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監察官ヒナ  作者: 羽生ルイ
Mission #3『安寧の戦車』アーレス-滅焉の惑星
25/43

#6

 その後、ギルド支部へ帰った3人は登録された難民のデータを確認した。

 食糧配給に並んでない者も合わせると難民の総数は11,517名。

 うち6,176名が元アインツ。

 5,341名が元ツヴァイの所属だった。

 これにギルド職員とその家族、78名を合わせた11,595名を星外へ脱出させる必要がある。


 アーレス支部が要請した避難船は3隻の惑星開拓用航宙船で、1隻あたり収容可能な人数は4,000人。合計すると12,000名を脱出させることが可能だが、この数字は輸送する人員を全て冷凍睡眠させて酸素や食料の消費を極限まで切り詰めた状態での輸送可能人数だ。


 冷凍睡眠には数パーセントの確率で蘇生ミスが発生するため、ギルド職員を安全に撤収させるためにも難民はともかくとして職員を冷凍睡眠させる訳にはいかない。

 となるとギルド職員は航行中に酸素も食料も消費するため……実際には3隻の船でギリギリ全員が運べるかどうか……もしくは少し厳しい数字だとマリエッタは試算した。


「6年半前に避難船を要請した頃には難民、300人ぐらいしかいなかったんだがなぁ……」


 ジョンソンは申し訳なさそうにそう言うが、戦局の悪化と難民の増加を正確にシミュレーションするのは困難だ。

 本来ギルド支部が撤収するだけなら船は1隻で十分なのに、難民の増加を予想して追加の船を2隻手配していたジョンソンの手腕はむしろ褒められてしかるべきだろう。


 既に老人や負傷者を軌道ステーションへ移送する作業は始まっており、このまま何事もなければ3日後……いや、もう日付は変わったので2日後にはアーレスを発つことができる。

 割り当てられた部屋で古びたベッドに横たわりながら、ヒナがそんな事を考えているとマリエッタが声を掛けてきた。


「ね、星喰み(アバドン)の事、アインツとツヴァイに教えたら戦争、終わらないかなっ?」

「難しいと思うよ。これまで30年戦ってきた原因が誰かに踊らされてたとか、今さら言われても止まれないんじゃないかな、両方とも」

「やっぱりそうかぁ……。たぶん、伝えると暴走しちゃうよねっ?」

「だろうね」


 ヒナが投げやりにそう答えると、暗闇の中でマリエッタがため息をつく音が聞こえた。



 翌朝、ギルド支部の面々から朝食に誘われた2人だったが、貴重な食料を消費するのは申し訳ない申し出を断り、持参していた宇宙食で簡単に食事を済ませた。

 食料の温存という理由は確かに本心だったが、率直なところ前日難民達に配給していた粗末な食事がどうみても口に合わなさそうだと2人が思ったのも、また事実だったから。


 午前中は撤収作業のための荷造りや、軌道エレベーターへの負傷者誘導などで慌ただしく時間が過ぎた。

 そして……昼過ぎにトラブルが起きた。中立地帯の間近で戦闘が始まったのだ。



 アインツとツヴァイの四脚戦車が交戦しながら、中立地帯へとじわじわ迫ってきている。

 戦場が移動しているのはどちらかの陣営が意図的に行っていることなのか、それとも戦局が混乱しているせいなのかはわからない。

 だがこのまま戦闘が続けば、難民キャンプが巻き込まれるのは時間の問題だった。


 ヒナは無駄だとは思いながらも、ギルド支部の屋上から拡声器をつかって両者に中立地帯へ近づいていることを警告した。

 だが、予想通りどちらも交戦を止めず、中立地帯から離れようともしない。これはギルドの脱出を妨害する意図的な行為だとヒナが思った時だった。状況が動いたのは。


 ヒナは最初、難民キャンプの外れに位置していた廃ビル街から複数の人影が飛び出してきたのだと思った。

 無骨なアーマーを着込んだような格好をした3人は、手に持った武器でアインツとツヴァイの四脚戦車を攻撃する。

 携行兵器で戦車を攻撃するのは自殺行為だとヒナが思った瞬間、攻撃を受けたアインツの四脚戦車が爆散した。


「ヒナ、あれ人じゃ無いっ!10m……ううん、15mぐらいあるよ!」


 マリエッタの言葉に目をこらすと、確かに周囲の廃ビルと人影のスケール感がおかしいことに気が付いた。

 まるで廃ビルが玩具の家のように見える……。そしてヒナは気が付いた。

 アレが、人型戦車だ!


