第55話 モルーたちのさらなる混乱とケリーさんの特訓
『おかしいんだじょ』
『おかしいよね』
『とってもおかしい』
『ヒトミもおかしいと思うんだじょ?』
「……うん、おかちいとおもう」
絶対おかしいよ。
「あの、ケリーさん」
「なぁに?」
「ヒトミ様方は先ほどから、どうして『おかしい、おかしい』とおっしゃっているのですか?」
「ああ、つい先ほど、奥様がジャンプ歩きをなさったのです。それで、その様子を奥様が教えてくださったのだけれど、実際には見えなかったものだから、驚かれたのよ」
「ああ、あのジャンプ歩きですね。なるほど、それではああいう感想にもなりますよね。奥様、よくこちらへお越しになりませんでしたね。子供たちが不思議がっている姿を可愛いと、いつも楽しまれておられるのに」
「今は、ゴンおじさんのことを調べなくてはなりません。私も、これが終わり次第、図書室へ向かいます。ライラ、ヒトミ様方のこと頼みましたよ。後ほど執事長がお見えになりますから、大丈夫だと思いますが」
「はい!! ……私、今だに奥様のあの動きを、見ることができません」
「あなたがここで働き始めて3年。そろそろ、見えるようにならなければ」
「ケリーさんは、しっかり見えているんですよね」
「あなたと共に入ったミリアも、数回に1回、見えるようになりましたよ。私は今、訓練中です。まだ、奥様の半分ほどしか、進むことができていないので、もっとしっかりと訓練しなければ」
「ミリアが!? それにケリーさん、奥様と同じ動きができるんですか!?」
「ライラ、静かになさい」
「あ……すみません。でも、ケリーさん、本当に奥様の動きが?」
「ええ。ですが今も言いましたが、奥様の半分ほどしか、進むことはできません」
「半分でも、同じ動きができるなんて!!」
「ライラ」
「あ、すみません」
「いいですか。ミリアが見えるようになったのです。あなたも負けずに、奥様の動きを見習うように。そして、全てをできるようにとは言いませんが。奥様のように動ける方は、そうはいないでしょうからね。ですがそれでも、奥様を見習い、少しでも動けるようになることが、ヒトミ様方を守ることにも繋がるのです」
「はい!! 頑張ります!!」
ん? なんか向こうから、おかしな会話が聞こえてきたような?
『おかしいんだじょ』
『おかしいよね』
『とってもおかしい』
『ヒトミもおかしいと思うんだじょ?』
「う、うん、おかちいとおもう」
って、こっちはこっちで、さっきからずっと、同じこと言ってるし。まぁ、そうなるのも仕方がないんだけど。
私たちが今いるのは談笑室。そして私の前には、驚きすぎて、元に戻れなくなっちゃったモルーとシー君とクー君が。私の靴を持ちながら、同じことを何度も繰り返し、私に言ってきているよ。
ママが見せてくれた、爪先ちょん。でもよく分かっていなかった私たちに、次にママ見せてくれたのは、手に靴を被せての、ちょんだったんだ。足よりも手の方が遅いからって。ただ……。
めちゃくちゃ遅くしてもらったちょんは、もちろん見えたんだけど。ママが少しでも早く手を動かすと、まったく見ることができず、モルーとシー君とクー君はさらに混乱。私もさすがに驚きすぎて、無言になっちゃってね。
その驚きのまま、私たちはママたちの仕事部屋から、退場することになってしまったんだ。
はてなマークが頭の上に見えそうなくらい、混乱しているモルーたちが、トボトボと廊下を歩き始め。私は、そんなモルーたちの、すぐに後ろをついて行こうとして、その前にママを見たら、ママは本当に楽しそうな顔をしていたよ。
そうしてモルーたちは、あまりに考え込み過ぎて、廊下で何度か転びそうになりながらも、何とか談笑室に到着。
それからすぐに、自分たちでも爪先ちょんをやりたいと言い出し。ケリーさんが、靴を用意してくれようとしたんだけど、モルーたちに大人の靴は大き過ぎてね。
サイズ的に、私の靴が1番良いってことで。私の靴を貸してあげて、それで爪先ちょんを始め、今は足じゃなくて、手でちょんをしているところなんだ。
「おかしいんだじょ」
『おかしいよね』
『とってもおかしい』
『ちょんするまえに、靴落ちちゃうんだじょ』
『やっとできても、今度は上げる時に落ちちゃう』
『さっき、どっか飛んでった』
『ママはこうやったんだじょ』
『僕たち同じことしてる』
『でもできない』
『ヒトミもできないんだじょ』
『うん、ヒトミもできない』
『ライラもできない』
『みんなできない。おかしいんだじょ』
本当にね。モルーたちじゃないけど、ママの動きはおかしいとおもうよ。というか、ケリーさんも、さっき凄い話をしていなかった? 訓練をしているとか、ママの半分くらいの距離だけど、できるようになったとか。
『できないんだじょ!!』
『『できない!!』』
『靴が早くうごかないんだじょ!!』
『『動かない!!』』
あーあー、おかしいから、できない、イライラに変わって。早く足や手を動かすから、靴を早く動かす、に変わっちゃったよ。
「皆様、よろしいでしょうか」
『ケリー、できないんだじょ!!』
『僕たちも、やりたいのに!!』
『ぼくたち、何でできなにの!!』
「皆様、奥様のあれは、すぐにできるものではございません。たくさんの練習をしなければ、できないのですよ。私も奥様と共に訓練をし、1人でもたくさんの訓練をしているのです。ですから少しですが、私もできるようになりました」
『ケリーできるだじょ!?』
『できるの!?』
『できる!?』
「ええ。奥様のように、完璧にはできませんが。それと、モルー様も、シー様、クー様も、少々違いますが、足や手を使わなくとも、靴を早く動かすことはできるのですよ」




