開拓村2年目:王様の耳はロバの耳
村の人たちの多くが山火事対策に森の伐採に行き、村には新しい人たちが出入りし始めた。
「こうか?」
「そうです。で、背中を反って」
村の「精鋭」たちが木の伐採に向かってから3日目である。村の警備を手伝いに来た兵士たち3人に高部君と松田君が筋トレを教えている。3人とも全員女性である。この世界では珍しくもなく、その程度では今さら驚かなくなってきたが、その3人の見た目と構成には目を見晴らされた。1人はこの村の初日にあった女兵士である。会った時には鎧を着ていたためなんとなく体格が良さそうだとしか分からなかったが、薄着の今はその体格が良くわかる。女性とは思えないほど筋肉質で肩幅も広く、そして胸も大きい。ファンタジー世界の女戦士、アマゾネスを彷彿とさせる出で立ちである。さらに新顔の2人も弓装備の細身長身の女性に、少し背が低めの魔法使いであった。想像していたファンタジー世界のパーティーそのもので興奮してしまう。さらに全員が紙を売りつけた魔女といい勝負の露出の多さである。もう完全に秋に入っているというのにこの世界の戦闘職や魔法使いの服装はどうなっているのかと考えさせられてしまう。
「鈴木君が教えれば?」
そんなことを考えながらしばらく筋トレを眺めていたら滝本さんがひょこっと顔を覗かせてきた。今一番の筋トレマニアである小谷君は増えた見張り番のせいでまだ寝ている。そうすると高校時代文化系の部活の彼らよりも自分が適任ではある。あれだけの美女たちならなおさらではある。
「いや、まぁ……」
「あー……ね。王様の耳はロバの耳ってとこか」
自分が口ごもりながら後ろの鍛冶屋に目配せをすると理解して小声で返答してくれた。王様の耳はロバの耳、とは新製法がバレないようにと鍛冶屋の埋めた穴のことである。穴を埋めて今まで作った少数のガラスもそこについでに隠した。その穴の跡が目立たないように上にちょっとした構造物やら道具類やらを置いた。ある程度外部の人が歩き回り始めた村の中で、重大な秘密が足元に埋まっていると考えると不安でたまらない。穴を埋めたのも念のためで気づかれることはないだろうからと言われていたのだが、この近くで彼らとしゃべると何かを察せられそうで躊躇してしまう。
「まぁ高部君も松田君も半年以上経験して、いい先生っぽいし大丈夫か」
滝本さんの言う通りいわゆる文化系一筋だった人たちも上達してあきらかに筋力も伸びてきている。魔力のある世界のせいか、小谷君の教え方がいいためかは分からないが、途中で少し腰を痛めた自分は追いつかれそうである。ウェイトトレーニングを週に1,2回程度取り入れているだけの部活ではあったが、正直文化系出身の人たちに追いつかれるなんて想像だにしていなかった。
「いやー、あんがとな。こりゃ力もつきそうだ」
「いえいえ、代わりに魔法を教えてもらったりしてるので」
「そうね。でも、後ろの村の方々が戦えると自分たちも安心だからね。」
女戦士が礼を言うのに高部君がかぶせた。魔法使いの言うことからすると魔法を教えることにもメリットがあるらしい。考えてみれば補給路の村が襲われて壊滅なんてことになれば砦の兵士達も困るのだろう。少し距離が離れているためあまり交流はなかったが仲良くしておくことにこしたことはないに違いない。
「ではそろそろ、夜の見張りに備えてちょっと昼寝をしてから魔法の練習にしますか」
弓使いの女性の口調はフゼルさんと同じで年下にも敬語である。増えた見張りの代わりに昼間の作業は大幅に減らされ、昼寝と筋トレや魔法の練習に時間が回せている。魔法使いほどでないにしろ弓使いも魔法は得意なようで彼女にも教えてもらっている。この物腰に加えて教え方もうまく教えてもらうのはこの上なく有難いことなのだろう。
「何か?」
「んっと、特に……」
帰ろうと支度していると松田君が訝しげに訊いてきた。なんでもない様子を装って答えたが、自分の表情が冴えないのを察せられてしまったのかもしれない。自分でも分かっていた。魔法の練習に付き合ってもらえるのは有難いことなのはわかりつつも、正直気乗りがしない。その理由は自分でも明白に分かっている。女性の方が魔法が得意なことが多いと言われていた通り、山田さんと滝本さんの上達が早い。逆に一番遅いのは年齢の高い後藤さんで、次いで辻野さん。他の男子大学生は団栗の背比べと言いたいところだったが、どうやら自分が一番遅いようだ。筋力体力でも追いつかれつつあり、魔法も下手となると情けなさがこみあげてくる。伐採は最長で3週間。それまでの間、魔法がうまくなるチャンスなのだが、正直早く帰って来てほしかった。




