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開拓村2年目:剣と盾

自分たちもいよいよ戦闘要員としての立場になれるのだろうか


「はい、構える!」

「正面!、上!、右!」

「はい、突き出す!」


 戦闘の訓練が始まったが、想像通り地味な訓練が続いている。8割方盾を構えるだけの訓練である。もっと派手で、一足飛びに強くなれる訓練を期待していなかったかと問われれば嘘になるが、それにしても単調と言えば単調である。


「よし、じゃぁ次は組になって打ち合いね」


 打ち合いとは二人一組になり盾を持った側に対して片方が木の棒を持った側が打ち付ける訓練である。


「はい、遠慮しない。本気で打つ!」


 教官役はフゼルさんの奥さん。鍛冶屋唯一の女性である。鍛冶屋の人はほとんどが筋骨隆々のいかつい男たちで自警団的役割も兼ねており、紅一点の彼女は異彩を放っている。と言いたいところだが、見張りの時など重そうな鎧の金属音を響かせながら歩いており、その佇まいからも並みの女性の肉体でないことが窺えた。


「反撃は確実に止められた時だけよ」


 二人一組になって多少実戦的な訓練になっても単調さは変わらない。盾で攻撃を受け止めて、その隙きをついて木の棒を突き出すだけである。こんなことで強くなれるのだろうか。


********


「よし、訓練終わり」


 30分程度で訓練は終わりを告げた。中学高校と日本の部活などを経験している身からすればなんとも短い時間ではある。ただ、他にすべきこともある中ほぼ連日付き合ってくれていることに感謝すべきであろう。そもそもそんな長時間やったところで効果は薄いのかもしれない。


「ところで、これ極めたとして、どの程度の魔物までいけるんすかね」


 今日は久方ぶりに全員見張り当番ではない日だ。フゼルさんの奥さんも同様のようで終わった後に少し談笑していた。どうやったら力が入るかとか、右側から来る時には対応が遅れるだの、ちょっとしたコツを話している最中に出た小谷君の言葉である。


「絶対に魔物と一人で渡り合おうなんてしちゃだめよ」


 それまでニコニコと笑っていたフゼルさんの奥さんが急に真顔になって話し始めた。


「ゴブリン相手なら、そりゃこの程度で十分ヤレるでしょうけど、別のが隠れていましたなんてこともあるんだから」


 その表情に少し気圧されてしまう。


「えっと……もし、ホブとかトロールなんかと出会ったら?」


 少しの沈黙の後高部くんが続ける。


「まずは身を守ること。攻撃するなんて考えちゃダメ」

「あ、はい……」


 その口調から察するにまったくもって冗談などではなさそうだ。


「ホブゴブリンなら盾役とは別の人が魔法を打ったりとかは考えられるけど、素人だと混乱して味方に当てたりとか……」


 頭に手を当てて、魔法で同士討ちした様子を身振りで再現しながら話を続ける。


「トロールなんかは逃げることだけを考えて。あんなの近距離で出会って一人でどうこうできるのはうちらの中でもボルトラーミくらいよ」


 あの魔物に一人で立ち向かえる人がいることに驚いたが、それと同時に逃げるしかないと言われてもあの魔物の脚に勝てるわけがない。つまりは、近距離で出会って気づかれたらお終いという意味である。


「まぁあいつは元々筋肉バカの上、魔力の量が多いからね。魔法の扱いは下手な癖に」

「え……?」


 単純な物理的な力の話をしている際に魔力の話が出てきて一同で目をぱちくりさせながら声が漏れてしまった。それを察したようで彼女は続けた。


「あら。一般的に魔力が高いと身体が丈夫になるって話は聞いたことあるわよね?魔力量が多くて魔法の扱いが苦手なのは特に身体が丈夫になることが多いのよ」

「おー……まじっすか。ってことは俺らも今すぐでなくても……」


 筋肉バカの一人であろう小谷君が感嘆の声を真っ先に上げた。


「えっと、でも、まぁそこまで期待しないで。時間はかかるし、魔力がいくら高くても力が倍や3倍にはならないから」

「あー……」


 そろそろこの期待して落とされる展開にも慣れて来たが、若干のため息は出てしまう。


「いやー、でも、うちらも一般人より筋力が簡単につくってことっすよね」

「そうね。一般人よりは間違いなくつくわね。私もちょっと鍛えた程度の男に力で負けるつもりはないわ」

「いやー、楽しみだなぁ。もっと頑張るっす」


 そういえばうちらの中にもボルトラーミさんと同じような筋肉馬鹿がいたのを思い出した。すぐには無理でも彼ならゆくゆくはトロールも相手にできそうな気がしてきた。


********


「確かにこっちに来てからトレーニングの強度もボリュームも減って、タンパク質もそこまで摂れてないのに体が逆にでかくなった気もしてたんすよね」


 帰宅後小谷君がうれしさ半分困惑半分という顔でそう呟く。


「とすると、もっとタンパク質が摂れたら……」


 高部君が小谷君を向いて誰しもが思った疑問を投げかけた。


「自分もそれを考えていたんすが……」


 そう言って宙を仰ぐとさらに独り言のように続ける。


「ホエイどころか大豆も無理。肉は高い……」


 ホエイとは確か乳製品の副産物か何かでプロテインに使われる原料だっただろうか。高校時代の筋トレの後に飲んでいて、その程度の聞きかじった知識はあるが、その製法はとんとわからない。


「やっぱ卵がほしいっすね。養鶏でも始めたいっすね……」


 今度はその独り言より少しボリュームを大きくして呟いた。とは言え、魔物が周囲にいる状況では畜産系はご法度。よそから仕入れるのはさらに困難そうだ。


「お、どうした?卵の話なんてして」


 丁度居間に顔を見せたパリッセさんが笑みを浮かべながら近づいてきた。


次回から産業パートに入れる予定。

ちなみに、右利きが圧倒的に多いため、右側面から攻撃されると古代中世の隊列を組んでいる軍隊は脆かったそう(剣と盾を持っていることをイメージして右側に振り回すことを考えてもらうとわかりやすいかも)。そのため右側面からの攻撃に対処するために最右翼には精強な部隊を配置することが多く、一説にはそれが優勝候補の「最右翼」などという言い方に繋がったとか(近代になっても右側に精鋭が並ぶ風習が残っていて、明治維新で西洋の訓練を受けた日本陸軍にそうした言葉が誕生した、というのが正確なところでしょうか)。

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