開拓村2年目:ウェアウルフ
襲撃から一晩開けた。まだ少し脚が震えている。
「はぁ、確かに歪んどるのぉ」
「乾燥が十分じゃない木材も使ったからねぇ」
堀の崩れたところを補修している自分たちの傍で少し歪んだ防壁の周りに棟梁たち大工役が集まって話し込んでいる。ここは丁度見張り台の中間地点にあたる。村に来た当初は木材を組み合わせただけの柵が改修され、見張り台から離れて目が届きにくい場所は丸太の間に厚い板材をはめ込んで人の背丈の倍近い立派な防壁になっていた。その防壁が歪んでいるといっても少し波打っている程度である。
「で、歪んだところに脚をかけて一跳びか」
「堀は助走をつければ飛び越えられそうだが、本当にそんなことができるのかねぇ……ってまぁ現実できているわけだけど」
「さすが魔獣ってとこか」
昨晩現れたのは半人半狼の魔獣ウェアウルフ。小規模の群れを作り、特に満月の夜に攻撃的になるらしい。防壁を飛び越え村に侵入したのは2匹だけで、それも駆けつけたフゼルさんたちにすぐに討ち取られた。フゼルさんがいなくなったことを感じて、自分たちの前にいたウェアウルフも村の入り口に突っ込む構えを見せたが、すぐに応援が到着し、村の中から仲間のウェアウルフの断末魔を聞いたことですごすごと去っていた。被害は特になかったがこの防壁を飛び越えられるならば村の入り口の粗末な門など簡単に乗り越えられそうだ。
「坊主たち、秋に堀に水を張って入り口の前を跳ね橋にしといてよかったろ?」
「あれがなかったら、坊主たち危なかったかもしれんな」
こちらを向き直ってそう呼びかけられた。討ち取られたウェアウルフを見たが身長は2mを超え、その爪と牙は自分に使われることを想像したくもない鋭さと太さであった。会話の口調は軽いのだがぞっとする話に苦笑いでしか返せない。
「となると、歪んでいるところは補修をして……」
「その間は見張りをこの辺にも立てないとダメかしら……」
そんな会話の脇で無力感を感じながら作業を進めるしかなかった。
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「昨日はお疲れだったの」
夕飯を終え子どもたちを寝かしつけたあとは大人たちの時間である。見張り当番が出て行った後に少しだけお酒を飲んでいる。少し遅れてきたパリッセさんは椅子に座るいなや酒を一口のんでからそう話しかけてきた。
「いやぁ、でも本当に何もできなかったなぁ」
「はい……」
自分の無力感を言葉にするが、丸一日たってからようやく落ち着きを取り戻せたきがする。隣の山田さんも力なく同意した。落ち着きを取り戻せたのは時間のせいでなくお酒の力なのかもしれない。
「そんなことないぞ、初めてで魔法を当てるだけでも十分じゃ」
また酒を大きく一口飲んでから山田さんの方を向いて言葉を続けた。
「特にお嬢ちゃんの魔法は手傷を追わせたんじゃないかって棟梁も感心しとったぞ」
山田さんは反対側の見張り台にいて、棟梁もそこにいたはずだ。確かに練習の時見ていても習得が早いのも、威力が高いのも山田さんである。自分の方はというと魔法にしろ野良作業にしろ何かと平均的で特に取り柄がないのがコンプレックスになりつつあった。
「そもそも、フゼルの中級魔法でも相当当たりどころがよくない限り一撃じゃウェアウルフは倒せん」
そう言うとつまみを頬張ってから、残ったお酒を喉に流し込んだ。
「まぁフゼルはどちらかというと前衛で、数は撃てるがそこまで威力は高くないんじゃが……っと溢れる」
中級魔法とはどうやら自分たちの撃っている魔法に精霊の力を乗せるらしい。初め聞いた時はなるほどゲームなどでよくある属性魔法かと納得しながらわくわくしたが、習得はそう簡単ではないらしい。さらにもう1杯酒を注いでいるパリッセさんを横目に、実は自分たちにチート能力があって、それを習得できたら無双できやしないかと妄想を膨らませていた。
「あのっ!」
「お、どうした?」
山田さんが突然大きめの―とは言っても彼女にしては大きめの、声を上げた。
「自分たちにも剣とか戦い方を教えてくれませんか?」
山田さんはまっすぐな瞳でパリッセさんを見つめている。自分が魔法で無双などという妄想に浸っていたが、彼女はどうやらもっと現実的な方法を考えていたようだ。取り柄がないだけならまだしも、だいぶ痛い人間になっていたことを痛感して少し気恥ずかしい。
「なるほど、確かに万が一の時を考えるとそろそろ最低限は戦えるようにした方がええかもしれんな」
さらに酒を煽りながらパリッセさんは考え始めた。
「ちょっと誰に教えさせるかも含めて考えておくわ。とりあえず今日はお前さんたちの初撃退の祝杯ということで飲もうか」
そういうとパリッセさんは自分たちの盃に酒を無理やり注ぎ足し始めた。
前書き後書き考えるのもめんどくなってきた




