開拓村2年目:ジム開業と螺子
まさかの異世界筋トレブームが到来した
「おい、お前らまだか?」
「あと1せっとずつだから待てよ。だいたいお前最初は『あいつら奇怪なことしてるな』って馬鹿にしてたろ」
「んなこたぁねえよ……」
村のおっさんどもが寄り集まって騒いでいる。何の前で騒いでいるのかというと鉄棒である。鍛冶屋の隣に突如現れたこの鉄棒はちょっと前に大工の棟梁の奥さんが最近弓を引く力が落ちてきたという愚痴に小谷君が答えたのがきっかけだった。それに奥さんのことならなんでも聞く大工の棟梁とこの時代の「筋トレマニア」の鍛冶屋ボルトラーミさんが興味を示したことで、あっという間に立派な鉄棒が出来上がった。
「しかし、ちょっと反動使いすぎじゃね?」
「そうか?」
「だいたい背負ってるその麻袋重すぎるんじゃ?」
「おーい、コタニくん。こんくらいの反動ならありだよな?」
懸垂をしている男が呼びかけて来る。筋トレブームが始まった当初、あまりの熱中ぶりに他のことに差し障る、と制限令が出されるほどであった。ほとんどが初老に差し掛かる元傭兵達は誰しも筋力の衰えには思いが至っていたようで、それが回復できるならと競って筋トレを始めていた。3月も半ばになり建設作業も見張りも比較的余裕が出来たことでまた毎日のように人が集まってきている。村の作業に支障がくなったが、競って重量を増やそうとするおっさんどものライバル意識が何かに支障をきたしそうで不安になってくる。
「じゃかあしい!今こっちで話してるじゃろ」
ボルトラーミさんがこう怒鳴ったのも話の邪魔をされたことだけでなく、そうしたことに対する鬱陶しさからもあるのだろう。小谷君に加えて、一応高校時代の部活でウェイトトレーニング経験者の自分と絵がうまい山田さんの三人が呼ばれて話をしている。最初は奇異の目で見られていた懸垂用の鉄棒も試しにやらせてみると久しぶりの筋肉痛が来たと喜ばれ、その後は村のほとんど全員から次は何を作るのかとせがまれている状態だ。自分も1つ提案して、コの字型の腕立て伏せ用の器具を作成してもらった。大学に入り一人暮らしを始めた当初、最低限の運動はしようともとの世界で買ったのだが、1年の夏を過ぎた頃には触ってすらいない。部屋のどこかで埃をかぶっているはずだ。
「新しい懸垂用のはそれでいくとして……問題は……」
「そうっすね。重量物を挙げられるようになるといいっすね」
「で、その、ばーべるってのかだんべるってのがほしいと?」
「そうっすね」
小谷君がそこまで言うと山田さんが描いてきた絵を持ち出して見せた。
「バーベルってのは両手用、ダンベルは片手用っす。で、こうやって鉄の棒に穴の開いた鉄の円盤つけて……」
こういったのは絵を見せながら話すと早そうだ。
「で、どっちがいいんだ?」
「そりゃ両方あった方がいいっすが、バーベルの方が使いでがあるっすね」
そこで一呼吸おいてから小谷君が続ける。
「ただ、バーベルの場合その円盤を固定する留め具を作るのが大変そうなのと、使う鉄の量が多いのが難点っすね……」
ここ数日自分たち話し合って出た結論である。
「留め具がないと?」
「この円盤が落ちて足の指の爪をやるか、最悪折れる事故が起きるっす」
小谷君が絵を指し示しながらしかめっ面をする。ボルトラーミさんも肩をすくめた。
「なるほど……で、重さってのは?」
「そうっすね。自分くらいだと大人の男性2人分の重量くらい最低必要になるっす」
鉄の値段や貴重さは思った以上に高いことが分かっていた。いくら村内に復旧させた小さな鍛冶屋があるとは言え、少しでも使用重量は減らしたいところだろう。
「となると俺もか……」
筋トレブームが来て、ボルトラーミさんは小谷君と同じくらいの筋力であることが分かった。その見た目から案の定と言えば案の定のことであるが、確かうちの大学のラグビー部は全国優勝からは遠ざかっているものの名門で、1部リーグ所属のはずであった。小谷君はベンチにもたまにしか入れないと自嘲的に語っていたが、トップレベルのアスリートであることは間違いない。この時代の栄養事情で、さらには老人の入り口に立っているボルトラーミさんが同じくらいの力とは驚きでしかない。
「さらに、この円盤を必要ごとに付け替えるにしても1組だけじゃたぶん足りないですよね」
「そうだなぁ。あいつらのことだから喧嘩になりそうだなぁ」
自分が付け足した言葉に対して、懸垂やら腕立てやらで相変わらず騒がしい方向に目をやったボルトラーミさんが苦笑している。
「で、うちらで色々考えたんすが……」
ここ数日小谷君を中心に話し合ってきて、ここまでは予定通りである。
「で、片手用のダンベルなら両手合わせて1組で1人分の体重あれば俺でもそこそこ満足いくっす」
「なるほど、ばーべるに比べれば半分くらいで済むわけか」
「そうっすね。ちょっと種目は限定されますが、あくまでちょっとっす」
男性の大人1人分の体重ということはダンベル片方30㎏から40㎏あたりを指していることになる。高校時代にちょっと真面目に部活をやりました程度の自分からは想像のつかない重量ではある。
「で、こっちの留め具は螺旋状に溝を掘って……」
ここからは絵で説明してもらうのがさらに早そうで説明を山田さんにバトンタッチした。いわゆるボルトで留める形式である。重量が固定式だと40㎏まで5kg刻みで作っても両手分で合わせて1組で360kgの鉄が必要になってしまう。ボルトで付け替えるのはかなり億劫ではあるものの最良の選択肢のはずであった。
「いや、ちょっと待ってくれ」
山田さんの説明を聞いていたボルトラーミさんが渋い顔をしながら遮った。
「そういう形状のものがあるのは辛うじて聞いたことはあるが、そんなの作ってるのは王都の鍛冶屋くらいじゃないか」
3人の顔を順番に見ながら続ける。
「自分の鍛冶屋としての腕がそこまで悪いとは思っとらんが、所詮は実家が鍛冶屋だったから引退後にやっとるだけで、どういう道具を用意したらそれが作れるのかも分からんわ……」
現代社会にネジ状のものがごろごろ転がっているだけにそんなに難しい物だは思ってもいなかった。ただ、言われてみればしっかり螺旋状の溝が噛みあうものの製造方法は思い浮かんでこない。現代のトレーニング理論が受けたことでちょっと調子に乗っていたのかもしれない。こんどは3人で顔を見合わせる番であった。
あとがきに豆知識を入れようと考えたが3回目にして、すでにネタ切れ




