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監察官ヒナ  作者: 羽生ルイ
Mission #3『安寧の戦車』アーレス-滅焉の惑星
26/43

#7

 難民キャンプでは6体の人型戦車がキャンプ中央に固まり、駐機状態でコクピットを解放していた。

 リーダーらしき男が周囲の難民に何かを話しているようで、風に乗って拡声器ごしの声が聞こえる。


「――だから、俺たち安寧(ユーティミア)は、アーレスの平和を守るために戦っているっ!志あるアーレスの民よ、アインツとツヴァイの垣根を越えて、俺たちに協力してくれ!」


 どうやら「ドライ」の組織名はユーティミアと言うらしい。

 サトカに視線を向けると、アーレスの古い言葉でユーティミアは「安寧」を意味するのだと教えてくれた。


 戦争を引き延ばす為の組織が安寧(ユーティミア)を名乗る皮肉にヒナは苦笑したが、同時におそらくあの人型のパイロットは自分達が何をしているのか……いや、何をさせられているのか、理解していないのだろうと直感的に思った。


 相変わらず乗り心地の悪い四脚に辟易しながらも、ヒナは四脚の拡声器を使ってユーティミアと名乗ったパイロットにコンタクトを試みる。


『貴方たち、ちょっと待って!話を聞かせて欲しいの!』


 ユーティミア達は四脚が接近して来たことに一瞬警戒した様子を見せるが、機体に描かれたギルドの紋章を視認したのか警戒態勢を解いた。

 演説していたリーダーらしき男が、ギルドが何の用だと拡声器を通じて返事を寄越すが、その声に敵意はみられない。純粋に、ヒナの用件を問うているようだ。


 拡声器で怒鳴り合うのはスマートではないと考えたヒナは四脚を降りて徒歩で人型戦車の元へ向かう。

 生身で対峙する人型戦車は圧倒的な威容で、戦場でこれと対峙するのは正直ごめんだとヒナは思った。


 ヒナは自分がギルドの監察官であり星外からギルド支部の撤退支援のために派遣されたと自己紹介する。

 他の機体とは色違いの塗装が施されていたダイモスに乗っていたユーティミアのリーダーはレオンと名乗った。


 なんでも彼はユーティミアで実働部隊の指揮を執っているらしく、今回は中立地帯が危険にさらされていたので駆けつけたのだと言った。


「実働部隊ということは、他の部隊もあるの?そもそも、その人型……どこで調達したの?」

「これか?これは俺たちの正義の証だ。俺たちユーティミアには人型を製造する拠点があるのさ」


 レオンは誇らしげにそう言うが、荒れ果て食料の調達すら難しいアーレスの地表で、アインツとツヴァイ以外の第三勢力が高度な兵器を開発運用している異常事態に違和感を感じないのかとヒナは少し呆れた。

 頭痛を感じながらもさらに問いを重ね、レオン達が純粋にアーレスを救いたいと考えていること、2人の「アドバイザー」がもたらした技術によってフォボスとダイモスが作られたことを得意げに語った。


「アドバイザー?」

「ああ、そうだ。Dr.カロンとDr.エレボス。皆も名前を聞いたことはあるだろう?」


 レオンはそう言って周囲の難民達に同意を求める。

 ヒナにはその名は聞き覚えの無いものだっがた、周囲の難民達は驚愕の表情を浮かべている。不審げな表情を浮かべるヒナに、サトカがそっと耳打ちした。


「Dr.カロンはツヴァイの、Dr.エレボスはアインツのアドバイザーです。敵同士ですよ」


 つまりレオンはユーティミアは敵同士である両陣営のアドバイザー達が手を組んで作った第三勢力だと言っているのだ。

 ヒナはアドバイザー達が星喰み(アバドン)の手先だと推測していたから2人の行動はアーレスの戦局を混乱させるために行っているものだと受け取ったが、レオン達の受け止め方は違った。


 2人のアドバイザーは永劫に続く戦争を止めるために共に手を取り合い、アーレスのために立ち上がってくれたのだと。

 今回の出撃も難民キャンプの民を守るために2人のアドバイザーが出撃を決定したのだと、熱っぽく語ったのだ。


 だが難民の中にも疑問を持つ者がいたようで、人垣の中から進み出た負傷兵がおずおずと声を掛けてきた。


「なぁ、そのフォボス……アインツの新型だよな?確か設計データをツヴァイに盗まれた上にデータも破壊されたと聞いてるんだが……」

「おい待てよ、データを盗んで破壊したのはアインツ側だろ?ダイモスはツヴァイの新型だぞ!?」


 ツヴァイによる機密奪取を語る負傷兵に向かってツヴァイの脱走兵らしき別の男が機密を奪ったのはアインツ側だと反論した。

 言い争う2人の姿を見ながら、ヒナはつまり、ユーティミアは……いや星喰み(アバドン)は、双方に異なるタイプの人型戦車を開発させ、完成した時点で機密データを取り上げたのだと理解した。


