソンは苦笑いしなが、それはさすがに難しいです、とこぼす。


 だがヒナは……おそらくアリサやアイリスなら躊躇せずにその方法を選び、両者の共闘を見届けた時点でギルド支部を即座に撤収させ、戦火の拡大を防いで見せただろうと確信した。

 きっとそれが凡人である自分達と、「女神」や「英雄」との器の違いだと思いながら。



 ギルド支部の会議室に投影された衛星軌道上からの情報を可視化したデータによれば、アインツ、ツヴァイの連合軍が出撃させている四脚の数はおよそ5,500。

 その数を見たサトカはほぼ全軍を出撃させていると言った。


 ユーティミアとの単純な戦力比は1:5.5で通常であればユーティミア側に勝機はない。

 昼間の戦闘ではロッテによる機種混合の優位性があったが、今回はアインツ・ツヴァイも混合編成であるためユーティミア側のアドバンテージは薄れている。


 それでも撤退しようとしないユーティミアの状況に、ヒナとマリエッタはユーティミア……いやDr.カロンとDr.エレボスの2人がレオン達を使い潰し、フォボスとダイモスに戦闘経験を積ませようとしていることを理解した。


 ヒナ達が難しい顔をして戦況を見守る中、マリエッタは軌道ステーションからの連絡にはもう一つ小さな追記があることに気が付いた。


『ギルドの先発派遣スタッフ1名が到着』


 マリエッタは一瞬、先発派遣スタッフというのが何なのかわからなかったが、1名で到着したという文字を見て、それは単座艇であるオンブルの到着を意味することに気が付いた。


「ヒナっ、これっ!パニッシャーが来てるっ!」


 到着した時刻はおよそ6時間前。

 タイミング的にサトカが降りてきたエレベーターが軌道ステーションを出発した頃で、それはヒナ達が難民キャンプでユーティミアと接触していた頃にアレクシスが地表に到着しているタイミングだった。

 彼がヒナ達のやり取りを盗聴していたとしたら、レオン達の後を追い、ユーティミアの拠点へ向かう難民達の中へアレクシスが紛れ込んでいた可能性がある。


 ヒナはそう気付いたが、同時に全てはもう手遅れだと思った。何より最終局面を迎えた現状で星喰み(アバドン)の手の者であるDr.カロンとDr.エレボスの2人を処刑しても何の意味もない。

 アレクシスならそれぐらいの事はわかっているはずだ、と。


 それにこの件についてはヒナ自身も動くことが出来ない。2人のアドバイザー達が行っていることは倫理的には許されない行為だが、兵器開発そのものは合法的な行いで、むしろこの惑星の人々が望んでいる事でもある。

 それにDr.カロンもDr.エレボスも、ギルドの関係者でもないし、ギルドに対して直接的な脅威を与える者でもない。

 故に、ギルドの監察官であるヒナには2人に関わる職権を持ち合わせていないということだから。


「アレクシス教官(センセイ)……どうするつもりなの……?」


 そう口にしてはみたが、ヒナはその答えを既に知っていた。

 アレクシスはパニッシャーの正義を振りかざし、Dr.カロンとDr.エレボスを処刑するのだろう、と。


 ヒナの葛藤をよそに現状分析のデータは刻一刻と変化する。

 進軍を続けたユーティミアとアインツ・ツヴァイ連合軍は無数のクレーターが穿たれた荒涼とした平地の両側で進軍を停止していた。

 既に陽も落ちていることからおそらく夜明けと共に戦闘が開始されるのだろう。そしてそのタイミングでギルドの避難船がアーレスに到着する。

 つまり、この星を巡る状況は、明日決着を迎えるのだ。



 ジョンソンは地上に残っている難民を戦闘が始まるまでに軌道ステーションへ上げておきたいと言ったが、軌道ステーション側の人員はすでにステーションは満杯で、避難船に人を乗せないとこれ以上ステーションに人を上げることが出来ないと回答してきた。

 それはつまり、戦闘が始まってからも地上から難民の避難が続くと言うことだ。


 翌日に待ち受ける困難を予想し、ヒナ達は早めに休むことにした。事態が急変し、夜間に叩き起こされないことを願いながら。



 結局ヒナは熟睡することは出来なかった。昨日見た戦闘の様子が脳裏に浮かび、あの戦いが難民キャンプや軌道エレベータに波及する悪夢を想像し、何度も夜間に目が覚めた。

 気付けば随分と汗をかいていて、自分がこんなにナーバスだったかとヒナは苦笑した。熟睡できないまでも、疲労感から横になったヒナは翌朝、心配そうなマリエッタに起こされた。


「ヒナ?うなされてたけど、大丈夫?」

「ん……ちょっと、夢見が悪くて。ワタシ、こう見えて繊細だから」


 ヒナの言葉にマリエッタは軽く笑って見せた。

 食事は今日も持参した味気のない宇宙食で、数日前にサニーサイドで食べた卵料理が恋しくなったヒナは、マリエッタにアーレスの件が片付いたら何か美味しいものを食べに行こうと提案した。


 そういえば休暇も途中で中断していたことだし、と付け加えたヒナにマリエッタはどうせなら1ヶ月ぐらい休みをとってはどうかと提案する。


 ヒナの主であるアリサも、マリエッタの主であるアイリスも、惑星上での謹慎生活と言う名目で長期休暇中をエンジョイしているに違いない。

 なら、秘書官である自分達もゆっくり休んでも良いだろうとマリエッタは悪戯でも企むような顔で言った。



 会議室へ向かったヒナ達は予想していた事態と、予想外の事態の報告を受けた。

 まず惑星上の戦闘については、当初ヒナ達が予想していた通り夜明けと同時に戦闘が始まったことが確認されていた。

 だが、ギルド側の分析ではユーティミア側がアインツ・ツヴァイ連合軍へ先制攻撃を仕掛けると予想されたにも関わらず、実際はユーティミア側が奇襲を受ける形での戦闘開始だとジョンソンは言う。


「開戦予想時刻よりも連合軍の動きが早かったということですか?」

「いや、予想していたよりも30分以上遅く始まっている」


 ジョンソンの答えを聞いたマリエッタがユーティミア側に異常事態が――指揮系統に乱れが生じているのではないかと指摘した。

 その言葉にヒナは思い当たることがあった。

 おそらく、アレクシスが昨夜の内にDr.カロンとDr.エレボスを処刑し、作戦指揮を執る人間がいなくなったのだろう、と。


 だが2人が処刑されても結局戦闘は始まってしまった。

 つまりアレクシスの行いは……戦闘を、そして星喰み(アバドン)を止めることが出来なかったということだ。


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