第7話:最速の蹴り、最短の決着
「第十部隊……カイト・ハザマ。貴殿らの行いは騎士団の規律を乱すものだ。魔法を軽んじ、野蛮な格闘術を広めるなど言語道断」
初任務から数日後。演習場に現れたのは、第一部隊の副隊長にして、王国最速の魔導騎士と謳われる男、フェリクスだった。
彼の背後には、先日助けてやったはずのゼクスたちが、苦々しい表情で控えている。
「規律、か。魔物を倒して街を守るのが騎士の仕事だと思っていたがな」
カイトは道着代わりのボロいインナーの袖をまくり、淡々と答える。
「屁理屈を。魔法こそが文明の証だ。貴殿のような『無能』が分不相応な力を振るうのは、秩序への冒涜である。……立ちなさい。その『空手』とやらが、私の神速の魔法に通用するか試してやろう」
フェリクスが細身のレイピアを抜く。
周囲には風の魔力が渦巻き、彼の体が青白い光に包まれた。
「……一分だ」
「何?」
「一分もかからない。俺の『足刀』が一撃入れば、終わりだ」
カイトの宣言に、フェリクスは激昂した。
「不遜な! 『疾風』!!」
風の加飾を受けたフェリクスの体が、目にも止まらぬ速さで加速する。
一瞬で間合いを詰め、レイピアの先がカイトの喉元へ突き出された。
「終わ――」
フェリクスが勝利を確信した、その刹那。
カイトの姿が、その場から消えた。
「!? どこへ――」
「ここだ」
真横。フェリクスの視界の端に、軸足を鋭く踏み込んだカイトがいた。
魔法による加速は「魔力を練り、術式を組み、放出する」というプロセスが必要だ。
だが、カイトの動きは違う。「思考」と「筋肉の収縮」が直結している。
カイトの右足が、鎌のようにしなった。
膝を高く抱え込み、最短距離を一直線に。
「――『足刀横蹴込み』」
ドォォォォンッ!!
大気が爆ぜる音が響いた。
フェリクスは魔法で防御する暇さえなかった。カイトの足の裏が、彼の脇腹を完璧に捉えていた。
「が、はっ……!?」
加速の慣性をすべて逆方向に叩きつけられ、フェリクスの体は砲弾のように演習場の壁まで吹き飛んだ。
石壁が砕け、フェリクスは白目を剥いて崩れ落ちる。
沈黙。
第一部隊の騎士たちは、自分たちの副隊長が、一度も剣を振れずに沈んだ現実が信じられなかった。
「……三十秒。少し、欲張りすぎたか」
カイトは静かに足を下ろし、袴の裾を整えるように構えを解いた。
「詠唱にコンマ数秒、発動にさらにコンマ数秒。……そんな隙があれば、空手なら三回は殺せる」
カイトの言葉は、魔法の絶対性を信じる者たちへの死刑宣告に等しかった。
負けたフェリクスを抱え、逃げるように去っていく第一部隊。
その光景を、兵舎の陰から見ていた聖女――第十部隊の真の目的を知る少女が、震える手で十字を切っていた。




