第13話:魔法が消えた戦場、そこは俺の土俵だ
「……馬鹿な、ありえん! なぜ動ける!? なぜ魔法を使わず、我が精鋭たちの装甲を貫けるのだ!」
帝国軍の将軍、重装魔導師のヴォルガスが絶叫した。
彼の目の前では、無敵を誇るはずの『魔封じの領域』の中で、カイト率いる第十部隊が文字通り「踊って」いた。
帝国兵が放つボウガンの矢。カイトはそれを、わずかな首の動きでかわし、あるいは掌で叩き落とす。
「無意味だ。魔法による自動追尾も、加速もない矢など、止まっているも同然だ」
カイトが低く呟き、一歩踏み込む。
その瞬間、彼の姿がブレた。
「――『裏拳打ち』」
横から躍り出た帝国兵の側頭部に、カイトの拳の背が吸い込まれる。
パキン、と乾いた音がして、分厚い鉄兜がひしゃげた。兵士は声も上げられず、独楽のように回転しながら吹き飛んでいく。
「くっ……総員、『流体金属ゴーレム』を起動せよ! 物理攻撃など、こいつの前では無力だと教えろ!」
ヴォルガスが命じると、地面から銀色の液体が噴出し、巨大な巨像を形成した。
あらゆる打撃を液状化して受け流し、剣を通さぬ無敵の盾。魔法が封じられた戦場における、帝国の切り札だ。
「カイトさん、あいつ……攻撃が通りません!」
バルトの渾身の正拳が、銀色のボディにズブズブと沈み込み、無効化される。
「……なるほど。表面で衝撃を逃がしているのか」
カイトは冷徹に分析する。
「だが、どんな液体にも『芯』はある。……バルト、ルナ。よく見ていろ。これが空手の真髄――『浸透勁』だ」
カイトがゴーレムの前に立ち、右手を静かに添えた。
力を入れているようには見えない。ただ、触れているだけ。
「ハハハ! 撫でてどうする! 貴様の拳など――」
「――『寸勁』」
わずか一センチの距離から、カイトの拳が「爆発」した。
黄金の気が、ゴーレムの表面を通り越し、その内部――魔力の核へと直接叩き込まれた。
――ゴォォォォォンッ!!!
鐘を突いたような重低音が周囲に響き渡る。
次の瞬間、表面には傷一つなかったゴーレムが、内側から激しく波打ち、銀色の液体を四方八方に撒き散らして霧散した。
「なっ……核を……内部から破壊したというのか……!?」
ヴォルガスが震える。
魔法が使えないこの戦場は、帝国にとって「自分たちだけが有利な土俵」のはずだった。
だが、現実は違った。
魔法という贅肉を削ぎ落とした先にある、純粋な「暴力の真理」。
そこは、前世から拳一つで生きてきたカイトにとって、最も慣れ親しんだ、最も得意な戦場だったのだ。
「勘違いするな。魔法が消えたから、俺たちが強いんじゃない」
カイトが、絶望に顔を歪めるヴォルガスの喉元に、指先を突き出す。
「――俺たちが強すぎて、魔法が必要なかっただけだ」
その言葉と共に、帝国軍の戦意は完全に崩壊した。
王都を包んでいた赤黒い結界が、カイトの放つ「気」に耐えかねたように、パリンと音を立てて砕け散った。




