開拓村2年目:タンパク質
何につけても肉がほしい
「お前さんたちの世界では卵をよく食べるんか?」
大学で一人暮らしを始め、自炊を始めた時はほぼ毎週のように1パック買っていた。ただ、メインの食材というよりは調理しやすさで買っていただけの気がする。そして、その自炊も1年1学期のレポートとテスト期間の忙しさを言い訳に1度サボってしまったあとは、外食やらコンビニやらで楽を覚えてしまい、とんと途絶えてしまった。
「卵はあんまり主菜扱いではないですけど、副菜や朝食なんかによく使いますね」
「あと、俺らみたいに運動してるのは、困ったらとりあえず卵か鶏肉食っとけって感じっすね」
そんな自分が元の世界の食事情を語るなんておこがましく思え、黙っていると一番自炊をしていそうな瀧本さんが説明を始め、それに小谷君が付け足す。
「はー、贅沢な。別に全員田舎暮らしで、さらにたまたま雌鶏を全員飼っていたとかではないんじゃよな?」
「そうですね、大都会ってほどじゃないっすが、まぁ街住まいっすね」
「お前さんたちの話を聞けば聞くほど天国に聞こえるのぉ……それでこっちの世界に飛ばされるとか運が悪かったとしか言えんなぁ……」
全くもってその通りかもしれない。なぜあの世界が疎ましく感じたのか今になって半分は疑問に思う。ただ、残りの半分やはりこっちの世界では感じない鬱屈した感情があった気がするのも間違いない。そんな複雑な思いからパリッセさんの言葉に少しうつむきながら考え込んでしまう。
「そうでもないです。元の世界が恋しくないと言えば嘘になりますけど、こっちの世界に来て楽しいですよ?」
「そうっすね。食生活だけは間違いなく恋しいっすけどね」
「ほぉ、それならええんじゃが……」
卵が欲しいかの問いかけに真っ先に答えた2人が明るい表情で答える。自分よりその前向きな姿勢に嫉妬と戸惑いを感じてしまう。
「で、そこで卵の話が出てきたってことか?」
「食べたいことは食べたいっすが、卵は筋トレ……じゃなくて鍛錬後の筋力向上に肉と同じくらい、場合によってはそれ以上にいいって話っす」
「ほー……前衛どもが聞いたら食いつきそうな話だな」
この世界でなんとなく前衛、後衛が分かれていることとその理由も分かりつつあったが、前者の集団は全体的に筋トレ熱は高そうだ。さらには小谷君の影響と諸々の状況から自分たちも筋トレ熱は高くなっていた。
「ただ、ここじゃ卵は手に入れるのは難儀だなぁ」
「そうっすよね……」
魔物が周辺にうろついている状況では畜産などもってのほかであること理解していたし、卵を遠くから仕入れるのでは割高になってしまうのは容易に想像がつく。肉よりも安価なたんぱく源を探すのに、それでは本末転倒もよいところである。
「まぁ魔物が周囲から片付いたら養鶏を始めるのもようけ考えておかんとのぉ」
「……」
それが冗談であることに気づくまでしばしかかってしまい、気づいた時にはすでに自然な反応ができないくらいの間が開いてしまっていた。当のパリッセさんはしたり顔で我々の顔を眺めている。
「ほら、若いのが困ってるわよ。んで、あんた明け方の見張り番でしょ。馬鹿なこと言ってないでさっさと寝なさい」
どうしようかと当惑していたところ、丁度通りかかった奥さんが助け舟を出してくれた。
「あ、いや、ちょっと寝付けそうにないので酒をじゃな……」
「ダメです。昨日あんだけ飲んだでしょう」
「ちょっとだけ……」
そう言って抵抗するパリッセさんは背中を押されて居間から退場していった。
「小谷君、豆類はそこそこタンパク質があるって言ってたけど、それを増やすのじゃダメなのかい?」
「そうそう、大豆はないけどお豆は結構この世界にありますよね?」
パリッセさんが出て行くのを横目に後藤さんと山田さんが質問をする。
「それしかないっすかね。ただ……」
「ただ?」
何人かで声を合わせて聞き返してしまった。
「植物性の中では比較的あるってだけで、大豆には量でもアミノ酸スコアでも全く勝てないんすよね」
聞きなれない言葉が出てきて、全員顔に疑問符を浮かべながらまじまじと小谷君の顔を見てしまう。
「あ、いや。自分も詳しくないんですが、アミノ酸スコアは含有してるアミノ酸のバランスで、それが良くないと摂取しても効率が悪いとかで……」
そこで少し首を捻りながら続ける。
「食い合わせでなんとかそのバランスをどうのこうのとかいう話も聞いたことがあるようなないような……」
「それ系の話で歯切れが悪いのは珍しいね」
辻野さんの言う通り、一見何も考えてなさそうな小谷君も栄養学やらの知識は非常に豊富である。正直なところ元の世界にいた時には「しょせん体育会系なんて」と部活組を馬鹿にしていた部分もあった。小谷君が特別なのかどうかは分からないが、あくまで馬鹿っぽく振る舞っていただけなのかもしれないとここにきて少し反省していた。
「いや、その教えてくれたコーチの結論も結局は動物性たんぱく質に勝るものなし。たまに植物性もとれよ。それも大豆が最高だぞだったんで……」
「さらにはプロテインなんかも安く買えますしね」
「そうっすね。だから、その時は覚えなくてもいい知識かと思って……」
瀧本さんが被せる。考えてみればスーパーに行けばいくらでも肉、魚が手に入り、さらに卵は野菜並みに安い値段で買える
「まぁ結局、タンパク質が何不自由なく贅沢にとれるようになった現代が異常ってことか……」
辻野さんが呟くその通りなのであろう。
「いや、まぁでも、筋トレ効果がでかいって分かっただけでもよしとして、今度から豆類を多めに買うってことで」
小谷君が明るい顔に切り替えて話をまとめ、さらに付け加える。
「あー、タンパク質の話してたら肉食いたくなってきたっすね」
「じゃぁ今日はソーセージあたり多めに食っちゃいますか」
高部君の提案に全員が頷く。久方ぶりの全員休みの日で今日はもともと飲むつもりであった。
「もちろん、お豆も添えましょうか」
山田さんのその言葉に全員おつまみの準備に取り掛かった。
有名な第二次大戦の映画の冒頭、敵前に上陸するシーンで、上陸用舟艇の上で兵士が何人も吐いてしまうのがありましたが、あれは単に船酔いだけでなく最後の晩餐になるかもしれないからと朝食に贅沢にステーキが振る舞われたことも影響してるとの話も。少しでもスポーツやったことのある現代人なら試合前は消化の良い炭水化物中心、トレーニング後はタンパク質を多めにとるなんて常識ですが、人類が(先進国限定とは言え)、豊富に蛋白源を摂れ始めるのはあの頃からで、栄養学が発展するのも、当然その後。それを考えると現代当たり前の知識になっていることは社会の発展と一緒になって生まれてきたのだろうなぁと感慨深いものも




