開拓村2年目:打算と嫉妬
ガラス作りが始まったが、そんなにとんとん拍子には進んでいない。
「最後の方法は、少し言いづらいのですがガラスを溶かす坩堝と炉の温度を上げることですね」
「つまりは?」
一人が短く質問を発して、全員、フゼルさんの続く言葉を待っている。とは言え、異世界から来た自分にもだいたいの問題点は分かっている。
「ふいごで温度を上げて、あと坩堝の炉の形も熱が保てるように改修しますか」
坩堝で溶かしたガラスを隣の炉で熱しなおしながら吹いている。炉は鍛冶屋のものを流用しているが坩堝はこのためだけに設置された。人の頭が入る程度の大きさではあるが、そこそこ労力もかかっている。さらに改修となれば、できるかどうか分からないものにまた労力が投入されることになる。
「となると木炭をさらに使うことになるが……」
労力に加えて一番のネックである木炭の使用量も上がることはこの男の発言を待たずとも想像がついた。温度を上げるということはそういうことである。しばし沈黙が流れる。自分たちは口を閉ざすしかない。何度かの会議の最中に自ら発言しないのは自分たちと鍛冶場に新たに加わったパオロ少年だけである。
「ただ、もっと熱くすればうまくいきそうな気はすんだよな」
それまで黙っていたボルトラーミさんが口を開いた。
「一番乗り気じゃないと思ってたが意外ね」
フゼルさんの奥さんが言う通り、木炭の使用量を一番気にしていたはずの人だけに意外と言えば意外である。
「まぁ大方、鍛冶場での作業が続けば一番乗りで鍛錬できるって寸法だろ」
「まぁ、それもなくはないがな」
真面目な顔のボルトラーミさんに冷やかしの声が飛び、それに対して少しにやけて答えて続けた。
「ただ、今作れているやつでも高く売れないってだけで売り物にならんってわけじゃないだろ?あと俺の勘がうまくいきそうって」
「ボルトラーミの勘は当たるからね。女性関係以外は」
「じゃかわしいわ」
フゼルさんの奥さんのいじりに反応して周囲に笑いが漏れる。フゼルさんをからかいながらも信用しているようだ。鍛冶場内で一番の慎重派と目されていた人が言うならば話は早い。
「たぶんいけるだろうという私の子どもの頃の記憶を辿って別の材料探すより、温度を上げた方がよさそうですね」
そう言うとこちらを向いて問いかけた。
「スズキ君たちもそれでいいですか?」
「あ、ええ……」
現代社会でのやり方を思い出して提案はしたが、道具も設備も材料も用意してもらって、やり方の試行錯誤もほとんど人任せである。口ごもってそう答えるしかなかった。
「よし、じゃぁ今日は終わりにするか」
「明日以降の準備に火は落とさないと……」
「やっといてくれや」
ボルトラーミさんはそそくさと筋トレを始めるために出て行った。
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「で、ガラス作りの方はどう?」
「うーん、まだ試行錯誤中かなぁ……」
夕飯時の滝本さんが何気なく訊いてくる。滝本さんは鍛冶場に出入りしてないが、ガラス作りには相当期待しているのか興味があるのかよく質問をされる。複雑な心持で少し素っ気なく返答してしまった。
「そういえばボルトラーミが鍛冶場を改修したいとかなんとか言ってきてたな」
どうやら早速パリッセさんにも相談が行ったようだ。日が長くなった夏だけに見張り番の人も一緒に夕食をとっても間に合うようになり、ほとんど全員での夕飯だ。失敗したらどうしようという不安からこの話題をあまり続けたくないのだが、この人数で自然に流れている会話を不自然に止めるわけにもいかない。そして、食卓を囲む面々を見ながら話したくない理由がもう1つあることを自分でも否定できず、悶々としていた。
「なんでも、炉の改修をしたいから大工役に少し手伝ってくれって」
「あら、そうなの?まぁでも建てるものはもう残っていないし、ちょうどいいわね」
奥さんが言うようにどうやら国からの備蓄物資の運び込みも終わったようで村内にこれ以上倉庫が建つことはないらしい。終わったというよりは乾季で川の水量が減ってこれ以上運び込めないというのが正解のようではある。
「川の水量ってこれ以上減るんですか?」
「うーん、今年は本当に雨が降らないけど、この辺は山からの水があるから、完全に止まることはないはずよ」
無理やりにでもガラス作りから話題を逸らすのにシモーネさんに川のことを聞いてみた。彼女はこの村では比較的若い部類に入るにも関わらず、「おばあちゃんの知恵」的なものが豊富である。知らない土地とは言え彼女が言うなら大丈夫なのだろう。
「雨が降るようになるのはいつなんですかねぇ」
「そうねぇ。でも、雨が少ない年は乾季が長いとは限らないし、逆に短いことすらあるから」
辻野さんの質問に対するシモーネさんの言い方と表情からは大丈夫なように聞こえる。そして、雨の話題になった途端に話し始めた辻野さんを見ると彼も自分と似ていつつ、反対の気持ちなのではないかと思えてきた。似ているのに反対、とはガラス作りに対してである。辻野さんに加え、松田君と高部君は一度ガラス作りに反対しただけに成功すると、面目が立たない、みんなの利益になるはずのガラス作りが成功したらしたで、とやっかむ気持ちがどこかにあるのではないか。自分は自分で、もし失敗しても大丈夫なようにあくまで進めているのはフゼルさんを始めとする鍛冶場の人たちが主導したということにしたいと、自分から積極的に発言しないようにしていた。そんな打算的な自分が嫌になる。そんなことを考えながら、食卓の空気を悪くしないようにそんな気持ちを取り繕った作り笑いをしながら、上の空で続く会話を眺めていた。
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