第6話:初任務は『魔法無効化』の魔物
カイトが「無印」に配属されてから二週間。
第十部隊の兵舎からは、連日「セイッ!」「ハッ!」という、およそ騎士団らしからぬ掛け声が響いていた。
そんな折、ついに彼らへ初任務が下る。
場所は王都近郊の「忘却の廃鉱山」。現れたのは、魔法騎士団にとって最悪の天敵――『魔導喰らい(スペル・イーター)』だ。
「……ひどい有様だな」
現地に到着したカイトたちが目にしたのは、無残に転がるエリート騎士たちの姿だった。
そこには、あの入団試験でカイトを馬鹿にした金髪の少年騎士、ゼクスの姿もあった。彼の自慢の魔剣は、魔物を前に光を失い、ただの鉄屑と化している。
「逃げろ……無能ども……! そいつに魔法は効かない……! 攻撃すればするほど、魔力を吸い取って巨大化するんだ……!」
ゼクスが絶望に染まった声で叫ぶ。
彼の前には、不定形の黒い泥のような巨体が、不気味な脈動を繰り返していた。魔法を主食とするこの魔物は、物理的な斬撃すら魔力膜で受け流してしまう。
「おい、バルト。あいつが言ってるぞ。魔法は効かないそうだ」
カイトが隣に立つ大男に声をかける。
二週間の地獄のブートキャンプを耐え抜いたバルトは、以前よりも一回り体が引き締まり、その瞳には鋭い光が宿っていた。
「……上等だよ。魔法なんて最初から使えねえんだ。俺にあるのは、あんたに叩き込まれた『突き』だけだ」
「ルナ。お前は後ろで気を練っておけ。仕上げは任せる」
「はい、カイトさん……! やってみます!」
眼鏡を光らせ、小柄な少女が深い呼吸に入る。
カイトたちは、逃げ惑うエリート騎士たちを横目に、魔物の正面へと歩み出た。
「グルァァァァッ!」
魔導喰らいが、魔力を求めてバルトに襲いかかる。巨大な触手が、必殺の勢いで振り下ろされた。
並の騎士なら回避を選ぶ場面。だが、バルトは逃げない。
「――『三戦・締め』!」
バルトが息を吐き出し、全身の筋肉を硬直させる。
直後、触手がバルトの肩に直撃した。だが、砕けたのはバルトの骨ではなく、魔物の触手の方だった。
「なっ……!? 生身で、魔物の打撃を弾き返しただと!?」
ゼクスが目を見開く。
「へっ……あんたの拳に比べりゃ、こんなの羽毛みてえなもんだぜ! ……食らえっ、『正拳』!!」
バルトの拳が、魔物の胴体にめり込む。
魔法を吸い取る膜など関係ない。純粋な質量と、練り上げられた「衝撃」が魔物の核を直接揺さぶった。
ドォォン! と大気が震え、魔物の体が大きく波打つ。
「仕上げだ、ルナ!」
カイトの合図で、ルナが前に出る。
彼女は溢れ出すSSS級の魔力を外に放つのではなく、カイトに教わった通り「拳の一点」に凝縮させていた。
「これなら……爆発しません! ……えいっ!」
放たれたのは、不格好な突き。
だが、一点に凝縮された魔力は、魔導喰らいが吸収できる許容量を遥かに超えていた。
――ズドォォォォォンッ!!!
魔物の体が内側から弾け飛び、消滅する。
後に残ったのは、静寂と、呆然と立ち尽くすエリート騎士たちだけだった。
「……よし、残心だ。気を緩めるな」
カイトの声に、バルトとルナが静かに構えを解く。
魔法が効かない絶望の魔物を、拳だけで完封した落ちこぼれたち。
「お、おい……お前ら、一体何をしたんだ……?」
震える声で問うゼクスに、バルトがニヤリと笑って答えた。
「魔法? そんな古臭いもん、もういらねえよ。これからは『空手』の時代だ」
カイトは空を見上げた。
初任務完了。だが、これはまだ序章に過ぎない。




