開拓村:仲良しこよし
冬は昼間が短く季節の進みは早く感じる。感じるが……
ゴブリンの集団が現れ、広場に倉庫の建設が始まってから2ヶ月、夜の時間がかなり長くなっていた。正確には分からないものの日没から日の出までの時間が15時間くらいだろうか。冬至は超えたようで、これからは夜の時間は短くなるらしいがそれにしても昼間が短く活動可能時間が限られてしまう。
「そろそろ時間すかね」
今日の見張りのペアは小谷君である。かなり夕暮れが迫っているが昼間が短いせいでお腹が減ってない。見張りの最中に何も食えないわけでなないので、とりあえず家を出ることにした。
「おう、来たか」
見張り台に着くとすでに先客がいた。例の会合以来、見張りは3人体制で3交代になっている。2箇所見張り場があるため1日に18人が見張り当番に指名されることとなる。自分たちも入れて大人の人数が50名ちょっとの村だとほとんど2日に1回当番が回ってくる計算である。3交代の見張りはそこまで長時間でない。また、昼間は建設など野良仕事があるにはあるが結局日没以後は働けない。そのため、そこまで過酷な労働時間ではない。ただ、昼間の時間の短さからくる作業の進まなさ具合は自分たちも気になって仕方がない。
「全く、冬というのはうっとおしいのお」
先に来ていた男は会合でも前に出た大工の棟梁である。ただただ手伝っているだけの自分たちよりも作業の進まなさ具合は彼の悩みの種になっていそうである。その愚痴をこぼすかのように呟きながら火をおこしている。冬に入ってからは見張り台の裏には粗末ながらも小屋が建てられその中で休めるようになっていた。昼の短さに加えて夜の寒さもこの季節の悩みの種と言える。見張りの警戒レベルを上げないとしても、交代で暖を取るためにも3人体制は必要なように思えた。
「すんません、ありがとうございます」
「まぁお前さんたちのためっていうか……うちのやつが寒さに弱いからな」
小谷くんが火起こしのお礼を言うと、立ち上がりながら少しはにかんで答える。「うちの」
というのは彼の奥さんである。冬の間3人組の当番には最低でも1人熟練の「戦士」が入ることになっている。今日我々に加わってくれる人は彼ではなく、彼の奥さんである。大工の棟梁は見たところ60過ぎといったところであるが奥さんは40入ったかどうかという若さであり、この村ではかなり若い部類に入る。ただ、この世界の住人、特に魔力が高いとされている人たちは全くの年齢不詳である。当たり前だが女性に年齢を聞くのは憚られるため、実際にはいくつなのかは想像するしかない。
「うちのももうすぐ来るはずじゃが……」
その言葉とほぼ前後して、村の中から彼女が歩いてきた。すでに何度か見張りで一緒になっているがその姿には毎回見惚れてしまう。グレイヘアーというよりは銀髪の少し短めの髪を棚引かせている。華奢ながら現代の女性でも長身の部類に入る瀧本さんと同じくらいの身長で、胸より上まである長弓を携えている。初めてゴブリンの集団が現れて以来、何回かこっそり侵入しようと這いつくばって接近してきている。全て難なく撃退しているが、そのうち1回は彼女が見張り番の時であった。駆けつけた時には全て1撃で頭を射抜かれたゴブリンの死体が5体草原に転がっているのを見ただけだった。後から聞いた話だが、鐘を鳴らした直後に彼女が弓を放ち仕留めたとのことで、自分が到着した時には仲間がやられほうほうの体で逃げていくゴブリンたちの背中が辛うじて見えただけであった。
「おお、来たか。寒いじゃろうて焚き火を準備しといたぞ」
「……もう!あんた、そんなことしなくていいから。自分でもちゃんとおこせますから」
「そんなこと言わんと……おお、襟巻きが捻れておるで」
「え……あ、もう。恥ずかしい」
大工の棟梁は後ろに回り彼女のマフラーを正し始めた。おしどり夫婦なのではあろうが、どちらがどちらにベタ惚れなのかは一目瞭然である。彼女が見張り番の時に事前に来て色々とお節介を焼いているのは何度か見た光景である。
「なんか妬けるっすね。もう見張り番はお二人で固定にしちゃったらいいのに」
「こら、若者。おばさんを誂わないの!」
小谷くんがからかい半分のその言葉は笑いを誘うと同時に確かに納得の疑問である。どうせなら気心しれた人同士で組ませたほうが色々と捗るのではないだろうか。少し真面目な口調でその言葉に同意したところ。これまで緩んだ顔だった棟梁が真顔で話始めた。
「いやな、たとえどんだけ仲が良くてもずーっと同じ人間と、それも真面目な仕事をしていると結構負担になるもんじゃ」
「はー、確かにそうかもしれないっすね」
小谷くんは何か思い当たるのか、彼も真面目な顔になり頷いている。
「知らんヤツを知るのも大事じゃし……」
そこで言葉を区切って続ける。
「仲が良いやつほど喧嘩か何かで関係が険悪になった時に周りが気づけんくて大事になっちょったりするからな」
傭兵団として鳴らした人が言うからには、そういうものなのか、と納得するしかなさそうだ。
「ま、うちに限ってはそんなことないんじゃがな」
「はいはい、さっさと帰ってください」
またも緩んだ顔に戻って惚気ける棟梁は奥さんに追い立てられて帰宅していった。自分たちの見張り番のローテーションを考えさせられながら彼を見送り見張り番に着くことになった。
あと1話で年内を終わらせる。次の段階にいかないといつまでも動きがない物語になってしまう……




