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開拓村2年目:山火事

ついに板ガラス製作の開始が近づいてきた。

「本当に大丈夫かなぁ」


 川面を眺めながら山田さんが呟く。何を心配しているのかというと川の深さである。この地域は夏に雨が少なくなるようだが去年よりもさらに少ない。正確には覚えていないが去年の河原よりもだいぶ広がってしまっているように感じる。


「まぁ大丈夫ってのを信じるしかない……かな」


 そう呟いた自分も不安である。水量が減ると舟底がつっかかるらしく、舟運が止まる。それだけだったら1か月か2か月酒やら肉やらを我慢すればいいだけなのだが、もし川が枯れたら川からそこを魔物が渡って来やしないだろうか、さらには、生活用水や飲料水も足りなくなるのではないかと不安に駆られてしまう。とりあえず、安心できる材料となる言葉を続けることにした。


「魔物は水を嫌うのが多いらしいし、向こう岸は半分崖みたいになってるし、魔物の心配は大丈夫かなぁ」

「だとしても、水が足りなくなったら鍛冶場での作業が地獄っすねぇ」


 小谷君が汗を拭いながら言葉を被せた。なぜ今大量に水を汲んでいるかというと鍛冶場で使うためである。鍛冶場で使うと言っても主な使用目的は暑さに対してだ。現代日本の酷暑よりは大分涼しいとはいえ7月終わりの夏真っ盛りである。十分に水分塩分を摂っているが、窯を使う鍛冶場では時折頭から水をかぶらないとやっていけない。


「ま、戻りましょうか」


 水汲みごときでそんなに時間をかけられるわけもない。そもそも、川の水量など自分たちが考えたところで何にもならない。さっさと鍛冶場に戻ることにした。


********


「ふー、生き返ったぁ」


 作業開始してからしばらくして頭から水をかぶった山田さんが外から戻ってきた。濃い目の色の肌着を中に着ているようだが、濡れて体のラインが分かってしまうだけに少し目のやり場に困ってしまう。本人は気にしてないようだが、大きめの胸が強調されてしまう。目線があまりいかないようにするのに多大な努力が必要だ。


「おー、だいぶ上手くなってきたな」

「あっ、はい……いや、えっと、なんとか」


 そんなことを考えている時に不意に話しかけられた。吹きガラスで円筒形のガラスを作るのに最初は苦労していたが自分でもだいぶ上達したと思えるほどにはなってきた。ただ、幼少の頃に経験していたフゼルさんはともかく他の人たちはすぐに綺麗な円筒形を吹けるようになったのに比べると現代人の不器用さに嫌気が差してしまう。というよりも、絵が得意で器用そうな山田さんはともかく、正直小谷君にも劣るのが現実で、現代人というより自分がこれほど不器用だったのかと思い知らされていた。


「となると、そろそろね」


 鍛冶場のおっさんの後ろからフゼルさんの奥さんが顔を覗かせた。そろそろ、と言うのは当然次の段階である板ガラス作りである。


「そうだな。全員かなりできるようになってきたし」


 ボルトラーミさんがフゼルさんを振り返って言うとフゼルさんも頷いている。


「ってことで、明日から穴を掘るのに水をどっさりと汲んで来るか」

「そうだな、火事場の土間の部分はカチカチだからな」


 水で柔らかくして穴を掘るためだろう。ボルトラーミさんの一声に桶やら何やらを持ち出し始めた。どの程度水が必要なのか分からないが、本日2回目の水汲みである。なんにせよこの暑さから抜け出せるのは有難い。ただ、一番下手くそな自分がこの程度の暑さでめげているのはどうかとも思ってしまう。


********


「いやー今日もよく働いた」

「そうだなぁ。よし、他のヤツらが来る前に筋とれだな!」


 初老にも近いはずのおっさんだらけなのに元気なことである。個人個人の行動を細かく監視しているわけではないためどの程度やっているか正確には分からないが、この暑さの労働の後に週に4回以上はやっているのではないだろうか。元気なことである。痛めていた腰もほとんど治り、みんなと同じくらいの量に戻しつつあるが、正直痛めるならもうちょっと後の時期が良かった。そうすればこの暑さの期間にサボれたのにとヘタれた考えがよぎってしまう。


「あれ?……」


 そんな若者らしからぬ邪な考えが頭を巡っている中で山田さんが何かに気づき遠くを眺めるのに動きを止めた。


「どうしたんすか?」


 ものすごい重量のバーベルをセットしている小谷君がその手を止めて問いかけた。


「いや、なんかあっちの空だいぶくすんで見えるような」


 それを聞いて山田さんの見ている方向を目を凝らしてみてみる。夕日になりつつある西側の方向の空は言われてみれば確かに霞んで見える。


「おー、ほんとねぇ」


 フゼルさんの奥さんが寄ってきて一緒に眺め始めたところ、他の人たちも同様に首を伸ばして遠くを見始めた。


「あれ、なんですかね?」

「ん-……」


 山田さんの問いかけにしばしの沈黙が流れる。


「もしかしたら、山火事かもしれませんね」

「あー、そうかぁ」

「雨も降らんかったしなぁ」


 フゼルさんが答えらしきものを呟いたのに他の人たちも同意している。山火事らしい。と言われたとことでどう返していいのかは分からない。


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