第4話:騎士団最下位『無印』クラスへの配属
王立騎士団の栄光を象徴する白亜の城門から、最も離れた場所。
湿った風が吹き抜ける、カビ臭い木造の古い兵舎――それが、俺に与えられた配属先だった。
「ここが、第十部隊……通称『無印』の拠点か」
扉を開けると、錆びた蝶番が嫌な音を立てる。
中にいたのは、騎士の正装も着崩し、酒瓶を転がしているような、およそ「騎士」とは程遠い連中だった。
「おいおい、また死に損ないが紛れ込んできたぞ」
声をかけてきたのは、壁に背を預け、ナイフを弄んでいる大男だ。
身長は二メートル近い。体格はいいが、その瞳に宿っているのは諦念と倦怠だった。
「新入り、名前は?」
「カイト・ハザマだ」
「ハザマ? ああ、あの入団試験で試験官の盾をぶっ壊したっていう変わり種か。俺はバルト。見ての通り、魔力を身体強化にしか回せない脳筋野郎だ。……もっとも、その強化も出力が不安定すぎて、まともに剣も振れねえがな」
バルトが自嘲気味に笑う。
この世界では、身体強化は「魔法の基礎」に過ぎない。火や氷を出せない騎士は、戦場ではただの肉壁扱いなのだ。
「……あの、あなたがカイトさんですか?」
部屋の隅、積み上げられた魔導書の後ろから、小柄な少女が顔を出した。
ボサボサの髪に、分厚い眼鏡。彼女もまた、騎士団の制服がぶかぶかだ。
「私はルナ。……魔力量だけはSSS級って言われたんですけど、放出が制御できなくて、魔法を撃とうとすると爆発しちゃうんです……」
「なるほどな。筋肉の使いすぎで自壊する男と、エンジンがデカすぎて爆発する女か」
俺は周囲を見渡す。
ここには、魔法至上主義の「型」にはまれなかった連中が、ゴミのように捨てられている。
「それで、隊長はどこだ?」
「隊長? ああ、あそこで寝てるのがそうだよ」
バルトが指差した先。
汚い机に突っ伏して、盛大にイビキをかいている中年の男がいた。
かつては英雄だったが、ある戦いで魔力回路を損傷し、魔法が使えなくなったと言われている「落ちた天才」だ。
俺はため息をつき、兵舎の真ん中でゆっくりと腰を下ろした。
「おい、新入り。何してんだ?」
「決まっているだろ。稽古だ」
俺は「三戦」の型を組み、深く、重い呼吸を始める。
――スゥ、ハァ。
肺の隅々にまで酸素を送り込み、体内の「気」を循環させる。
魔法が使えない? 回路が壊れている?
そんなことは関係ない。
この世界に満ちている魔力は、魔法として放出しなくても、身体操作の「核」として取り込めるはずだ。
「……!? おい、なんだ。空気が重くなったぞ」
バルトがナイフを止め、目を見開く。
ルナも、本を落として俺を凝視した。
俺の呼吸に合わせて、兵舎の古い床がミシミシと鳴り、微細な魔力が俺の肌に吸い込まれていく。
魔法回路を通さず、筋肉、骨、皮膚そのものに力を浸透させる。
「魔法が使えなくても、戦う術はある。お前ら、一生ここで腐って寝てるつもりか?」
「何だと……?」
「俺はここで、俺の空手を磨く。邪魔するなら、魔法ごと叩き伏せるだけだ」
俺の鋭い視線に、バルトがごくりと唾を飲み込んだ。
無能の集まり? 結構なことだ。
ここは、常識という枷がない。
俺はこの異世界の落ちこぼれたちと共に、拳一つで「最強」を塗り替えてやる。




