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開拓村2年目:槍の出番

秋が深まったとは言え、まだ冬には遠いため大丈夫だとは聞かされているが、半数近くの村の大人が出払って防備が薄くなった村。見張りの回数も増えてしまう。

「ははっ。こりゃ多そうだ」

「あんなことさっき言うから!」

「お、スズキ君も言うようになったじゃないか」

「でも、悪しき言葉から魔物は産まれるって言いますしね」


 豪快に笑う女戦士に弓使いが矢を番えながら答える。本日の見張りはこの2人とである。最近多少魔法や槍がうまく扱えるようになってきた気がするのだが、始まった直後に「それなら、今日にでも魔物が襲ってきても大丈夫だな」と軽口を叩かれていた。それに対して言った言葉で正直な胸の内だったが、軽口で返したと思われたようである。弓使いの返答は、言い伝えか迷信であろうことは容易に理解ができるため特にそれについて訊こうとも思わなかった。


「私のが悪しき言葉ってか!?」

「まぁ、でも綺麗な言葉ではないっすね」


 軽口を言われたと思われたのなら、もうそれに乗っかるしかないとちょっといじってみた。緊張が緩んだ気がしないでもない。女戦士は冗談交じりに少し頬を膨らませて不満を漏らした。つられて弓使いも笑いを漏らす。


「もう撃っちまえば?」

「うーん……人が来るまで待ちましょうか」


 冗談はさておき、といった感じの女戦士に弓使いが答える。撃ってしまおうというのは遠めに現れたゴブリンの集団に対してである。これまでの経験からすると撃てばだいたいは逃げていくが、今回は数が多そうでそうとは限らない。鐘を鳴らしたのでもうすぐ寝ていた人たちが応援に来るはずでそれを待とうということである。ただ、逃げていくといってもそれは当たった時の話である。当てること自体は問題ないような口ぶりだ。この夜間にこの距離で当たるということはやはりかなりの腕前なのだろう。確か火縄銃の登場時に画期的だったのはその威力や射程ではなく、そこまで熟練者でなくても扱えるという点にあったのを聞いたことがある気がする。確かにこの距離を当てるのにはかなりの熟練が必要なのだろう。そんなことを妙に冷静に考えている自分がいた。


「そうだな、ゴブリンと言えど、か」

「と言っていたら来ましたね」


 後ろからどやどやと村人たちの足音が聞こえた。弓と火縄銃の違いを無駄に冷静に考えながら後ろを振り返ると


「数は……結構いそうじゃのぉ?」

「大半は森の中だろうから正確な数はわかりませんが……」

「もう撃っちまっていいか?」


 大分せっかちなのだろう。女戦士が横でせかしてきた。それに圧されるかのように駆けつけた村人たちも頷きあった。


――カンッ


 弦音が高く鳴り響いた。自分の肩はその音にびくっと痙攣し、それが気づかれないようにとさらに肩をすぼめる。暗闇の中弓使いの撃った矢がどこに飛んで行ったのか目を凝らす。


「おー、当たったか……な?」

「おっ……」


 隣で首を伸ばしてみていた女戦士がそう言葉を発して数瞬したかと思うとゴブリンたちは一斉に突撃の姿勢をとってきた。それを認めた周囲も声を上げた・


「よっしゃ、じゃんじゃん撃ちまくれ。いや、ちょっとは私の分も残しておけよ」


 女戦士は両手斧を握りなおしながら舌なめずりをする。あまりのイメージ通りすぎる「ファンタジー世界のアマゾネス」の言動にもはや笑ってしまうしかない。一方のゴブリンたちはというと三々五々と突っ込んできたが数匹が遠距離から射抜かれて森の中に引っ込んでいった。


「っち、打ち止めか」

「突っ込んでくればええものを……」

「森に引っ込まれると朝まで睨めっこか」


 女戦士に続いて周囲の村人までもがぼやく。そういえばこの村人たちも年が行っているとは言え、歴戦の傭兵たちだった。緊張感も何もあったものではない。


**********


「はー、もう半分くらいは寝るか?」

「とはいえ、動きがあるうちはよう寝れんだろ」


 2時間近くが経過した。ゴブリンたちは森の中で何やら蠢いているようだが、一向に向かってこない。女戦士は後ろに下がって、どかりと腰を下ろし退屈顔とも不満顔どちらともとれない表情をして貧乏ゆすりをしている。自分の方も、今回は数が多そうとはいえ、何回かこんな経験をしたせいで考えていることは明日の寝不足の心配だけであった。


「あら」


 もう来ないかと思った時、見張り台に残っていた弓使いが声を上げた。何事かと思い首を伸ばして見ようとするが、4,5人乗れば一杯の小さな見張り台はすでに弓持ちの人で満員である。


「はー、どっかで拾ってきた荷車になんかのっけとるな」

「なんじゃ?その隣は木の枝か何かの矢盾か?」

「ゴブリンにしては考えたな」


 会話から察するに矢に懲りたゴブリンたちが、それを防ぐものをなにかこしらえてきたようである。


「確かにあれだと当てづらいですわね……」

「なーに、もうちょっと近づいたら魔法で燃やしてやるわい」


 ぼやく弓使いに村人がこともなげに呟く。


「あっ、動き出しましたね」

「さぁ来い……っと、あん?」


 見張り台の人たちが弓を番えるが、その動きはどうも予想と違ったようである。


「こっちに来ずに横に流れていくが……」

「っち、外したわい」

「横に動かれると当たりづらいですが……はいっ」

「おお、たいしたもんじゃ。儂ももうちょい若ければ夜目が効いたんじゃが」

「目のせいじゃないじゃろ。腕のせいじゃ」


 どうやらまた弓使いが当てたようである。隣の村人は外したようでからかわれている。弓が打てない自分はやることもなく、上での会話を聞きながら、万が一、門が破られた時のために門の裏手に手持無沙汰で待っているしかない。


「ん-……近づいてこんな。どこにくんじゃ?」

「ゴブリンの考えることはようわからんが……」

「後ろで何匹かホブが丸太を抱えておるのか?」


 村人たちが闇に目を凝らして訝しむ中で女戦士ががばっと立ち上がった。


「スズキ君。槍の出番かもしれないぞ。ついてきな」


 そう言って防壁に沿って駆け出し、その言葉で何かに気づいた村人たちもそれに続く。何のことかわからないが、ついて来いと言われた以上、自分もついていくしかなさそうだ。



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