開拓村2年目:壁の穴
今までウェアウルフに防壁を飛び越えられたことはあったものの、それも一匹だけですぐに討ち取られた。それを除けば魔物の襲撃は防壁外ですべて終わっている。今回もそうなるといいのだが……
「この辺か?」
「そうだな。来るとしたら」
「ここなら弓も届きにくいしな」
女戦士と村人が暗闇に佇む壁を見渡しながら話している。聞き耳を立てると何やら防壁の外が騒がしいようだ。何も分からずついてきた自分だったが、ここにきてようやく自分も理解できた。以前にも見張り台の中間地点あたりをウェアウルフに突破されたことがあった。そのため、防壁を強化したものの本格的な対策は次の冬前でいいだろうとなっていた。
「とりあえず松明をその辺に」
「最悪地面でもええ」
暗闇では夜目の効く魔物が有利。言われた通りに周囲に松明を設置しながらも、この壁を一体どうやって超えるのだろうか疑問に思う。ここが弱点であることは分かるのだが人の背丈の倍くらいはあるここを身軽なウェアウルフならともかくゴブリンなどが本当に侵入できるのだろうか。
――ドガッ
何か重たいものがぶつかる音が聞こえた。
――ドガッ
「来たな」
「おう」
すぐに再び同じ音がした。鈍い自分でも気づく。どうやら何かで壁を叩いているようだ。何か所かを叩いているのか音の間隔もまちまちだ。村人は持ってきた銅鑼を鳴らしている。ゴブリンはどれくらいで来るのだろうか。そして、増援はどれくらいで来るのだろうか。今ここにいるのは自分を含めて6人。不安で堪らない。
「この槍の出番も久しぶりだなぁ」
「同士討ちだけは気をつけろ」
さすが元傭兵団、落ち着いたものである。訓練で言われたことを思い出しながら、自分も落ち着こうとする。暗闇で同士討ちの危険があるので魔法はよっぽどの確信がない限り禁止、自分を守ることを優先、攻撃は後回し、とにかく盾だけはしっかり構える、……頭の中で確認事項を並べきる前にいきなり少し離れた壁で今までと違う異音が聞こえた。
「お、意外に早いな」
「一人で突っ込むな、列を組めよ」
「ほいほい」
音のした方向に全員で視線を向け近づいていくと、暗闇の中にぼんやりと壁に穴が空いているのが見て取れた。と同時に、そこからゴブリンが数匹飛び出してきた。すわと構えたが、突然動きがぴたりと止まった。しばし何が起きたのか疑問に思いつつ固まっていると村人が笑い出した。
「ホブが後ろで詰まっているのか」
「今のうちにやっちまえ」
暗闇の奥で何やら壁の穴に何か大きなものが詰まって藻掻いている。空いた壁の穴が思ったより小さかったのだろう。後ろから来ると期待していた増援が来ず先に飛び出たゴブリン数匹が右往左往している。自分がゴブリンの立場だったらたまったものではない。後ろからベテランがついてきてくれると思ったら突然敵の前に放り出された感覚だろう。
「持ってるのも棍棒くらいか」
「捨て駒じゃな」
村人たちがはしゃぎながら一匹ずつ討ち取っていく。一匹のゴブリンがその持っている棍棒すら落としてこちらによろめいて逃げてきた。槍で突けば良かったのだろうが、盾で押し返すだけで精一杯だった。
「スズキ君落ち着けや」
「初めのうちはそんなもんでええ」
自分に押し返されたゴブリンは村人に簡単に討ち取られた。そのちょっと奥では女戦士が両手斧で穴にはまったホブゴブリンの頭をかち割っていた。
「おっさんら、しっかりしてくれ。慣れてないスズキ君のところに逃がすなや」
「すまん、すまん。じゃが、あの間抜け具合じゃ気も抜けるわ」
「そもそもお前さんも雑魚には目もくれずホブに行ったじゃないか」
「やっぱ斧と言えば大物を狩らないとだから、ついな」
現役バリバリの女戦士と元傭兵、まるで何事もなかったように気の抜けた会話である。実際に穴がホブゴブリンの死体で詰まった今やもう安心なのだろうか。
――ガンッ
そう安心しきっていると、また壁を殴る大きな音が聞こえた。いよいよ今までの襲撃とは様子が違うことが実感させられた。今さらながらに不安が増してくる。
「お、別の場所か?」
「ホブも何匹からいたからのぉ」
「まぁ他の奴らもすぐ来るじゃろ」
間抜けな敵のおかげで、一瞬でことが済んだが、銅鑼を鳴らしてからまだそんなに時間が経っていないはずである。となると増援前に次が来るかもしれない。暗闇に耳を澄ませて音の出所を聞くが漫然としか方向がわからない上に一か所ではないように聞こえる。
――バキ、バキ……
そう思ってあたりを見渡した途端に、ホブゴブリンの死体が詰まっている壁自体が傾き始めた。
「くそ、壁ごとぶち倒されるか」
「構えろ!」
壁から少し離れたところに隊列を組み、構えなおす。今度は女戦士もその列に加わった。
―バキンッ
防壁を支える丸太が折れた音だろう。その音とともに壁は徐々に内側に倒れて、3,4メートルくらいに渡って外が見える。その奥の暗闇に丸太らしきものを持ったホブゴブリンが2体その巨体を揺らしながらこちらを見ている。当然のことながらその周囲にはゴブリンも蠢いている。
「敵が壁を越えたら一発だけ魔法。ただし壁が壊れるのはなしな」
「安心しな。わたしゃ魔法は苦手だ」
一番年長の村人が叫ぶが、女戦士が豪快に笑いながら身構える。それに呼応してか、討ち取られた仲間を見てか、それとも人間への敵意からかはわからないがかゴブリンたちが唸り始めた。
なんかフォームも変わっていますね。投稿間隔があきまくっているものの、自分で思っているキリのいいところまではいきたいなと……先が長いですが




