開拓村2年目:ガラス作り
鍛冶屋の仕事が始まったが、まだまだ慣れない
「木炭結構余ったのぉ。ちと作りすぎたわ」
「いっそ、ふいごと小さい炉を作るか?」
「鉄鉱石はどうすんだ。ほとんどないぞ?まさか遠くの崩れた鉱山修復から始めるのか」
「まぁ冗談だが……お」
鍛冶屋の片隅で話をしていたおっさんどもが自分たちが入ってきたのに気づき話しかけてきた。筋トレの「先生」として認められ鍛冶屋にも出入りできるようになり、明らかに村の中での立場が上がったのを感じていた。自分たちの他に鍛冶屋に出入りしているのは絵がうまい山田さんだけで、他の人達に対して正直ちょっと優越感を覚えている。
「おお、コタニ君。昨日べんちぷれす、200リッブラ挙がったぞ」
「そりゃすごいっすね」
「いやいや、ケツむっちゃ浮いてたろ」
「そんなことねえよ!」
リッブラとは重さの単位のことである。どうやら、いわゆる我々の世界の重量の単位であるポンドと同じのようであった。であるとすれば1リッブラ450gくらいのはずだ。ということはざっと90kg。小谷くんはおいておくとして、高校時代それなりに部活を頑張っていた自分を優に上回っている。いくら元や今の職業が力仕事だとしても、彼らは初老とも言える年齢、さらには身長170cm超えると背が高い扱いのこの世界でこんなにも簡単に抜かされるとは思っていなかった。
「冗談と言えば、ボルトラーミさんが、残りの鉄全部使ってプレート作ろうとして怒られてたっすね」
「あれでもうちら鍛冶屋の長なんだがな……」
男は頭を掻きながら苦笑した。小谷くんも村の長老たちからボルトラーミさんが暴走しないようにと頼まれているようだ。
「正直なところ皆さんの年齢を考えてあまり高重量すぎないようにってボルトラーミさんに話していたんですけど、それを一番心配しないといけない人は……」
「アイツだなぁ。コタニくんの言うようにいつか関節か何か痛めそうだな」
筋トレが始まった時に小谷くんがそう言っていた。その時、彼は神妙な顔で頷いていたはずなのに、今や物凄い勢いで重量を扱い始めている。
「で、今日の話ってのは?」
「ああ、もうすぐボルトラーミとフゼルも来るはずなんだが……」
「ボルトラーミはどうせ遅刻するとして……お、来た来た」
そう言われて振り返るとフゼル夫妻がなにやら荷物を抱えて到着したところだった。
「全員集まっているようですね」
「……ボルトラーミ以外ね」
いわずもがなの夫妻の言葉に全員が苦笑いしながら頭を振った。
「まぁ、いつものことなので彼はほっといて話を進めましょうか」
そう言うと持ってきた細い鉄の棒と少し変わった形状の鋏やコテのようなものなどを机の上に並べ始めた。
「そりゃなんじゃ?」
自分たちだけでなく鍛冶屋の人にとっても何かわからないようである。
「ガラス作りの道具です。こないだ街に行った時に調達してきました」
「どうせ、木炭も余ったんだし彼らの言うやり方をやってみてもいいんじゃないかと思ってね?」
「村の取りまとめ役からはうちらで話していけそうならやってみろ、と言われてます」
そういえば、フゼル夫妻はつい先日街へ村の必要物資の注文を取りまとめに行っていた。彼女の言う「彼らの言うやり方」というのは以前自分が提案して一蹴された板ガラスの作り方であろう。
「道具はそれだけでいいのか?」
「自分の記憶と知り合いの話だと、他は鍛冶場の道具でこと足りるはずです。」
「材料は?」
「石灰岩も多少はこの辺にあるようで揃うはずです」
「木炭はどれくらい使うんだ?」
「鉄鉱石からの製鉄よりは使いませんね」
「逆に言えば鍛冶仕事くらいは使うということか」
「そうですね。いや、むしろそれ以上使うかもしれません」
自分たちには木炭の使用量どころか他に何を使うのかすらはっきりとわかっていない。やりたかったガラス制作が実現しそうであるのに期待を膨らませる反面、何も言えない自分たちにもどかしさも感じてしまう。
「ちょっと試しにやってみるだけなら……」
「そうだな、来年の冬明けまで暇っちゃ暇だしやってみるのもありか……」
しばらくの沈黙の後で前向きな言葉がポツポツと出てきた。ようやく提案が受け入れられそうなことを歓迎したい一方で何も言えずに黙っている状況に対する何とも言えない感覚から複雑な気分で見守るしかなかった。
「当然、そのガラス作りの間は他の作業は免除されるんだよな?」
「ええ、そういうことになっています」
フゼルさんにそう答えられた男たちが目を輝かせている。他の作業から解放されたにしても、結局は鍛冶屋の作業に似た火を扱う熱い肉体労働が待っているはずである。何をこの人たちは期待しているのだろうと訝しんでいると小谷君が声を上げた。
「ってことは作業後の筋トレ一番乗りってことっすね!」
その発言にフゼルさんが頷くと同時に周囲からも大きな笑いが漏れた。あまりの筋トレブームに面喰ってガラス作りができることに喜ぶべきなのかどうかが分からなくなってきた。
しばらく更新止まっていたものの、もう少し話の展開の加速を……




