開拓村:付け届け
ゴブリンが現れた翌日であるが、ほぼ普段通りの生活が流れていく……
食後居間で寛いでいる間にもパリッセさんに何人かの人が訪ねてきて、別室で話し込んでいた。時折笑い声も聞こえるため、そこまで深刻な話ではなさそうだが、居間に取り残された自分たちはなんとも寛げない。
「ガラスの話だけど、フゼルさんの実家がガラス職人だって」
今日は見張りの当番にこぞって「消極派」の人たちが出ており、ある意味ガラス作りの話を進めるチャンスである。そのため、瀧本さんが話し始めた。
「フゼルさんって今ボルトラーミさんと一緒に部屋に入っていった?」
「そう」
村の人達のだいたいの顔と名前が一致し始めたが、まだ完全とは言い難い。記憶を思い起こして聞いてみたが、どうやらあたっていたようだ。
「となると、鍛冶屋ってことっすよね?」
「そうね……」
小谷くんの問いかけに瀧本さんが少し力なく答える。言わんとしていることはよく分かる。ガラス作りのことを聞けるのではないか、手伝ってもらえるのではないか。その一方で、自分たちがガラス作りをしたいということに対して反対が多いことは分かっており、同じく木材を使う鍛冶屋の人であればなおさらだろう。聞きたくても躊躇してしまう。
「うーん……ゴブリンが出た昨日の今日で忙しそうだし、聞くとしても今日じゃないですかね」
いわゆる「中間派」の後藤さんがそう呟いた。今はタイミングが悪そうなのは確かかもしれないが、なんとも消極的に聞こえてしまう。
――ガダッ
ほどなくして、話し合いがされている部屋から立ち上がる音が聞こえた。果たして、部屋からボルトラーミさんとフゼルさんの2人が出てきた。
「あっと……」
声をかけようとしたが、何を話していいかわからず口ごもってしまう。せっかくの機会だから後々ガラスについて訊くためにも仲良くなっておきたい。一方で、そんな邪な考えで話しかけて果たして仲良くなれるのだろうか。相手の視線がこちらの心を見透かしているかのようだ。
「おう、調子はどうだ」
ボルトラーミさんは帰りがけにそう言って我々のいる居間にどかっと座った。フゼルさんもそれに倣って隣に座る。ボルトラーミさんを始め鍛冶屋は力仕事のためか全体的に荒々しい人が多いが彼は対照的に落ち着いている印象を受ける。その性格はボルトラーミさんを補佐するためであろうか。そんな想像をしつつも、彼のその落ち着いた視線は相変わらず自分の言葉を詰まらせてしまう。せっかく話しかけてくれたにも関わらず……
「変わらずですね。ところで今日はゴブリンの件で?」
「そうだな。気になるよな。ただ、特に問題が大きくなったから来たわけじゃないぞ」
後藤さんの問いかけにボルトラーミさんが笑って答える。漏れ伝わった雰囲気からしてもそうなのだろうということは分かっていたが、詳細は気になる。
「ええ。その報告に着たのですが……や、すみません」
たぶんボルトラーミさんに説明させるより早いと感じたのか話し始めたフゼルさんに瀧本さんが白湯を差し出した。ボルトラーミさんと一緒に、それに口をつけながら続ける。
「今日、昼間にゴブリンの寝床をいくつか叩くことができました。ただ、肝心のホブがいなかったのと数からしても昨晩現れたグループを叩けていなそうなのだけは気がかりですね」
「どこに隠れていやがるのか……」
「夜はますます長くなっていくはずなので早めに対処したいのはやまやまですが……」
思ったより深刻な状況に聞こえる。全員で顔を見合わせた。
「ああ、別にたいした状況ではないので安心してください」
「おう、あの倍の数が押し寄せても死者どころか怪我人なしで潰せる自信がある」
ボルトラーミさんがそう言うと笑い始めた。こちらも釣られて笑顔になってしまう。
「ただ、それも奇襲されなければ、という条件付きなので見張りの増強なども考えないといけないのは少し頭の痛いところですね」
その話を聞いてまた少し暗い気持ちになってしまう。
「いやいや、逆に考えればその程度だってことですよ」
「おう。お前さんたちの表情を見てるとさっきからころころ変わって見てると面白いぞ」
フゼルさんにそう笑われてしまった。
帰りがけに今日作った野菜の燻製をお土産代わりにと少しおすそ分けしたが、二人ともにかなり好評だった。仲良くなるための「付け届け」みたいであり、少し複雑な気持ちになってしまう。それを瀧本さんと小谷君に漏らしたところ
「それもそうだけど……ね」
瀧本さんが片目を瞑ってそう答えた。そんなきれいごとを言っていても仕方ない。そう言われているかのようだった。なんとかガラス作りを今年中に初めて一発逆転。そんな希望が少しずつ膨らんできた。
不定期投稿……週1目指すつもりがどうしてこうなった




