開拓村2年目:突然の襲撃
新年も越し、あとは春を待つだけ。
「もういないな!」
「そのはずじゃ!」
「あっちは見た!?」
村全体が騒然としている。それもそのはず村へ魔物の侵入など許したのは初めてのことである。いや、むしろ外壁に近づかれたことすらなかった。
――30分ほど前
「じゃぁフゼルさんはそれで傭兵に?」
「ええ」
「なんか、すいません……」
「いえ、魔物で故郷を追われるなんて珍しくないことですから」
今日の見張りはフゼルさんと一緒である。もう1人の後藤さんは今後ろで休憩をとっている。
「この村の元の住民たちのように壊滅したわけでないだけでも感謝しなくては」
そこから一呼吸おいてあたりを見廻しながら付け足した。聞き出した話をまとめると13歳の頃に故郷を追い出され、そこから剣と魔法を習いながら傭兵団の丁稚奉公のようなことをやったのが始まりらしい。
「ガラス職人よりはどうも向いていたと思うので、ある意味幸いですかね」
「向き不向きですか」
「ま、傭兵稼業を引退してやっているのが鍛冶屋の真似事というのはいささか皮肉ですね」
そう言いながら自嘲気味に少し笑っていた。今日の見張りにはある意味秘めたる任務がある。瀧本さんと小谷くんと目を合わせ頷きあってから見張り番に来ている。言葉は交わしていないが、彼らが何を言わんとしているかは一瞬で理解できた。見張りの担当がフゼルさんとで、それもガラスづくりに消極的な人たちもいない。となれば、少しでもフゼルさんと仲良くなり、あわよくばガラス作りにつながる情報を聞き出せたりする絶好のチャンスである。
「ガラス職人に向かないとは?」
「ん-、言葉にするのは難しいのですが……」
我ながらうまい質問が出来た気がする。ガラス職人一家の出であるフゼルさんからガラスについて聞き出したいのだが、鉄鉱山を目当てに来たこの村の人たちは同じく大量の薪や炭を使うガラス作りに反対する人が多い。彼がどう考えているかは分からないが、ガラス作りを教えてください、ガラス作りを手伝ってください、などという直接的な質問はご法度の可能性がある。
「今考えてみると、木材と原料があるところを転々とするのがいやだったんですかね……」
「こう言っちゃ何ですが、転々とするのは傭兵稼業も同じでは?」
「言われてみればそうですねぇ……ただ、ガラス職人は少人数なのと、傭兵稼業はある程度自分たちの意思で行先を決められるところが違うのかもしれませんねぇ」
「なるほど……」
「いや、自分で話していてもよく分かりません。単純に腕っぷしと魔法にそれなりに自信があっただけなのかもしれませんね」
年下にも敬語で喋る丁寧なフゼルさんと腕っぷしという言葉には若干の違和感を覚えるが、その佇まいからも村の中の立場から見てもきっと相当なものなのだろう。
「もうこの歳で引退した今になって……いや、今になったからこそ、向いていたと思い込みたいだけなのかもしれません。向き不向きなんてわからないものですからね」
笑ってそう言うと遠くの暗闇を見つめ始めた。自分はというとなんとかガラスの話題が自然と続くようにどんな質問をしたら良いのか考え込んでいた。
「フゼルさんの子ども時代って……」
「しっ!」
会話を再開しようとした時、唇に指をあてたフゼルさんから黙るように促された。見張りの最中にこれをされたら鈍い人間だろうと何かは理解できる。だが、魔物の姿どころか気配も感じられない。
「……」
片方の月が満月で夜にしては比較的明るく、自分でも何か見えるのではないかと目を凝らすが特に何も見つけられない。
「来ました!」
フゼルさんが何を感じたのか訝しがる暇もなくそう叫ばれた。慌てて鐘を鳴らすが、目視どころか気配すら感じられていなかった。
「どうしました!?」
後藤さんがすぐに見張り台に登ってきたその時にようやく何か闇で蠢くものが見えた。遠目で大きさはわからないが、二足歩行でホブゴブリンよりは小柄で細身のようだ。月が出ているとはいえ夜、さらには距離もありゴブリンとは違うことだけは辛うじて分かる。
「あっ……」
それが何なのか分からなかったが、ゴブリンとの違いが1つすぐに現れた。ゴブリンたちと違い、それは数瞬の躊躇いすらなく目の前の平原を突っ走ってきた。馬の速度とそう変わらなそうだ。
「奴らは水を嫌います。堀の前で止まるはず。そこに魔法を打って足止めしてください」
フゼルさんがその言葉を言い切る頃にはすでに防壁の手前にある堀にその魔物たちは到達しようとしていた。言葉を終えると同時に間髪を入れずフゼルさんが魔法を放った。雷に似た何かがその魔物の一匹に当たり動きを止めた。自分たちもそれに倣う。
「この野郎!」
自分の打った魔法も魔物に当たったが、それは魔物をよろめかせただけであった。それでも堀と魔法のおかげか、見張り台のすぐ近くの入り口に突っ込もうとしていた魔物は近づけず、堀の周りを駆け回っている。
「数も多い上、こう動き回られるとっ……」
そう言いながらもフゼルさんは魔法を打ち続ける。自分たちもそれに続くが当たらない。魔物の足元に着弾して驚かせている程度である。初弾はまぐれだったのだろうか。
「当たらなくても足止めには十分です」
ようやく少し冷静になれてきた。突然の事態にもその丁寧な言葉遣いを崩さないフゼルさんに妙に感心してしまう。最初は元傭兵集団には似つかわしくないと思っていたが、こうなってみると必要なのかもしれないと思えてきた。村の反対側の見張り場も何やら騒がしいことにもようやく気付けるようになった。どうやらあっち側にも来ているようだ。
「まずいですね。ここは任せました。すぐに人が来るはずなので」
冷静になれたのもつかの間、何かを感じ取ったようで見張り台を降りて駆けて行った。魔物たちは少し距離をおいているが、フゼルさんがいなくなったことで魔物たちがまた近づいて来ないだろうか。その恐怖が立ち上がってきた。
投稿速度が上がる魔法を教えてください。




