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開拓村:宴の準備

冬も深まり、あっと言う間に年が暮れていく……

「よーし、作業終わり!」


 大工の棟梁のいつもの掛け声が聞こえてきた。いつもと違うのはそれが昼間の太陽が高い時間帯であることであった。今日は暦からすると12月30日。新年を祝うため今日から4日半丸々昼間の作業は中断される。今まで祝日的なもので休みがあったがこれだけの「連休」は初めてである


「帰って準備ね」

「明日から飲みまくるぞぉ」

「あら、あなた明日は見張りじゃなかったっけ?」

「ああ、そうか。俺は明後日からか……」


 新年をまたぐ連日の祝い事ではるが、夜に見張り番は回って来る人は基本的には飲むことはできない。ただ、どうせすぐ近くで寝ずに酒盛りをしているのだからと見張り番の人数は減らされる。その分警戒が手薄にならないかと心配になったが、酒豪だらけのこの集団では無用な心配なのかもしれない。


「さて、うちらも準備しましょう」


 瀧本さんのその言葉を合図に立ち上がりいそいそと家路につく。準備とは料理のことである。酒とある程度の料理は村全体で用意するようだが、各自で宴に料理を持ち寄るらしい。持ち寄る料理を特に指定されているわけでもないが、失敗できない重要な問題であるように感じた。チーズの燻製の外れはないし、野菜の燻製も最初は単なる煙臭いだけの失敗作を何度か作ってしまったが、その経験のおかげで今はかなりの成功率になってきている。新年会の料理で評判を上げたところで何になるのかはわからないが、周囲も全く同じようで皆一様に真剣である。


「ういっす。じゃぁ肉貰って来ますね」


 小谷くんだけはイメルダさんが狩ったという鹿肉をおすそ分けしてもらうということで別の方向に歩いて行った。自分たちが新年の宴に何を持ち込むのかを議論しているのを聞いていたらしく、一昨日ちょうど鹿が狩れたとのことでそれを一部くれるらしい。村の警備団の役割を担っている人たちは魔物の捜索に昼間出ているが、ここ1週間は狩りやらの食材集めに夢中で、本来のその任務が「ついで」になっているようだ。宴にかけるこの情熱はこの世界の人全員共通なのか、それともこの村の人達が特に酒好きだからなのかは分からない。


「さて、テキパキと動きますか」


 帰宅してから自分に言い聞かせるように準備に取り掛かる。まずはチーズとそら豆の燻製からである。今まで燻製器をいくつも試作し大小合わせて8個になった。子どもはこんな酒のアテは好まないにしても50人以上の人に振る舞うのにはその数でも手早く大量に燻さないといけない。


「これも交換日記の成果ですね」


 燻製器に次々と火を入れてチーズを燻していく隣で山田さんがもくもくとそら豆を剥いている。交換日記の成果とは野菜には燻製する前に事前に熱を加えた方良いが、蒸すのではなく炒るか炙るのが正解らしいことが経験から分かり始めた。理屈はわからないが試行錯誤の賜である。連日の宴が始まってからはさらに玉ねぎも同じように燻製しようということになっている。


――カンッ……カンッ……


 家の裏手で薪を割るリズミカルな音も聞こえる。確か高部君と松田君が割っているはずである。材木を乾かして薪にするのにも、その薪を手頃な大きさにするにも斧を使わなくてはいけないが、当初はそれすらもままならならなかった。松田君が交換日記に薪割りを文字化して考察していたのを最初は笑ってしまったが、今になってみれば必要なことだったのかもしれないと思えてくる音である。


「……見えづらいですが、これで大丈夫ですかね」


 辻野さんが少し離れたところで地面の穴に手を入れ石で補強している。地面に穴を2つ掘り地中で繋げ、片方で火をおこし片方で煙を出す。そこで肉を燻そうという作戦である。今の木片で煙を出すだけの燻製器だとチーズが溶ける温度にはなるものの、肉をやる勇気は湧いてこない。「肉もやれるらしいのですが、食あたりなんて目も当てられないですね」と燻製経験者らしい辻野さんも肉を燻製するのには尻込みしていた。頭を捻った結果何人かがおぼろげに記憶していた有名な文明崩壊後の漫画にそのようなものがあったのを思い出しこの間制作したものである。


「火を入れるのはまた今度ですかね」 


 隣で手伝っていた後藤さんが立ち上がる。辻野さんが言うに120度くらいで1時間か2時間やれば十分であろうと言うことだ。火に直接当てずにそんな温度になるのは大変かと思いきや、意外にもかなりの高温にあっという間になるようだ。作った当初、試しに煙の噴出口に鍋を設置したところほどなく水がグツグツと沸騰した。温度が上がりすぎる心配をしなくてはいけないくらいのようだ。これで台所を占領せずに肉の燻製ができるはずである。


「おお、なるほど、それで燻製か。考えたもんじゃな」


 通りかかったパリッセさんが感心している。自分たちの創意工夫が認められたようで少し嬉しい。


「しかし、そんなら早めに燻製小屋も作るかのぉ」


 そうパリッセさんが微笑みかけてくれる。


「確かイメルダが燻製好きじゃから、棟梁に言えば手が空き次第すぐに作ってくれるんじゃないか?」


 鹿肉を分けてくれると言ったときの様子からそれは察していたが、燻製小屋という言葉に引っかかってしまった。当たり前だが、こちらの世界にも燻製という文化はあるようで自分たちの専売特許ではないのに気付かされた。となると、自分たちの今やっていることは無駄な手間暇なのではないかという疑念が湧いてくる。


「いいですね。ただ、となるとこの穴も無用になっちゃいますね」


 1週間以上かけた試作の苦労は、あくまでちゃんとした設備ができるまでの繋ぎにしかならないのだろうか。一番苦労した辻野さんが苦笑いしながら話している。


「いやいや、保存って意味では燻製小屋でじっくりゆっくりがええが、味となるとそうやってやる方が好きなのが多いんじゃないか。ま、好みじゃな」


 パリッセさんの口ぶりからすると無駄ではなさそうだが、素人が一生懸命研究しただけの燻製がこの世界で通じるのだろうか。燻製という文化はこの世界でも根付いているようで不安になる。今はお裾分けして喜ばれる程度だが、宿を始めた時には目玉メニューになるのではという期待が少し萎んでいく。この村で自分たち唯一やっている「生業」の行く先が不安になってきた。


「あ、鈴木くん。そこが一段落したら魚の樽運ぶの手伝ってくれる?」


 家から顔を出した瀧本さんが呼びかけてきた。何、新年会の目玉はもう1つある。そもそもお裾分けの燻製自体は好評であるし、こちらの隠し玉も何を隠そう宿の名物メニューにするつもりのものだ。一瞬頭に浮かんだ疑問を振り払って立ち上がった。


このパートいるか?いや、いる。

途上国の農村にいくと調味料の種類の少なさに少し驚きつつも、それでいて色んな種類の料理を用意するママさん達にはさらに驚きますね。

新大陸原産のものもアジアのものもほとんどない中世か近世ヨーロッパの農村の食卓をイメージするのもまた楽しいものです

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