 そして今回の戦闘がレオン達現場の部隊による独断でないのなら、星喰み(アバドン)がこの星で行っている兵器開発は既に完了し、実証実験に入っているということになる。

 ユーティミアが公然と姿を現し、両陣営に攻撃を仕掛けたのはその証左となるだろう、と。


「ヒナっ、この人達に星喰み(アバドン)のこと……」

「ダメだよ、マリエッタ。今その話をしてもこの人達は信じないだろうし、信じたとしても絶望が広がるだけ」


 アーレスが星喰み(アバドン)にいいように操られ、間もなく収穫の時を迎えることを止められないという事実にマリエッタは悔しそうな表情を浮かべた。

 そんな2人を余所に、レオンは再び拡声器で声を上げた。


『さあ、俺たちと共にユーティミアへ参加する勇者は名乗り出てくれ!この戦車で、一緒に故郷に安寧を取り戻そうじゃないか!』


 その言葉に、アインツ、ツヴァイの双方の陣営から何人もの男達が人型戦車の回りに集まり始めた。

 そしてその中には……アインツ側の代表者の姿もあった。見とがめたようなヒナの視線に、代表者はヒナの視線を正面から受け止め、言った。


「カイラニ監察官。悪いが避難船のチケットはキャンセルさせてもらう。儂はユーティミアと共に戦う。なにせ儂らは『戦争を望んで残った』人間じゃからな」


 ヒナに対する当てこすりのようにそういった代表者の言葉に、周囲にいたアインツの人間も同意した。

 結局、動くことが出来る男の殆どと、女も多数がレオンに同行し、ユーティミアの拠点があるという荒れ地の奥へと去って行った。

 ヒナはその様子を無言で見送ってから静かに言った。


「マリエッタ、悪いけど避難者リストの再構築をお願い」

「わかったっ。でも避難船のキャパシティは気にしなくても良くなったねっ」


 マリエッタは軽口を叩くが、その表情は暗かった。

 その後、難民キャンプに残った避難希望者の数を再確認した結果、既に軌道ステーションに上がっている老人や子供、重傷者を合わせて元アインツが1,867名、元ツヴァイが2,740名の4,607名……おおよそ昨日の4割にまで減少していることがわかった。

 特にアインツ側の離脱者が多いのは代表者がユーティミアへ移ったことが大きいのだろうとヒナは推測した。


 ヒナは自身の言葉が回り回ってこの結果を招いたのだと悔いた。

 だが、人数が大幅に減ったことで避難民の冷凍事故を回避する目処が立った。老人や体の弱った者を冷凍睡眠させると高確率で命を落とすが、キャパシティに余裕があれば高リスクの者を眠らせずに運ぶことができる。

 それはこのどうしようもない状況の中で、唯一の救いだとマリエッタは言った。



 その夜、地表を監視していた軌道ステーションの人員からギルド支部に緊迫した報告がもたらされた。

 ユーティミアの拠点とおぼしきところから1000機近い人型戦車が出撃し、アインツ、ツヴァイの拠点がある方向へと向かっているというのだ。


「早くない!?いくら合流した連中が元兵士だからって、機種転換そんなにすぐできるの!?」

「あ、それ。できるような気がします」


 ヒナの疑問にサトカが平然と答えた。

 サトカはヒナがレオン達と話している間に駐機状態だった人型のコクピットを観察していたらしい。


 彼女が言うには、本来制御が困難なはずの人型戦車の操作系は四脚と殆ど同じで、あれなら元四脚乗りならすぐにでも乗りこなせるだろうと言った。

 そして併せておそらく人工知性体が機体制御の大部分を肩代わりしているだろうとも指摘した。その言葉にマリエッタは眉をひそめる。


「でもっ、それなら人を乗せておく必要って、ないですよねっ!?人が乗ってたら死んじゃうかもしれないのにっ!」


 その言葉にサトカは、人型が登場してまだ半年足らずで機体制御や戦闘のためのデータが十分ではない可能性があると言った。

 たぶん、戦闘データを溜めているところだと思いますよ、と気軽に付け加えたその言葉にヒナとマリエッタは驚愕の表情を浮かべた。


 ユーティミアが、アインツとツヴァイを攻撃する真の理由がわかったからだ。


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