第52話 床が見えないほどの本と、ママの通り道?
私がドアのところからそっと部屋の中を覗くと、私の後ろから真似をして、ちょっとだけ顔を出し、部屋の中を見るシー君とクー君。それから……。
「うっぷっ!?」
『調べてるんだじょ?』
「もるー、じゃま。なんであたちのかおに、へばりちゅくの」
『なんとなくだじょ』
なんとなくで、私の顔にへばり付かないでよ。何も見えないじゃない。私はモルーを掴み、ポンッとその辺に放る。
すると、2、3回回転しながら飛んでいったモルーは、その勢いのまま水泳選手並みの回転方向転換をして、私の方へ戻ってきて。今度はちゃんと、私の頭の上に乗ったよ。
まったく、ただ部屋を覗くだけなのに、ひと手間もふた手間もかかるったら。
『ふわぁ、あれなぁに?』
『四角い平べったい物がいっぱい!!』
『厚いのもあるね!!』
『それにみんなペラペラしてるよ』
「え、しゅご!」
『いつもよりも、いっぱいなんだじょ!』
「う~ん、これでもないわよね?」
『んだじょ? ママの声がするのに、ママいないんだじょ?』
それはね、机に置いてある本のせいで見えないからだよ。ママは向こうにいて、声だけ聞こえてきてるの。
……というか、この本の量。ケリーは確か、新しい記録から確認してるって言ってたよね? これ全部が新しい記録? まさかね?
ママの仕事部屋には、もともと本がたくさん置いてあるんだ。もちろんその全てが、仕事に関係ある物で、ないと困る物だから、置いてあるんだけど。時々その本たちに、モルーと私が引っかかり、転びそうになることがあるくらい、たくさん置いてあるの。
だけど今は、いつもの倍以上? 足の踏み場もないくらい、というか床がまったく見えないくらい、ぎっしり置いてあって。
それだけじゃなく、テーブルやソファーにもどっさり置いてあり。その中に、パパとお兄ちゃんたちがなんとか座って、調べているって感じだったんだ。
そして、ママの仕事用机にも、本の山が、ドンドンドンッ!! と乗っていてね。ママの姿が、完全に隠れちゃっているよ。
『こいつではないな』
グルルの声が聞こえて、そっちを見る。うん、グルルだけが、パパたちよりはゆっくり、本を見られているかな。大きな書類棚の上に乗っかり、伏せをしながら、ページを開いているし。
あっ、ちなみにグルルもモルーも、ちゃんと色が認識できているんだ。地球の動物だと、この色は認識できるけど、こっちも色は認識できないとか。他にも、物を認識するのに、平面として捉えるか、立体として捉えるか、とかいろいろあるでしょう?
この世界の魔獣のほとんどは、人と変わらないみたいなの。だから紐を選ぶのも、時間がかかったんだよ。
というか、私には同じに見える物が、グルルとモルーには違って見えるようで、ここが違う!! なんで分からないんだ!! って怒られたし。
こんな感じだから、グルルが本を見ることに、問題はないんだ。
『あれは、本て言うんだじょ』
『ほん?』
『食べられるの?』
『食べちゃダメなんだじょ。本にはいろんなことが書いてあって、楽しい本と、面白くない本があるんだじょ。それで、ママの部屋には、面白くない本ばっかり置いてあって、リアの部屋と、遊ぶ部屋に置いてある本は、楽しいのばっかりなんだじょ。えっと、書くのは……こうなんだじょ!!』
『『???』』』
モルーがいつもやっている、落書きをしている時の様子を、シー君とクー君に見せる。それにきょとんとする2人。そりゃ、様子だけ見せられてもね。うん、談笑室に行ったら教えてあげよう。
それに、ママの部屋に、楽しい本がないのは当たり前だからね? 仕事部屋には楽しいなんて物はないんだよ。
……いや、そうとも言い切れないかのか? パパの部屋には、仕事と関係ない本も置いてあるからなぁ。
カタログ本じゃないけど、魔法の力で動く道具や、最新作の変わり種の道具とか。そういう物が書かれている、本というか資料ぽい本が置いてあるし。物語や他の娯楽の本も置かれているからね。それでセバスチャンさんに怒られている姿を、何回か見たし……。
「ん?」
と、パパたちを見ていたら、パパがこっちを見てきたよ。
「ヒトミか。ああ、ずいぶんとふわふわになったな」
「本当だ、ぬいぐるみみたいだね」
「ハハッ、毛のおかげで大きくなったように見えるな!」
「え?」
ガバッ!! とママが本の向こうから姿を現す。それにビクッとなるモルーたち。というかね、モルー。モルーは、気配を感じ取る訓練をしてるでしょうに。何でこの距離で気づかないのよ。
『ビックリなんだじょ!?』
『ビクッてした!?』
『ママ、突然出てくる魔法使える!?』
違い違う、本の山の向こうにいただけだから。
「ママはずっとここにいたわよ。それより、凄く可愛くなったわねぇ」
そう言いながら、ひょいひょいと。広い部屋の、足の踏み場もないほど本が敷き詰められた床を、たったの3歩で、私たちの方へジャンプして来たママ。その姿に、今度は私もビックリして、思わず床とママを何回も見ちゃったよ。
え? どうやってジャンプしてきたの? ママの通った場所には、床が見える場所なんて、少しもないのに。もしかして踏んづけてきた? そんなことないよね? ママは、本を雑に扱ったりはしないもん。
床に置いてるのも、今は状況が状況で、床に置くしかないから、置いてるだけだろうし。だけど、さすがに踏むのはね……。
「ハハハッ、あの顔」
「まぁ、そうなるよね」
『本、踏んづけたじょ?』
『ママはひょいひょいと動ける?』
『ぼくたちの、ママとパパにそっくっり。ママとパパは、人間がぼくたちより、動けないって言ってたのにね』
「あら、モルー。ママは本を踏んでいないわよ。それに、シー君、クー君。人でも、ささっと動ける人はいるのよ」
そう言いながら、ある部分を指し示したママ。そこは、ママが最後にジャンプした場所だったよ。
「ほら、よく見て」
よく見て? 本を? 言われるまま、みんなでじっとその場所を見る。と、本で床が見えないと思っていたのに、そこには、1センチほどの隙間があったんだ。
「ママは、ここを通ってきたのよ。だから本は踏んでいないわ」
……え?




