第54話 ママの豪快な投げと、爪先ちょんの飛躍?
『ママ、凄い!!』
『ママ、面白い!!』
『ママ、もう1回やって!!』
『うん、もう1回!!』
『おいらも投げて欲しいじょ!!』
よほど楽しかったのか、シー君とクー君は、何のために投げられたのかを、すっかり忘れているのか、ママにもう1度とお願いし始めた。って、いつも投げてもらっているモルーまで、お願いしてどうするの。
「みんな、いまは、ママがどうやって、あたちたちのほうにきてくれたか、おちえてもらうんでちょ」
『あっ、そうだったじょ』
『ん? 何だっけ?』
『面白いし、もう1回しない?』
しないしない。大体ママたちは忙しいんだから。シー君とクー君の、ゴンおじさんについて調べなくちゃいけないのに。って、考えたら、ママがどうやって、こっちまで進んできたかは、後で教えてもらえば良かったじゃん。
私としたことが……。びっくりして思わず聞いちゃったよ。
『シー、クー、さっきママがどうやって飛んだか、教えてもらうんだじょ。忘れてたじょ。ここからだと、ママが飛んでこられたのが、何でか分かるんだじょ』
『あっ、そうだった!』
『……もう1回はあとで?』
クー君、そんなに楽しかったのか……。
「ふふ、遊ぶのは、また今度ね。さぁ、ママが今から教える場所を見てみて」
ママがもう1度、あの1センチの隙間を指差す。そこを目を細めて、じっと見るモルーたち。分かるかな?
う~ん、でも、分かったところで、だよね。1センチの隙間に、どうやって足を付けてジャンプしたんだろう?
『……小さな穴なんだじょ?』
『本当だ、小さな穴がある』
『小さい。シー君とぼくの爪よりも小さな穴』
あまりにも小さな隙間だから、穴に見えちゃったみたい。影で黒く見えるしね。
「みんな、あなじゃない。あしょこ、ゆかがみえてるんだよ」
『床なんだじょ?』
『ゆか、ゆかなぁに?』
『ゆ~か?』
「ゆ~かじゃない、ゆか。いま、あたちとママがたってるところ。みんなが、あるいてきたところだよ。おうちのなかは、ゆか、おしょとはじめんっていうの」
この説明で分かるかな?
『ゆか、じめん。僕たち、地面知ってる。でも、ヒトミがいる場所はゆか。ふ~ん?』
『地面と同じだよね? 何でゆか? 変なのぉ』
『歩くの一緒なのに、おかしいんだじょ。でも、床って言うんだじょ。……この穴、床なんだじょ?』
「うん、あなじゃない、ゆか。だからママは、しょこにあちをちゅいて、じゃんぷちた。ママ、しょう?」
「ええ、そうよ。足をちょんとね。こうよ」
ママがすぐそばにあった本を重ねて、それからその横に立ったよ。そう、立っただけね。でも、
「こんな感じに、ちょんってしたのよ。分かったかしら」
って言ったの。
分かったかしらって、何が? ママは本を重ねて、その横に立っただけでしょう? まだ、何もやっていないのに、分かったかしらって。そんなこと言ったら、またモルーたちが混乱しちゃうよ。
『ちょんじょ?』
『ちょんってなぁに?』
『ちょんってちょん?』
クー君が爪先で、ちょってお兄ちゃんを突く。
「しょ、ちょんはちょんってしゅる、あっちぇる」
『どう、ちょんってするんだじょ?』
『ちょんちょん』
『ちょーん!!』
「ママ、はやくみしぇてあげて、あたちもみたい」
「ヒトミちゃん、みんなも、ママはもう、ちゃんっとしたわよ」
え? だってママは本の横に立っただけで、まだ、何もしてないでしょう?
「ママ、まだなにもちてないでしょ?」
『まだ、何もしてないんだじょ。早くみたいじょ!』
『見たい見たい!』
『早く見たい!!』
「だからね、ママはもう、ちょんとしたのよ。本をここに並べてすぐにね。もう、ちょんは終わったの」
「?」
『『『?』』』
みんな黙っちゃったよ。私もね。そうしたらグルルは溜め息を吐き、パパとエリオットお兄ちゃんは苦笑い、セドリックお兄ちゃんは大笑いし始めたんだ。
『まったく、お前のあれのスピードが、ヒトミやモルーたちに分かるわけがないだろう』
「俺でも、ギリギリ見えるくらいだからな」
「母上は、分かっていてやるんだから」
「ハハハッ!! 大丈夫だぞ。俺も見えるようになったの、数年前だからな!!」
「ゴンおじさんについて調べないといけないんだから、早くヒトミたちに教えてしまえ」
「小さい子たちの、この何とも言えない表情が可愛いのよねぇ。はぁ、調べ事がなかったら、もう少しこの可愛い姿を見ていられるのに。でも、今はゴンおじさんだものね。あなたたち、みんなをこっちに戻して」
何? どういうこと? パパがモルーを、お兄ちゃんたちがシー君とクー君を、順番にママの方へ投げてくる。うん、ママみたいにキレのある投げ方じゃないけど、みんなママのところまで、ちゃんと投げ戻ってきたよ。
ただ、それに不満のモルーたち。ママのあのスピードが、やっぱり好きらしい。ほら、ゴンおじさんのことが終われば、またやってもらえるよ。
と、私がそれを言う前に、モルーたちのあまりの不満顔に、ママは笑いながら、投げて遊ぶことを約束してくれて、なんとかみんな落ちついたんだ。
そして、すぐに足ちょんを見せてもらう。
「いい? こう、ちょん、としたのよ?」
ママが、床にそっと、靴の爪先をつける。うん、そうだよね。やっぱりあの隙間にちょんってなると、爪先をつけるって感じだよね。でも、そうなると……。
1センチの隙間に爪先? 本を踏まないようにするには、本当に先の先しかつけられないよね? それで、あんなにしっかりジャンプできるの? ん?
『爪先なんだじょ?』
『爪先、ちょん?』
『ちょんちょん?』
「いい? さっき、あなたたちが穴って言っていたのは、これよ」
ママがささっと本を動かし、穴に見える1センチの隙間を作る。そうして、1人ずつ、見せて触らせて、穴じゃないことを説明した。それでモルーたちは、一応納得してくれたんだけど、その後が……。
「ね、ここは穴じゃなく、床が見えている場所で、ママはここに、爪先をちょんとしたのよ」
靴を脱ぎ、隙間に、ちょんとする真似をするママ。
そうしてその後の行為で、モルーもシー君もクー君も、余計混乱することになっちゃったんだ。というか、私もね。




