表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/61

開拓村2年目:まずい……

ついに板ガラス作りが始まった

「まずい」


 鍛冶屋の外に出て水をかぶりながら呟いた。


「まずい」


どうしようもなくその台詞が口から出てきた。暫しその場で遠くを見ながら動けずにいる。水をかぶるとだけ言って出てきたわけでこのままずっとという訳にはいかない。


「お、何がまずいんだ?」


 誰もついてきていないのを確認してから愚痴ったはずだが、いつの間にか後ろに人が来ていた。その男は水を被ってから自分の眺めているのと同じ方向をしばし見つめて大丈夫そうじゃないか、とこちらを向きながら訝しがる。この人の言う大丈夫そうだ、というのは山火事のことである。山田さんが発見してから2日ほどかなり遠くの空がくすんでいたが、自然鎮火したのか、それはここしばらく見えない。それでも山火事がちゃんと鎮火したのか、また発生しないのかは村の中でここ最近の一番の話題であった。まずいというつぶやきがその山火事を再度見つけたと思われたようである。


「あ、いやそういうわけでなく……まぁちょっと……」

「はは、どうした坊主。恋の悩みか?」

「いやいや、そんな……」


 そう言えば、もう1つの話題は引退組と子どもばかりのこの村で唯一の「若者」である我々に対する噂話である。誰と誰がくっつきそうかというたわいもない話を時折耳に挟むが、聞こえないふりをして通り過ぎるようにしていた。どちらかというと引退組に近い年齢の後藤さんを除いても男女比7対2という歪な構造のせいかそういった空気には一切なっていないのだが……。


「あー……だめか、くそ」

「うまくいかんわい」


 中から不満混じりの嘆きが聞こえてきた。戻りたくない気持ちはありつつも、いたたまれなくなり戻ることにした。


「スズキ君が見たのってもっとうまくいってたんだよな?」


 建物に入った瞬間に、ここ2週間で同じように聞かれ続けた質問をぶつけられた。まずいと思っているのはまさにこのことで、思いのほか板ガラス作りがうまくいってない。現代社会の聞きかじった知識をひけらかして失敗した時は目も当てられないんじゃないかという不安に押しつぶされそうだ。


「いやー……ちょっと振って、ちょっと吹き込んでを繰り返すだけでもっと簡単に伸びてたんですが……」


 博物館で見た映像では振りながらガラスを吹くだけで円筒型のガラスがみるみるうちに伸びて、それを切り開くだけで綺麗な大きい板ガラスが出来ていた。それが、ここでは少ししか伸びない。


「さて、どうしたものですかね」

「うーん。そうねぇ……」


 フゼル夫妻が考え込んでいる。


「いっそ諦めるってのも手だが……」


 鍛冶場の長たるボルトラーミさんが脇からいつになく真面目な表情で呟く。これ以上村に木炭を使わせないためにも失敗を認めてしまった方がいいのではないか。それこそそれが「損切り」というやつなのではと思えてくる。


「とは言え、特段やることもないわけでもう少しやってみましょう」

「そうね。期待したほどじゃないってだけで伸びるには伸びているわけだから」


 そんなことを考えている間にフゼルさん夫妻が続けた。「損切り」は一瞬頭には浮かんだものの最早その言葉を言うタイミングを逸してしまったようだ。


「まぁそうだな。ただ、考えはあるのか?」


 そう言ったボルトラーミさんは少し不機嫌そうに見える。本当に不機嫌なのか、自分が不安だからそう見えるだけなのかが分からず足元を見つめて会話を聞いていた。


「そうですね。今のところ3つほど考えていますが」

「ほう」


 つとめて冷静に言うフゼルさんにボルトラーミさんはそっけない感じで答える。その会話に皆近づいてきた輪になって自然と会議が始まった


「1つ目は振る速さを上げることですね」

「いやー……壁にぶつけるイメージしかわかんのだが」


 先ほど一緒に外にいた男が嘆いた。その通りである。安定性と遠心力はトレードオフのようだ。現により強い遠心力を得ようとして懸命に振って穴の土壁にぶつけて駄目にしてしまったのは1度や2度でない。


「そうですね。なんらかの工夫が必要ですね。それもヤマダさんと話して考えがないわけじゃないんですが……」


 そういえば山田さんが絵を書きながらボルトラーミさんと話をしていた。


「次は原料を変えるということ。今木の灰を混ぜていますが、重曹があれば今の温度でももう少し柔らかくなるのですが……」


 そこで一呼吸おいてから続ける。


「今からこの周辺でそれを探すかどこかから調達するかを考えなくてはいけないのと美しさが少し劣りますね」

「貴族様のガラスを作るわけじゃないんだからそれでええやろ」


 1人の男が笑い飛ばす。


「そうと言えばそうですが、高く売れるし、原料はここで手に入るのがいいよね?」

「まぁ難度が高いのでやれば他でもできるってことで背伸びした部分もありますが……」

 

 ガラスの知識はフゼルさんしか持っていない。多少似た職業の鍛冶屋の皆もフゼル夫妻の話を聞くしかない。


「で、もう1つの方法でこちらが一番確実で手っ取り早いのですが……」


炭酸ナトリウム=重曹じゃないっぽいなぁ。言語的にたまたまというか特殊事情で日本語と一致していました的設定からなるべく和名を使う方針がいいかと思ったが、もうカタカナ語解禁していった方がいいのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