第12話:絶望の『魔封じの領域』
王都の北門は、地獄と化していた。
帝国の『魔封じの結界』が完全に定着し、空は赤黒く淀んでいる。
「ああ……力が、力が抜けていく……」
王国の誇る第一部隊の騎士たちが、次々と膝をついた。魔力回路を強引に遮断された副作用で、激しい眩暈と脱力感が彼らを襲う。
杖はただの木の棒になり、魔剣は鈍い鉄の塊へと成り下がった。
「ハハハ! 見ろ、この無様な姿を! 魔法に依存しきったブタどもが!」
帝国の重装歩兵たちが、嘲笑いながら迫る。結界の影響を受けないよう調整された「魔導中和鎧」に身を包んだ彼らにとって、今の王国軍は赤子も同然だった。
だが、その蹂躙の行軍を遮る影があった。
「……おい、バルト。重いか?」
「へっ、カイトさん。こいつらが着てる鎧、魔法の防護は凄ぇみたいだが、ただの『重石』にしか見えねえぜ」
カイトとバルトが、悠然と敵陣の前に立ちふさがる。
彼らには魔力回路など最初から存在しない。結界による脱力感など、カイトが課した「酸欠状態での千本突き」に比べれば、そよ風のようなものだった。
「死ね、平民!」
帝国の歩兵が、巨大な戦斧を振り下ろす。
バルトはそれを避けない。
「――『三戦』!」
バルトの全身の筋肉が鋼鉄の如く硬化した。
ガキィィィィィィンッ!!
火花が散り、戦斧の刃がバルトの肩で止まる。肉に食い込むことすら許さない。
「なっ……生身の肩で、戦斧を……!?」
「今度はこっちの番だ。――『正拳突き』!」
ドォォォォォンッ!
バルトの拳が、中和鎧の胸部を直撃した。
魔法を弾くための特殊合金が、紙細工のようにベコりと凹み、中の兵士ごと後方の噴水まで吹き飛んでいった。
「バカな……!? 魔法強化もなしに、あの重装甲を貫通させただと!?」
帝国の将校が絶叫する。
その横では、ルナが流れるような動きで敵の刺突を捌いていた。
「カイトさんに教わった通り……『円』の動きで……!」
ルナが敵の腕を取り、その勢いを利用して地面に叩きつける。
投げられた兵士は、自分の鎧の重さで地面に沈み込んだ。
カイトは、それらの光景を背中で感じながら、敵の本陣を見据えていた。
そこには、結界の核を守る帝国の精鋭「魔導騎士」たちが控えている。
「魔法が使えない絶望……。お前らはそれを他人に強いた。だが、本当の絶望を教えてやる」
カイトが一歩踏み出す。
彼の周囲だけ、結界の赤黒い空気が押し戻され、黄金の『気』が立ち上る。
「魔法がなくても、人間はここまで強くなれる」
カイトの姿が消えた。
次の瞬間、帝国の前列にいた十数人の兵士が、一斉に「くの字」に折れ曲がって宙に浮いた。
目にも留まらぬ速さの連撃。
魔法という「奇跡」を失った戦場において、極限まで磨かれた「身体」は、神の如き暴力へと変貌していた。
「……第十部隊、前へ。ここからは俺たちの時間だ」
絶望に染まった王都に、空手家たちの咆哮が轟いた。




