開拓村2年目:山火事への対応
ガラス作りが一段落。あとはこれでどれだけ儲けられるかを皮算用しながら過ごしている。
「ほーこりゃすごいな」
「このデカさと透き通り具合なら王侯貴族あたりが飛びつきそうだな」
ついにまともな板ガラスが作れるようになった。それを聞きつけて、作業帰りの人たちが鍛冶場に様子を見に顔を出しに来ている。
「いやー、すごいな」
「最初からやっとけば良かったわね」
「無理だと思っとったわ」
「いやー……なんとか形になりましたね」
口々にお褒めの言葉を頂いて、照れくささ半分、してやったりという感覚が半分である。いや、それ以上にここまでやって無駄にならなかったという安堵感が一番大きいかもしれない。
「で、これは1日のどれくらい作れるんだ?」
一人がフゼルさんの方を向き直って期待混じりの眼差しで訊いた。
「まだ、なんとも……」
フゼルさんは少し首を傾げながら、こちらを向いてから続けた。
「ガラスを冷ます時間がどの程度まで削れるのかにもよるので」
ある程度安定して作れるようになってきたものの、まだまだ試行錯誤の段階である。その試行錯誤も幼少期にガラス作りの経験があるフゼルさんを始めとして、鍛冶場の人に頼りっきりである。こちらを向かれて同意を求められても頷くしかなかった。
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「で、そのあとは?」
帰宅しての夕食後、滝本さんから質問攻めにあっている。ガラス作りに興味がある彼女だが、ひょんな巡りあわせから参加できておらず興味が尽きないのだろう。自慢げに話したい気もするが、成功するか不安から今まであまり積極的に話してこなかった自分が、この段になって饒舌になるのもどうかと思い、言葉少なに返すだけにしている。
「っと、そろそろ、見張り行ってきます」
脇で準備していた高部君たちが見張り番にでかけるようだ。失敗した時の評判を考えてガラス作りに反対していた彼らに対して聞こえるよう声高に成功をひけらかしたいという幼稚で意地の悪い考えが首をもたげた。ただ、自分の手柄とはどうにも思えないことと、何よりそれをしてしまうと仲間内の関係性が壊れてしまいそうで思いとどまった。
「じゃぁ暑さも終わったらだいぶ楽になるね」
「そうなんすよー」
「寒くなったらまたそれはそれで温度管理がめんどうかもしれないけど、鍛冶場の最大の敵がいなくなるのが本当に待ち遠しくて……」
彼らが出て行ったあともガラスの会話は続いており、出て行った彼らには悪いが、これで落ち着いて会話ができる。無駄なことに気を使いすぎであるように感じながらもこれ幸いと会話に加わる自分がどうなのかと思いつつも、人一倍暑さに弱い自分も気温の話に加わった。
「……ああ、じゃぁ明日だな」
そうこうしてるうちに、どうやらパリッセさんが帰ってきたようである。確か今日は村の前に位置している砦の騎士たちと打ち合わせに行っていたはずだ。あまりいい声色には聞こえないのは気になった。
――ギィ
扉の開く音がすると、パリッセさんがその声の通り少し難しい顔をして入ってきた。
「……」
みなで顔を見合わせながら、パリッセさんの様子を伺うがその表情の暗さの原因は掴みかねる。
「ばあさん、すまんが白湯をもらえないか?」
「はいはい」
そう言って、奥さんに飲み物を頼むとどかっと席に着いた。
「ふぅ……あっとだな、今から会合なんだが、スズキ君も加わってくれんか?」
くれないか、と言われても断る理由はどこにもない。むしろ、会合には村の上役の人たちばかりで今まで縁すらなかった。これまで開かれるたびにこの館の応接間らしき部屋でされる会合の間居心地悪く隣の居間で待っていただけである。たぶん名誉なことなのだろうが、パリッセさんの疲れ切った表情を見ると不安混じりで頷くしかなかった。
周囲と話すどころか何事かと考える暇もなく、パリッセさんの後を追ってきたかのように村の上役が到着してしまった。なぜか自分と山田さんが指名されて、促されるままに応接間に入り始まるのを待つしかないようだ。
「よし集まったな」
パリッセさんが見まわし声をかける。村の会計係の女性に、教会の世話役の女性、大工の棟梁に、フゼルさんなど自分たちを含めて計9名。案の定一番最後はボルトラーミさんだっだ。前から分かっていたことだが、議題によって顔ぶれは多少違うようだが村の上役の男女比がほとんど1対1である。我々のイメージからくる中世の元傭兵団とはだいぶ違っている。
「で、今日は?」
一番遅れてきたボルトラーミさんが開口一番切り出した。周囲も慣れっこで気にも留めずに会話を進める。
「ああ、それがだな。山火事があるじゃろ?」
そうである。雨が遅れ気味とはいえちょこちょこ降り始めたにもかかわらず遠くの方とはいえ、くすぶり続けているのは全員が気にしていた。
「もうすぐ本格的に涼しくなって雨が本格的に降ればすぐに消えるとは思うんだが、やはり不安でのぉ」
そういって出された飲み物に一口口を付けたあとで続けた。
「ちょっとさきにある支流沿いの森を切り拓いてしまおうかと思って砦の連中と話してきたんじゃが」
周囲は頷きながら聞いている。様子から察するに自分たち以外はどうやらだいたい知っていたか、予想していた話の展開のようだ。
「で、ちょっと地図を出すから飲み干すか脇にやるかしれくれるか」
周囲に飲み物を促しながら、丸められた大きな羊皮紙を取り出した。ボルトラーミさんが来るのを待つ間に大分冷めたとはいえ、猫舌気味な自分は飲み干すかどうか迷ったが、普段白湯が中心の中せっかくのハーブティーをぐいっと飲み干した。一方で、なぜ自分たちが呼ばれたのかは腑に落ちず、口の中に何か残っている感触を覚えた。
更新止まりまくってますが、失踪しないようにだけ頑張ります。




