#4
だが、ヒナの関心はすでに戦線復帰者には無かった。サトカの語るドライの行いは……まさに星喰みのそれにしか思えなかったから。
この戦争がもし星喰みによって仕組まれたものだとしたら?
アスクレピオスで薬物の開発と人体実験を行っていたように、アーレスで兵器開発とその実証実験を行っているのだとすれば。
ドライの行動原理と両陣営の技術を採り入れた人型の存在に説明が付く。
つまり星喰みは人型の機動兵器を開発するためにアーレスの戦争を煽り、完成した人型のデータを取るため既存勢力であるアインツ、ツヴァイの双方に対して攻撃を仕掛けている。
負けた側に加担するというのは単なるお題目か、あるいは劣勢側についた方が戦闘データが多く得られるせいか。
「ヒナっ、これ……もしかしてっ」
「マリエッタも気付いた?でも、この状況を考えると……」
「うん、最終フェーズだよね、きっと」
これが星喰みだとしたら。30年にわたって影から戦争を操っていたであろう勢力が公然と姿を現し両陣営に攻撃を仕掛ける状況は、既にこの惑星における星喰みは最終フェーズに入っていると考えて間違いないだろう。
最後の破局が訪れるのはそう遠い日ではない。
もはやこの星の破滅を止めることが出来ないのではないかと感じながらも、ヒナはこれが星喰みではないという可能性に一縷の望みを掛けた。
「サトカさん、この戦争が始まった理由ってわかる?企画会議での論争が原因だっていう記事をみたけど、あまり信用できなくて」
「ああ、あの記事ですか……あれ、不正確なんです。企画会議が発端で、軽装重装の論争が原因なのは間違いありませんが……会議中に発砲があったんです。どちらの側かはわかりませんが、アドバイザーとして参加していた星外の人間が相手側の人間を射殺したと聞いています」
サトカは論争が白熱しすぎたとはいえあり得ないですよねと苦笑いするが、その話を聞いたヒナとマリエッタの顔面は蒼白になっていた。
もし開戦の引き金が『アドバイザー』によるものだったのなら、星喰みが放ったたった一発の銃弾がこの惑星を地獄へと突き落とす号砲となったのだから。
「銃弾一発で星喰み開始とか、コスパ良すぎですっ!マリエッタも銃弾一発で星喰み止めたいですっ!」
マリエッタは憤慨したようにそう言うが、その言葉はブレードの一振りで星喰みを止めて見せたアレクシスの……パニッシャーの姿を否応なくヒナに思い出させるものだった。
制約や回り道が多く、決して万能ではない「法の正義」とブレードの一振り、一発の銃弾で解決する「私刑の正義」。
どちらが正しいのか……。そんな事を考えかけたヒナは慌てて頭を振る。
ワタシの正義は「法の正義」。
それがワタシが自分で決めた道だ、と。
ギルド支部へ到着したヒナは支部長に挨拶をした。
ジョンソンと名乗った支部長は派遣された監察官がまだ年若い女性であること、そして未成年にしか見えない少女を伴っていることに戸惑った様子を見せた。
ヒナはジョンソンに対して、自分はオンブルを託された特命監察官であると説明し、同時にマリエッタも超光速艇を扱うギルド高官の専属秘書官だと紹介した。
それはすなわち、2人がただの小娘ではなく、ギルドに特別視された人材であるという遠回しな自己アピールでもあった。
その上でどのような支援が必要かと確認するヒナに、ジョンソンは撤退作成の妨げとなりかねない、いくつかの要素について説明を行った。
まず1つ目は人道的な観点からギルドの撤退には難民を同行させる必要があるという点。
現在、軌道エレベータ周辺の中立地帯はギルド支部の存在によって安全を担保されている状態なので、ギルドが撤退するとこの星から安全地帯が消滅する可能性が高いこと。
それ故に、ギルドとしても自分達だけが撤退するというわけにもいかず、避難船には希望する難民も乗せてゆくつもりであるとジョンソンは説明した。
問題はその避難希望者の人数把握が行えていないということで、流入を続ける難民と「ドライ」へ参加するために戦線復帰する人間が出入りすることによって難民の人数はかなり流動的であり、またアインツ側の難民とドライ側の難民を同じ船に乗せる訳にもいかないため正確な人数だけでなくそれぞれの所属も把握することが必要であるらしい。
もう一つの問題は撤退を安全に行うための環境整備について。
ドライの登場により中立地帯が安全であるという前提そのものが揺らぎ始めているとジョンソンは言った。難民がドライの戦闘員として戦争に参加していることで、アインツもツヴァイも中立地帯を第三勢力……すなわち敵として見なし始めている兆候が見えるらしい。
ギルドは中立地帯を保守するのに手一杯でドライの本拠地がどこにあるのか、誰が指揮管理を行っているのか把握は出来ておらず、ドライの正式な組織名についても把握出来ていない。
それゆえにギルドとしてもドライはあくまでも正体不明な第三勢力であると認識しているのだが……アインツとツヴァイの見解はそうではなく、ギルドの息が掛かった組織だと考えている可能性が高いとジョンソンは言った。
それもそうだろう、この星で第三勢力たり得るだけの力を持っているのは、ギルドしか存在しないのだから。
ともあれ3日後に予定されている避難船の到着までに不測の事態が発生する可能性があるため、ギルド支部としては万が一に備えて移動に時間が掛かる老人や子供、負傷者を先行して軌道ステーションへ待避させておきたい考えてはいるが、ステーションへ回す人員の余裕が無いことが問題になっているとの事だった。
話を聞いたヒナは自分とマリエッタが地上での人員把握と情報整理を手伝うので、ギルド支部から何名かを軌道ステーションへ派遣することを提案した。
ヒナとしてはマリエッタには安全な軌道ステーション側を担当して貰いたかったのだが、マリエッタが無言で自分を睨み、続けて左手のボイスコマンダーに視線を落としたことで、彼女が「敵が来た時に、自分がいないと食い止められない」と言っている事に気付いたから。
難民の人数把握のため、キャンプへ食料を運ぶサトカに同行することを決め、支部を出発しようとしたヒナだったが、ふとある事に気付いてジョンソンに声を掛けた。
「さっきの話、統括局に報告されました?特にドライの話」
「ん?ああ、支援要請の理由として報告書に含めておいたが……それが何か?」
「いえ、こちらの話です。では行ってきます」
そう言ってサトカの後を追うヒナに、マリエッタが声を掛けた。
「来るかな、パニッシャー」
「来るでしょ、確実に。ドライの話を知ったなら、ここが星喰みの標的だってことはすぐわかるだろうし」
統括局への支援要請をアレクシスが盗聴している可能性は高い。彼がドライの存在とその行動原理を知れば、ヒナが判断したのと同じ思考プロセスを経て、それが星喰みの手によるものだと判断するのは間違いないだろう。
なら、彼はきっと来る。確信めいたものをヒナは感じていた。
だが、彼の……パニッシャーとしての行動はこの星の状況を覆すことが出来るのだろうか?そんな疑問を抱きながらも、ヒナは進む。




