第53話 子魔獣は楽しいけどグルルは引く、ママの腕力
『ここなんだじょ?』
『なになに?』
『どこう?』
少し黙ったままだったモルーとシー君とクー君が、ママが指差した場所へ行こうとする。
「ああ、待って。モルーは飛んでいけるけど、シー君とクー君は……そうね。エリオットがシー君を、セドリックがクー君を、その場で抱っこしてあげて。そこからなら、しっかり見えるわ」
「分かった」
「あいよ!」
「セドリック、せめて普通に返事をしなさい。あいよ、だなんて、リアちゃんたちが真似するようのなったらどうするの」
「へ~い」
『『『へ~い』』』
「セドリック!!」
「分かったよ」
まったく、ママじゃないけど。モルーたちに変な言葉使い教えないでよ、セドリックお兄ちゃん。シー君とクー君は、これからどうなるか、まだ分からないけど。私とグルルとモルーは、時々洞窟へ帰るんだよ?
それで、もしもモルーが変なこと言ったら、シエラとマーゴお婆ちゃんに怒られるのは、モルーなんだからね。
シエラとお婆ちゃんは、こういうことに厳しいの。グルルがモルーに、汚い言葉遣いを教えた時なんか、グルルは2人に吹っ飛ばされた後、1日どころか3日間、お説教され続けて。モルーも半日だったけど、やっぱりずっと怒られていたんだから。
パンが作れることが分かったから、もう少し試してみて。それからパンの数が揃ったら、持っていく予定なんだ。それで、みんなでゆっくりしたいと思ってるのに。その時ずっと、お説教コースなんて、そんなの嫌じゃない。短い時間を、みんなと楽しく過ごしたいもん。
「シー君、クー君、これから2人が本を踏まないように、シー君はエリオットの方へ、クー君はセドリックの方へ投げるわ。ちゃんと2人のところへ投げるから、シー君とクー君は暴れずに、静かにしていてね。できるかしら?」
『投げる?』
『ぼくたち?』
「そうよ、こんな風にね。モルー」
『はいなんだじょ!』
「あなた、投げるわよ!」
「ああ」
「モルー、抵抗しないで、そのまま投げられてね」
『はいなんだじょ!!』
「それ!!」
そう言って、パパの方へモルーを投げるママ。結構な勢いで投げられたから、かなりのスピードでクルクル回りながら、パパの方へ飛んでいくモルー。そんなモルーを見もしないで、本を見たまま、しっかりキャッチするパパ。
投げるとは、どういうことか!! って怒る人もいるかもしれないけど。魔獣たちは、これが大好き。
ここへ来て友達になった魔獣が、時々遊びに来るんだけど。ママの仕事や用事がない日に遊びにくると、どの遊びよりも優先して、ママに投げてもらって遊ぶくらいなんだ。
『シー、クー、こうなんだじょ。動かずに、投げられたままでいるんだじょ。怖くないから、大丈夫なんだじょ。それよりもとっても楽しいんだじょ!!』
『わぁ!! 凄い凄い!!』
『面白そう!!』
『じっとしてれば良いんだね!』
『動かないで、ビューン!!』
『そうなんだじょ!!』
ママが飛ばせるのは……グルルよりちょっと小さい魔獣まで。うん、なんていうかな。小さめのオスライオンくらいまで? 凄いよね。それくらい大きな魔獣を、簡単に投げるんだよ?
初めて見た時、驚きすぎて固まってしまった私。でもママに、これくらいの普通よって言われて、さらにビックリして。
ただその後、ママ以外に、そんなことをしている人を見たことがなくて。本当? って、ちょっと思っていたんだ。
だけど、パパ曰く。ママには妹がいて、妹さんも投げられるけど、ママほど完璧に投げられず、別の方へ飛ばしちゃうから、安全を考えるならママに投げてもらえ。って言ってたから、たぶん本当なんだとも思う。
「それじゃあ、シー君とクー君、同時に投げましょうか。さぁ、抱っこするわよ」
ママがそう言いながら、シー君とクー君を抱える。ママ、それは抱っこじゃなくて、抱えるだからね?
「それじゃあいくわよ~……それ!!」
2回転し、その勢いのまま、シー君とクー君をお兄ちゃんたちの方へ投げたママ。
『ふにょおぉぉぉ』
『ふにゃあぁぁぁ』
モルーの時ほどスピードは出ていないけれど、やっぱりかなりの速さで、横回転しながら、楽しそうな声を上げて、飛んで行ったシー君とクー君。そんな2人を、お兄ちゃんたちはバッチリキャッチ。
『ふわわわわ!! 凄い凄い!!』
『楽しい!! ゴンおじさんみたい!!』
うん、楽しかったみたいで何より。あっ、グルルが嫌そうな顔でままを見てる。まぁ、グルルは、良い思い出ないもんね。
実はママ、1度だけ、グルルを投げたことがあるんだ。
ママはね、私たちがここへ来る前まで、丸太とか岩とか、大きく重い物で、投げる練習をしていたらしいの。
そうしたら、グルルが来たから、魔獣を想定して投げてみたいって、グルルに投げさせてくれってお願いしてきてね。
グルルは最初、魔獣の死体でやれば良いだろう、と言ったんだ。だけどママは、生きている魔獣で試さないと、何かあった時に対処できないでしょう、って言ってきて。
何かあった時? 魔獣を投げる何かってなんだ? と思った私。それは私だけじゃなく、グルルも同じで。理由を聞いても、やっぱりグルルは断ったんだ。でも結局、ママの勢いに負けて、投げられることを了解することになって。
そうして、いざ投げられてみると……。ママは、1メートルだけだったけど、グルルを飛ばせたの。
さっき、小さめのオスライオンくらいって言ったのは、完璧に投げられる大きさで、何気にグルルも、ちょっとだけ投げられたんだ。
それで、投げられたグルルは、かなり驚いて。というか、恐怖を感じたらしく。ママがいないところで、3日くらいずっと、あれはおかしいって言っていて。
それからママが投げているところを見ると、嫌そうな顔で、ママを見るようになっちゃったんだよ。
『どう考えてもおかしいだろう……』




