第11話:王都を襲う影の軍団
空は不気味な鈍色に染まっていた。
王都の北門。かつてない規模の軍勢が押し寄せていた。隣国『ガリア帝国』の魔導軍――だが、その戦い方は異常だった。
「報告します! 第一、第二魔導部隊、共に沈黙! 魔法の発動が阻害されています!」
「馬鹿な! 敵の背後にある、あの巨大な魔道具は何だ!?」
帝国の陣営中央に鎮座するのは、巨大な黒い結晶体。
そこから放たれる不可視の波動――『魔封じの結界』が、半径数キロメートルの全魔力を霧散させていた。
魔法騎士たちは、ただの重い鎧を着たデクの坊と化した。
そこに、帝国の「影」と呼ばれる暗殺部隊が、魔法に頼らない冷徹な剣技で斬り込んでいく。
「ぎゃあああッ!」
「ま、魔法が……火が出ない! 盾が張れないっ!」
悲鳴が上がる中、門を突破しようとする黒装束の集団。
彼らは魔力を失った王国の騎士たちを嘲笑うように、首を刈り取っていく。
「ふん、魔法に溺れた軟弱な国よ。杖を失えばこの程度か」
影の軍団の長、漆黒の双剣使いが笑う。
だが、その冷笑は、一撃の「音」によって掻き消された。
――ドォォォォォンッ!!!
先頭を走っていた暗殺者の胸板が、ありえない角度で陥没し、後方の石壁まで吹き飛んだ。
砂塵の中から現れたのは、白い布を腕に巻き、静かに拳を構える男――カイトだった。
「……誰だ? 貴様、魔力が感じられんぞ。魔法騎士ではないな?」
「ああ、見ての通り無能だ。……だから、この『魔封じ』とやらは、俺には何の関係もない」
カイトの背後から、バルトとルナ、そして聖女セレスティーナまでもが姿を現す。
彼らは皆、カイトと共に「三戦」の呼吸を刻み、魔法に頼らない肉体を作り上げていた。
「バルト、ルナ。左右を頼む。セレスティーナは負傷者の救護……いや、『突き』で敵を寄せ付けるな」
「了解だ、カイトさん! ……よっしゃあ、魔法使い様たちが腰抜かしてる間に、俺たちが暴れてやるぜ!」
バルトが巨大な拳を鳴らす。
ルナも眼鏡をキリリと上げ、掌底を構えた。
「なめるな! 魔法の使えぬ平民ごときが――死ねッ!」
影の軍団が一斉にカイトたちへ飛びかかる。
洗練された剣技。だが、カイトの目には止まって見えた。
「――『前蹴り』」
カイトの足が、最短距離を刺すように伸びる。
双剣使いの腹部に突き刺さったそれは、蹴りというよりは大砲の着弾に近かった。
「が、はっ……あ……!?」
内臓を粉砕され、双剣使いは言葉を失って崩れ落ちる。
魔法が消えた戦場。
そこは、魔法の恩恵に縋ってきた者たちにとっての地獄だが、自らの体を武器に鍛え上げた空手家にとっては、これ以上ない「独壇場」だった。
「……言ったはずだ。魔法が消えた戦場、そこは俺の土俵だと」
カイトの右拳が、黄金の「気」を微かに帯び始める。
王都を襲う影を、一掃する嵐が今、吹き荒れようとしていた。




