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開拓村:寒い

夜の長い冬は見張り番の回数も増えてしまう。だが、回数よりも辛いのは……

いやー、「うー、さぶいさぶい」


 そういって大工の棟梁の奥さんのイメルダさんが掘っ立て小屋の焚き火にあたりにきた。


「お疲れ様です。じゃぁちょっとしたら自分が交代に行きますね」

「コタニ君しばらく1人でよろしくー」

「はい、はい」


 集中力が切れないように見張り台にはなるべく2人いるように言われているが、この寒さである。多少の時間は見張り台が1人の状態であることは許されている。ただ、もう間もなくこの焚き火の傍から離れないといけない。


「寒いわねー」

「そうですね。はい、どうぞ」

「ありがとー」


 駆け込んできた彼女に温めてあるハーブティーを差し出した。このハーブティーに使うための香草も大工の棟梁が準備したものである。


「スズキ君も飲まないの?」

「いえ、ええと……」


 棟梁が奥さんのために準備したものを何杯も飲むのは憚られるものがある。


「あなた達が飲まないと私も飲みづらいじゃない?」


 片目をつぶりながらこちらにもハーブティーを差し出してきた。


「それとも、この香草は嫌い?」

「いえ、そんなことは全然!」


 白湯が基本のこの世界でハーブティーが飲めるのは有り難い。勧められるがままに口をつけた。心地よい香りが抜けていくと同時に、身体が中から温まるのを感じる。その一方で、実際には本物のお茶やコーヒーへの欲望が思い出されるのはいかんともしがたい。中南米原産のものはもちろん、東アジア原産のものもほとんどない。どうやら地域間の交流が少ないらしい。そう考えると手に入らないのはお茶やコーヒーだけでなく、現代日本の嗜好品ほとんどということになりそうである。


「はー、あったまりました。交代いってきます」


せっかく頂いたハーブティを飲みつつも複雑な表情になっていないかと不安になり慌てて言い繕いながら飲み干す。寒空に小雨まで降ってきている。何事もなく見張りが終わるのを祈りつつ見張り台へ上がっていくことにした。


********


「お疲れさん。何かあったか?」

「いえ、特に」


 ようやく交代がやってきた。曇天、雨天時は時間の経過が分かりづらい。そのため、水の落ちる速度で時間を測る装置が見張り台に設置しようかという話になっている。自分たちは腕時計を持っているには持っているが、後藤さんと辻野さんのだけで毎回見張りに持ち出すことはできず、交代時間が不安であった。特に自分たちの後の深夜帯の当番は二度寝する生活サイクルになっているはずである。自分であれば交代時間に何度も遅刻しそうだ。それでも予想に反して交代の時間はだいたい正確である。一人目が来てから10分ほどで交代の3人が揃った。


「さーて、今日もやるか」


 全員が揃ったとことで最初に来た男が手を揉みながら言い放った。今日も、というのは見張りの交代の時に恒例となっている「賭け」である。元傭兵団のためなのか、老若男女問わず賭け事が大好きのようである。ここ最近の賭けの対象は自分たちである。魔法を自分たち2人が順番に撃ち、両方もまともに発動するかどうかを賭けている。自分たちは魔法の練習のついでにもなるし何も損をしないが、注目されながら、というのは毎回緊張してしまう。


「じゃぁ、自分からいきます」

「しっかりね」

「何、失敗もその後の糧になるぞ。というか失敗しろ」


 賭けが成功と失敗の2対2に分かれたところで、すぐに小谷くんが立ち上がった。自分と違い全く動じていないように見える。スポーツで鍛えられた精神力なのだろうか。羨ましい限りである。


――バンッ


 少し遠くの地面に当たり鈍い音がした。土煙が上がっているようだが、暗くてはっきりとは見えない。


「どう見ても成功よね」

「ああ……そうだな」


 にっこり笑うイメルダさんに対して失敗に賭けた男は残念そうに頭を振る。しばしの後、当然のことながら自分に視線が集まる。


「っと……」

「失敗したら男がすたるぞ」


 失敗したところでどうということのないお遊びなのだが、その声にさらに緊張が高まる気がした。


――ボフッ


 ままよ、とばかりに撃った魔法の音は小谷くんのよりも少し小さい。着弾地点が泥濘んでいたのか、小谷くんの魔法より威力が低かったのかは分からないが、どちらにせよ成功ではある。


「ふぅ……」


 安堵のため息が漏れてしまう。


「やるな坊主」

「いやー、やられたなぁ」


 負けた側の2人も笑いながら背中を叩いてくる。


「ほらほら」

「こりゃ、意外に早くこの賭けも終わりか?来月くらいには十に九は成功しそうな勢いじゃわい。次の賭けの種を探さんとなぁ」


 勝った側にせっつかれ銅貨を何枚か差し出しながらそうぼやいている。それを横目に別れを言い帰路につくことにした。


********


 安堵とともに布団に潜り込んだ。ただ、藁の上に敷き布を敷いただけの寝床では下から寒気が立ち上がってくるようである。板の間に寝るのに比べればベッドで寝られるのは天国なのは分かってはいる。分かってはいるが、どうせ朝には寒さで起こされることを考えると気分が滅入る。ほとんど変化しない村の暮らしで唯一待っていることは冬が終わることだけである。賭け事を見つけるのは元傭兵の気質だけではなくこういうことなのかもしれないと思いながら眠りに落ちていった。


次回から新しい章に移行して変化をつけるつもりです。

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