開拓村2年目:鍛冶屋デビュー
鍛冶屋デビューすることとなった。当然「スキル」なんてものは存在しないようだが……
「あー、うまくいかないなぁ……」
「はっは。最初はそんなもんだ。急ぐもんじゃないしゆっくりやればええで」
鍛冶屋に出入りするようになってはや1週間が経った。初めからそんなにうまくいかないとは思ってはいたものの、道のりは長そうだ。なぜ出入りするようになったのかは例のボルトラーミさんとのバーベル、ダンベル作りの続きに話は遡る。
――1ヶ月前
「んー。この際そのばーべるってのを作ってしまうか。鉄は前のヤツらが残していったのが結構あるし」
「ただ、重りの脱落防止は考えないといけないっすね……」
「最悪なしでやっちゃえば?」
「いや、それはダメっす。事故がたまだと舐めてかかると」
「はは、ちげえねぇ。鍛錬するのに怪我したんじゃ何やってるかわからねえからな」
高校時代の部活で多少ウェイトトレーニングは経験済みだが、種目によってはさぼって固定具であるカラーなしでやってしまうやつもいた。気を付ければいいだけで、なしでやってしまってもいいのではと提案したが、荒っぽいイメージのあるラグビー部に加えて中世の異世界の人たちにここまで窘められるとは思わなかった。意外といっては難だが、安全意識が高いようだ。
「んー、そうさなぁ。革のベルトで固定してしまえばいいんじゃないか。皮の根元を金属で補強すればそうそう外れん。それができるまでは麻縄で縛っておけばええじゃろ」
ボルトラーミさんはしばし考えたあとで、山田さんの書いたバーベルの絵を指さしながら話す。どうやらプレートを付けた根本からぐるっと回して革のベルトつけるということらしい。
「あー……なるほど……こういうことですか」
山田さんが早速理解して絵に書き足していく。細かいやり方はわからないが、シャフトにつけるときに大きく広がった革の穴を金属で補強するらしい。
「これなら着脱のめんどくささも、そこまでなさそうっすね」
絵を見ながら小谷君が唸った。なんとも単純な解決策である。自分たちだけで話した時はバックル状の留め具の作り方なんてわからないだの言っていた。実際に見たことのあるものを作ろうとして、別の解法があるなんて思いもよらなかった。固定概念とはまさにこのことだろうか。
「なるほど……たった今スプリング式のカラーとか思いついたけど……」
「あー、そんなのもあたっすね」
「すぷりんぐ……とは?」
県大会で強豪校に当たったら負け程度の自分の部活ではたいした重量も扱わないせいか予算のせいかはわからないが古く雑多な器具が置かれていた。高校大学と強豪校の部活しか体験していない小谷君はどうやら見たことがある程度らしく、古めかしい貧乏県立高校に置いてある器具とは無縁なのだろう。
「えーっと。太めの鉄線というか細めの鉄の棒というかを螺旋状にぐるっと巻いて、余ったとことをウサギの耳みたいに出して、それを押さえると螺旋状の部分が膨らんで通せるようになって……」
「うーん……なるほど……?」
「あー……バネみたいな?」
ボルトラーミさんにはあまり伝わっていなそうだが、山田さんが理解してくれたようで、絵にして書いてくれる。
「ほぉー……面白い構造だな」
「とは言え、これ使いづらい上に強くもなく……革のベルトで十分じゃないかと……」
「いやいや、面白いぞ。作ってみて使えなくても、それはそれでええし」
どうやらボルトラーミさんの探求心に火が付いたようだ。
「そうじゃ。お前さんたちが作ってみるか?」
「え?」
突然の誘いに驚いて全員で声を出してしまった。村の中で仕事が貰えるか貰えないかは収入や手に技術が身につくかどうかだけでなく立場もにも影響する大きな関心事であり、よそ者が鍛冶屋に出入りするとなると嫉妬の対象になってしまいそうである。
「もう春になって見張りも楽になったし、大分時間ができただろ」
そこで一呼吸おいて片目を瞑りながらボルトラーミさんが付け足した。
「それにコタニ君たちはもはや筋とれの大先生じゃ。その器具を作るのに出入りしても誰も文句を言わんぞ」
村人が全員元傭兵集団であることに感謝した。がたいのいいおっさんだけでなく、かなりの割合の女性も小谷君の筋トレ「講習」に参加している。
「本格作業は来週からじゃな。俺から言っといて昼間の作業分担を少なめにしてもらうか」
子供たちにたまに算数を教えてかなり好評だが、それ以上にこの世界に来て役立っていることは意外にも部活の経験である。何が役に立つのかはわからないものである。根深そうに見えた嫉妬を避けながら新しい技術が身に着けられるとは思ってもいなかった。
さらに思ってもいなかったことはこれがあっという間にガラス作りに繋がっていくことと、村人たちのそよ者に対する嫉妬以上のものが待っていることだった……
Q.荒野で小石をはねてラジエーターに穴が開いた時は?
A.瞬間接着剤で埋めて直します
途上国に行くと車を日常的に仕事で運転する人は誰でも簡単な応急措置くらいはやってしまう。もちろん年季の入った中古車だらけで壊れやすいことも手伝っていることは間違いない。一方で車以外も含めて創意工夫という意味では先進国の現代人は明らかに劣っているな、と。




