第64話 避難部屋のモルー劇場とケリーさん
『俺は何もしてないだろう、なんだじょ!!』
『片付けろって言ったでしょう、なんだじょ!! ビシッバシッ!!』
『ギャアーなんだじょ!!』
『ふぉー!!』
『へやぁー!!』
『早く片付けなさい、なんだじょ!! ドシッドカッ!!』
『グアァァァなんだじょ~』
『ふぅふぅっ!!』
『ちょおちょお!!』
『まだ片付けてなかったのかい、なんだじょ。まったく見本にならないといけない大人が、サッサと片付けないかい、なんだじょ! ドゴォォォッ!!』
『ぐえぇぇぇなんだじょ~!?』
『ひゅーひゅー!!』
『ひょーひょー!!』
「なるほど、何度言っても分からない場合は、あれくらいやった方が良いということですね」
「わ、私、が、頑張ります!!」
いや、ケリーさん、やっちゃダメだからね? あれはグルルだから、大丈夫なだけだからね? いや、自分で回復をしなくちゃいけないくらいにはやられるから、大丈夫とも言えないのか?
「普段の訓練に、今の動きも加えれば……ふんっ!!」
……ケリーさんの動きが早すぎて、何をしているか分からないけれど、それは絶対に、やめた方が良いよ? そんな見えない攻撃なんて、確実に死人が出ると思うから。
というかね、私たちは避難をしているはずじゃ? この避難部屋へきた時の緊張感とか、心配とか、完全になくなっているんだけど。それどころか、いつも以上に盛り上がってるし。魔獣が2匹増えるだけで、ここまで騒がしくなるっけ?
いや、洞窟の時のことを思い出せ。あの時の騒がしい生活を。あの頃は……、あの頃もこんな感じだったか?
グルルとモルーとシエラと過ごしていた時は、まぁまぁ静かだったけど、1匹でも、誰かが私たちの寝床に訪ねてくれば、かなりうるさくなってたような。
まぁ、今モルーがやっているアレで、誰も訪ねてこなくても、煩い時もあったし……。
ただ、でもだよ、でも。今は避難中だから、もう少し静かに待っていても良いんじゃないかな? セバスチャンさんが注意しないから、これくらいは問題ないとか? 確か、音漏れもしない部屋だって言ってたし。 う~ん。
グルルがササっと結界を張って部屋を出て行ってから、1時間くらい経ったよ。ここまで派、特に何か問題は起きてないかな。ただ、この1時間の私たちといえば……。
まずグルルが出て行って5分くらいして、床下から部屋に入ってきたのは、セバスチャンさん。非常脱出口の1つが床下にあって、そこから入って来たんだ。
いやぁ、突然床下が動いて、セバスチャンさんが入って来た時は、ビックリしたよ。モルーとシー君とクー君なんて毛を逆立てて、壁際まで逃げたからね。
ただその後は、非常脱出口に興味深々で。シー君とクー君の、グルルに連れて行ってもらえなかったモヤモヤも、これで解消されたみたい。うん、それは良かったかな。
それから、他の出口を探すって、頑張って探し始めたしね。うん、だからね、怖がらないのは良いことだって、この時はそう思ったよ。正体不明の何かが怖いって、震えられているよりは良いかなって。
あ、グルルの結界は、非常脱出口のところにはないよ。綺麗にそれを避けて、結界を張ってくれたから、セバスチャンさんは非常脱出口から、入ってくることができたんだ。
そうして30分くらい、探していたモルーたち。と、ここでモルーが、グルルは早く帰ってくるだろうから、早く見つけないとって言って、それに食いついたのはシー君とクー君。
そういえば、グルルは誰かにいつも、ビシバシやられてたって言ってたけど、どのくらいビシバシだった? 本当に大丈夫? って聞き始めたの。
それで、非常脱出口は探したいし、話しをしたいし聞きたいしで、あっちへソワソワ、そっちへソワソワし始めたモルーたち。
それを見たセバスチャンさんが、避難が終わったら、別の日にまた探す日を作るから、今はグルルの話をした方が良いんじゃないって、提案してくれてね。それからが、モルー劇場の開演だった。
私のマジックバッグじゃなく、すぐに遊べてすぐに片付けられるようにと、おもちゃ箱も持って来ていたんだけど。その中からマーゴお婆ちゃんとシエラの、ライオンぽいぬいぐるみと、ヘビのぬいぐるみを選んだモルー。
そうして自分がグルル役になって、グルルがマーゴお婆ちゃんとシエラに怒られる時の様子を、演劇みたいにやり始めたんだ。
『早くやりなさい、なんだじょ!! ビシッバシッ!!』
『サッサと綺麗にしないかい、なんだじょ!! ドガッドシッ!!』
『ぎゃあぁぁぁなんだじょ~!!』
さっきも今も、こんな感じで1人3役、やっているモルーだよ。
そして、そんなモルーの演技に興奮して、よく分からない歓声を上げているのが、シー君とクー君。テンションが上がりすぎて、奇声を上げているの。
それにぬいぐるみを使って、モルーが演技しているだけだけど、マーゴおばあちゃんとシエラの応援をして。自分たちも一緒に、パンチをしたりキックをしたりしているんだ。
ただ……、モルーやシー君やクー君みたいに、騒いではいないけれど、静かに喜んで、モルー演技を見ている人が1人。それから慌てて、ミスを起こしそうな人が1人。
ケリーさんがね、モルーの演技だけ見て、目をキラリと光らせ、さっきのあれね。
「なるほど、何度言って分からない場合は、あれくらいやった方が良いということですね」
なんて言い出し、見えない攻撃の素振りを始めちゃったんだ。




