第65話 パンを食べながらの観劇と、モルー劇場による余波
モルーの演技だよ? ケリーさんは実際に、グルルがシエラやマーゴおばあちゃんにやられる姿を見ていないんだから、本当かどうか分からないでしょう? モルーが、盛っているだけかもって思わないといけないと思うんだ。……まぁ、ほぼほぼ、モルーの演技通りではあるけどさ。
だけど、どうにもケリーさんは、本当かどうかは置いておいて、マーゴおばあちゃんとシエラのことが気に入ったらしい。話していること、行動、両方をね。
それで、少し前にセバスチャンさんが私に、今のうちに1人ずつ、食事をとって良いかって聞いてきたんだけど。どうもゴンおじさんを調べるのと、他の仕事で、まだみんなご飯を食べていなかったらしくて。
それなのに、これから何が起こるか分からないでしょう? だから私のいる目の前だけど、ご飯を食べていいか聞いてきたの。
なんかその辺の、貴族の作法とか分からないけど。私がそれを、拒否するなんてことはありえないからね。すぐに、ご飯を食べてもらうことにしたんだ。
そうして、最初にセバスチャンさんが、次にライラが。最後にケリーさんがご飯を食べてね。そう、食べたんだけど。
ケリーさんの今日のご飯は、私のパン。これは、遊びにも訓練にも使えるおもちゃを作って貰ったお礼にと、モルーとシー君とクー君が、お礼にパンをあげてと言ってきて。
私もお礼をと考えていたから、3種類のパンを、ケリーさんに渡し。そのパンを、ケリーさんは今日の夜、食べる予定だったらしいんだ。
それで、おもむろに袋からパンを出したケリーさん。そのまま歩き出したから、どこへ歩いて行くのかと思ったら、まさかのモルーたちのところで。シー君とクー君の後ろに並び、モルーの演技を見ながら、パンを食べ始めたんだよ。
そう、それだけ、興味があったってこと。食べていた時間は、ほんの15分の間だったけど、少しもよそ見することなく、しっかりと演技を見たケリーさん。そして食べたあと、少しだけ食休みをした後にやったのが、さっきの素振りだったんだ。
「残念ですね。私はこの間、洞窟へ行けず。シエラ様とマーゴ様にお会いすることができなかった。もしもお会いでき、話をすることができていたなら、今頃私の訓練は、もう少し進んでいたかもしれません」
「訓練ばかり増やすのも考えものですよ。まずは奥様の動きを、完璧とまではいかなくとも、もう少々出来るようにならなければ。ですが、そうですね、私たちが動きを勉強することで、他の者たちの訓練を、より良いものにできるかもしれない。ふむ、ここは後ほど、奥様に相談した方が良さそうです」
うん、本当にやめてあげて。みんな訓練で強くなる前に、動けなくなっちゃうかも。それどころか、完全に回復できずに後遺症が残って、本来の仕事ができなくなったら? 退職しなくちゃいけなくなるかもしれないよ。それじゃあダメでしょう。
「ふわぁぁぁ」
なんて考えていた私。ただ、話は物騒だけど、グルルたちの様子を見ていたら、気が抜けたのか、セバスチャンさんとケリーの話を聞きながら、大きなあくびをしてしまったよ。
「これは私としたことが。ライラ、すぐにリア様の寝る準備を」
「はい!!」
「モルー様、楽しいお芝居をありがとうございました。ですが、そろそろもう1度お休みになられてはいかがでしょうか。リア様も眠たそうになさっていますし、皆様も緊急のことだったとはいえ、もう少しゆっくりとお休みになられた方がよろしいかと」
『まだまだ、たくさんあるんだじょ』
『楽しいいっぱい』
『でも、うん、ちょっと眠いかも』
『じゃあ、また起きてからやるんだじょ』
『そうだね』
『そうしよう』
モルーが、ぬいぐるみや小道具を片付けに行く。
『起きたらゴンおじさんがいて、一緒に見られるかもよ』
『あ、そうれだと良いなぁ』
『ゴンおじさん、ビシバシやってるかな?』
『ビシバシはさ、モルーが、グルルはビシバシでも大丈夫って言ってたから、それは良いけど。でも、僕たちが教えた言葉を言えば、ビシバシがなくなって、もっと早くここへ来てくれるかも』
『グルル、ちゃんと言ってくれるかな?』
『おじさん、ちょっと忘れちゃうそうな感じするもんね。それで、悪い悪いって、本当に謝ってるのか分からない謝り方しそう』
『パパたちそうだったもんね』
『なんか心配になってきちゃったな』
『寝ちゃえば良いよ、寝て、心配忘れちゃおう』
『そうだね』
ビシバシでも大丈夫って言ってたから、それは良いけどって、それはちょっとあれだけど。観察眼は、なかなか鋭いな。
シエラやマーゴお婆ちゃんに言われたことを、やらなかったり忘れたりして、グルルが、悪い悪い、ガハハハハハって、そんな謝り方するもんだから。それでまた、吹っ飛ばされていたんだよね。
『何の話、してるんだじょ?』
『グルルの話と、パパたちの話だよ』
『あのね、グルルは、パパたちに似てるかもしれないんだ』
そう言い、戻って来たモルーに、今の話をするシー君とクー君。その間に私はライラの方へ。もうすぐ、ライラの準備が終わりそうだったから。私たち用に、ベッドのマットや毛布を、ふかふかな物に変えてくれているんだ。
そうそう、マジックバッグは移動の時は必ず持って移動ね。ほんのちょっと、移動する時もね。ソファーからベッドに移動する時も、おもちゃを取りに行く時も、必ず持ったまま。寝る時は枕元に。
これは、いつ何が起きても、マジックバッグを取りに行かなくても良いよにね。
例えばおもちゃを取ろうとして、ソファーにマジックバッグを置いたまま、玩具箱のところへ行った時に、爆発が起きたとする。
それでその時に、ソファーまで戻れれば良いけど、そんな余裕もなく、直ぐにそのまま逃げなくちゃいけないってなったら? 大切なマジックバッグを置いていくことになったら、大変でしょう? だからセバスチャンさんたちも、必ず身近にカバンを置いているんだ。
数分後、ライラの準備が終わって、私はモルーたちよりも先にベッドへ。そうして、枕元にマジックバッグを置き、ベッドに潜り込むと。今、何してるのかな? 無事かなとか? とグルルの事を考えて。でも、それから10分もしないで、私は眠りについたんだ。
でもこの後、また直ぐに起こされることになるなんて、思ってもいなかったよ。しかも、起こされ、慌てて目を覚ました私の前には……。