「マリエッタ、機種の見分け付く!?」

「ロッテ編成のはずだから……前に出てるのがダイモスだと思うっ。あっ……ビルの影っ!ライフル構えてるのがいるっ!あれがフォボスだよっ!」


 マリエッタが指さす方向、ダイモスが飛び出した場所から少し離れた所に3機の人型が身を潜めているのが見えた。

 先ほど飛び出したダイモスよりも細身の機体で手には長物のライフルを構えている。


 ヒナが見つめる中、フォボスは凝縮されたフォトンを撃ちだした。赤く輝くそれは、おそらくブラスターのチャージショットだ。

 光はツヴァイの重装型四脚戦車に吸い込まるように命中し……四脚戦車は一撃で爆散した。


 その後、近接武器に持ち替えたダイモスが前線で四脚の動きを抑え、フォボスが狙撃で仕留めるコンビネーションで「ドライ」はあっという間に数で勝るアインツ、ツヴァイの双方を撃退して見せた。


 人型であることによる機動性、そして何より複数兵科の適切運用が勝利の要因だとマリエッタは言う。

 アインツの四脚は高機動を活かすために軽装で武装も貧弱。

 ドライの四脚は重武装だが鈍足で、接近されると待避できずに滅多打ちにされる。

 どちらも同一機種で部隊が構成されている以上、設計通りの行動しかとることができない。


 だがドライは重装型に攻撃力ではなく防御と敵を攪乱する役割を与え、動きの止まった敵を重武装を施した軽装型で狙撃するという戦法を採った。

 その戦術の差が圧倒的な戦果の差だとマリエッタは分析した。


 戦闘とも呼べない一方的な戦いが終了したことで、難民キャンプの方向から大きな歓声が上がるのが聞こえた。

 おそらくキャンプを守ってくれたドライを英雄視しているのだろう。だが、ヒナはその歓声を聞きながら、憂鬱そうに言った。


「ドライの連中……随分と困ったことをしてくれよね……」


 どちらにせよ連中の方から出てきてくれたのなら、接触を試みるべきだろう。

 そう考えたヒナは、マリエッタと……丁度軌道ステーションから戻ってきていたサトカを伴って、難民キャンプへ急くことにした。


 ヒナはサトカに念のため四脚を準備するよう依頼し、マリエッタを伴って難民キャンプへと走り出した。

 ……だが、2ブロックほど走ったところでよろめき、足を止めて膝を付いてしまう。


 先行していたマリエッタが心配してヒナの元へ戻るが、ヒナの呼吸は荒く、かなりの汗を流していた。


「ごめん、貧血が…長引いてて…」


 ヒナの言葉を聞いたマリエッタは無言でヒナに手をさしのべ、助け起こした。

 そして持ち歩いていたサバイバルパックの中から残っていたフルーツ豆乳のパックを差しだし、監察官とはいえ女の子なんだから無理しないで、と言った。


 ヒナが礼を言い豆乳を口にしながら息を整えていると、サトカの乗った四脚が追いついてきた。


「サトカさんっ!ヒナを乗せていって下さいっ!」

「……?わかりました」


 サトカはヒナの様子に少し戸惑っていたが、それでも四脚に駐機体勢を取らせ、ヒナとマリエッタをコクピットへと引き上げる。

 サトカは細身だが意外と力があることにマリエッタは驚くが、サトカは毎日食糧の配給していますから、と苦笑いしながら返した。

 2人がシートについたことを確認すると、サトカは再び四脚を走らせ難民キャンプを目指す。


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