開拓村2年目:新年の宴
異世界に来て半年、ついに2年目がやってきた。
「ふわー……」
小谷くんが隣で伸びをして起き上がる。元旦の朝を迎えた。すでに太陽は高々と上がっている。昨日は見張り番を終えてから新年を祝う宴に参加したこともあり、かなり遅くまで飲み明かし、少し気怠い。それでも二日酔いになってないのは酒が強くなったというよりは酒飲みの集団で煽られながらもうまいこと自分のペースを保てるようになったという面が強いのだろう。
「うーん……ちょっと頭が重いですね」
と思ったら、もう一人の同部屋の後藤さんはそうでもないようである。彼は昨日の見張り番はなく早くから飲んでいたのは確かだが、以前と変わらず相当飲まされたようだ。
「起きたー?じゃぁちょっとしたら料理の準備しよー」
自分たちが起きた気配を察して瀧本さんが呼びかけてきた。こちらも酒を勧めてくる人たちとの付き合い方を学んでいない人である。見張りが終わって合流した直後からものすごいペースで飲んでいた。ただ、この人だけはそれを覚える必要のなさそうだ。あれだけ飲んだのに一番元気そうである。
「顔洗いに行きますか」
そう言って下に降りていくことにした。料理の準備というのは新作料理のことである。昨日もみんなに配った燻製は酒飲み中心に好評であった。だが、宿屋をやるとなると看板メニューが酒のつまみだけでは少し寂しい。もちろん、こちらの世界の一般的な料理も作るが、何か新しいものがあっても良いはずだ。
「どうでしょう……」
いよいよ料理の試作である。当初出た案は大学生の定番、牛丼であった。ちょっとしたごちそう扱いの小麦のさらに倍以上するものの米も手に入れられなくないことが分かったことから出た案である。欧米人にも人気で、大学にいるアジア圏からの留学生も宗教上の理由で食べられない層を除けば好んで食べていた。さらには辻野さんいわくアフリカから来た人にも好評らしいとのことである。考えれば考えるほど、これはどの層にも受ける妙案ではないかと思えてきた。ただ、そこで問題になったのが肉である。牛肉にせよ豚肉で代用するにせよ生肉が手に入らず、代わりに塩漬け肉を買ってみたものの、残念ながら食感も美味しさも何か違う。多少裕福なこの村の人が多少高かろうとソーセージやベーコンなどの加工肉を皆買っているのにも納得がいった。そこで登場した案が塩漬けの魚である。こちらも多少値段は張るものの加工肉に比べれば安いし、肉に比べれば塩漬けでの味が落ちないらしい。牛丼がこれだけ好まれるのは食材だけでなく甘辛味が正義なのだろう、魚醤でもいけるのではないかという結論になった。そのため今から作るのは「魚丼」である。どうでしょう、という山田さんの言葉はその魚に関してである。
「さぁ、こればっかりは調理してみないことには……」
昨日のうちにしていた塩抜きがうまく行っているのか。そして考えているタレがあうのか。不安はつきない。タレのベースは魚醤、砂糖、ゴマ油、白ワイン、ニンニクと決まっていたが、バランスをどうするか、そこに少しお酢を入れるのか、柑橘系の味を少し足してもエスニック風味で美味しいのでは、とか、ネギを多めに入れても美味しいのでは、と色々議論はしていたが、結局のところ調理してみないとわからない。魚の塩漬け―どうやらタラのようである―が届いたのはつい先日で試しに作ってみることができなかった。
「ちゃちゃっとやりましょうか」
後藤さんに次いで飲まされて先程まで半分ぐったりとしていた高部君までもが急かす。というのも、宴の開始時間は決まってないが夕方の早目の時間どころか昼過ぎから始める人もいる。そうすると自分たちで試食してから「これ」という味を作るとなると少し急いだほうがいいのであろう。手早く鍋をいくつか用意して調理を始めた。
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「うーん……」
一通り味見をした上で、全員唸っている。決してまずいわけではない。いや、むしろ予想以上にいい味を出している。本来の牛丼味とは違うものの、これはこれでいい感じな気がする。迷っているのはどの味も甲乙つけがたいことである。
「これが一番イメージする甘辛っすね」
「でも、ちょっとビネガー加えてベルガモット入れたのも酒飲みには最高じゃない?」
「それはそうだけど、おつまみなら燻製があるじゃん?」
飯としての完成度を考える小谷君に酒飲みの瀧本さんが軽く反論する。自分はどちらかというと小谷君寄りだ。
「うーん……」
皆、また黙りこくってしまった。宴に間に合わせるには多少急がなくてはいけない。
「あら、試食会?」
「あ、はい。食べます?」
子どもの世話が一段落したのかシモーネさんが居間に顔を覗かせた。意見が聞きたい面もあり勧めてみた。
「それ今日出すんでしょ?その時の楽しみにしとくわ」
「そうなんですけど、迷ってて……」
山田さんが問いかけるようにおずおずと言葉を出した。
「うーん……わからないけど、宿屋で出すつもりならお金の面もあるし、仕込みの手間もあるから単純な方がいいと思うわよ」
「あー……なるほど」
なるほど、最もな意見である。試食をしてもらう前に結論が出たようである。全員顔を見合わせて慌ただしく席を立って準備をしだした。
「あらあら……忙しそうね」
「いや、ありがとうございます!確かにそうっすね!」
小谷君が満面の笑みで答える。後は2日目の宴のために急いで準備をするだけである。
新章開幕!激動の2年目……と思って章管理から新しい章を作ったが、料理パートから抜け出せない。
ナンプラーとゴマ油むっちゃあいますよね!




