開拓村2年目:最高級牛丼
想像する異世界転生では現代料理で異世界人を驚かせて大儲けのはずであった
新作料理に浮かれて料理のコストのことがすっぽり頭から抜けていた。
「揃いも揃ってちょっと浮かれてたかなぁ」
今日の見張りを一緒にしている瀧本さんも同じようだ。いや、むしろ、自分と瀧本さんだけでなく、その言葉通りに全員忘れていたようである。実際にコメを注文する際も、塩漬け魚を注文する前も実際に売るとなるといくらになるか、という会話が一切出てこなかったことからもそれは明らかだ。
「ちょっと計算してみようか」
そうした話の流れになるまでには時間がかからなかった。どうせ暇な見張り台の上である。
「買ったあのお米は10㎏ちょっとくらい?」
「もうちょっとあった気もするけど、そんくらいかなぁ」
「精米して少し減った気がするけど……」
「そうだね」
瀧本さんの問いかけに答えながら頭の中で計算していく。精米して10㎏の麻袋で5ソルド。1ソルドが1万いかないくらいと考えると4万円か5万円くらいの感覚だろうか。とすると1kgあたり4千円か5千円。1合が確か150gのはずである。丼に普通に盛るとなると1合いらないはずである。
「1人前が100gとしたら……お米だけで1デナロ……」
「うん……日本円に直すと400円か500円」
計算した結果を呟くが、瀧本さんも同じような計算をしていたのか少し暗い調子ですぐに日本円換算での価格が返ってきた。
「魚は小さい1樽で4ソルド。50匹はくらい入ってた?」
「そうすると1匹丸々使うとこれも1デナロ弱」
「調味料の分も考えると……原価は2デナロ半と考えるべきかぁ」
原価だけでかなりの額である。
「まぁお米もうちょっと入ってた気もするし、まとめ買いで多少安くなるとかあるかもしれないけど……」
瀧本さんが希望的観測を口にするが、それでも半額になったりはしないだろう。実家が飲食店経営らしい高部君いわく、原価率は3割が一応の目標らしい。ただ、飲み物など含めて全体で3割いけば上出来らしいので、それを考えると4割か5割くらいで考えてもいいのかもしれない。
「そうねぇ。店舗の家賃や人件費など諸々を考えなくていい分、この世界だともっと原価率があってもいいのかもしれないけど」
「宿屋の客寄せの珍しい料理と考えれば、さらに……」
その話を口にしたところ、もう1個の希望的観測を被せられた。その希望的観測2つをあわせて原価率7割で考えても、それにしても優に3デナロは超えそうだ。牛丼ならぬ魚丼が2千円を超えてしまうことになる。
「やっぱお米高いなぁ」
日本のお米と全く同じ味と食感ではないものの、お米がたまに食べられるだけでも有難く、買ったことに後悔はない。ただ、商売として考えるとなんとも悲しい計算結果である。シモーネさんの言う「変わり種」というのがようやく腑に落ちた。珍しいものだからちょっと奮発して試してみるか、程度のものにしかならなそうである。
「うーん……となると別のメニューも考えたいなぁ」
一緒に宿をやるシモーネさんもパリッセ夫妻も料理上手である。限られた食材と調味料でたまのご馳走を本当に美味しく作るものだと感心させられる。それに付き従って運営するだけで問題はないのかもしれない。それでも、何か作ってみたい欲は消えない。新作料理作りはガラス作りなどと違って全員が楽しんでできることであるからなのかもしれない。
「結局は珍しい食材を使うと高いね。確かニューヨークのラーメンは何千円もするんだっけ?」
そんな話も聞いたことがある気がする。となると、考えるべきはありふれた食材での新作料理レシピである。器材もないため精米も水車も何も使えない状態では全て杵と臼の手作業であった。かなりの労力がかかってにも拘らず完全な白米とは言えず、いわゆる「何分つき」といわれる状態にしかならなかった。一般的でないものを使うと値段だけでなく手間もかかってしまう。
「まぁ宿屋開業まで1年以上あるし」
そう言うのが精いっぱいであった。
1リラ=20ソルド、1ソルド=12デナロ。
衛兵の最低賃金が年間18リラ、貧しい庶民の食費が月10ソルドで計算しています。
時代感覚は近世に入ってはいるが、大航海時代が起こってないくらいのつもりです。




