開拓村:襲撃
秋の夜長にはぴったりとは言え、まさか自分たちが交換日記などするとは想像すらしなかった。
「えー!ボルトラーミさんは70近いってこと?」
「そうらしい。いやーどうみても50そこそこだよなぁ」
今日の見張り番は瀧本さんと一緒である。交換日記のおかげで話題は尽きない。そのおかげで美人とデートしているみたいに感じられ、少しうれしいのは秘密である。
「なんだかんだで交換日記はまっちゃったねー」
「ほんとに。ただ、そろそろ自分も真面目なネタ書かないとゴシップ記者みたいになっちゃいそうだなぁ」
自然とお互い笑いが漏れる。我々2人だけでなく、どうやら全員交換日記にはまってしまったようである。当初は1日1人ずつ回していく予定が2周目から午前と午後に1人ずつ書くことになった。となると、4日に1回手元に回って来る計算だが、それでも待ち遠しく感じている自分がいた。
「ただ、これってうちらの仲がギクシャクしてるの感づかれて提案されたんだろうなぁって」
「だろうねぇ。楽しめてるからに狙い通りってことなんかな」
気になる点があるとすれば、そういうことである。ちょっと考えれば交換日記は仲をよくするために提案されたことは想像がついた。仲がギクシャクしているといって対立しているわけではないのだが、よほど深刻と思われたのだろう。
「そうねぇ……」
少し気のない瀧本さんの返事が帰ってきた。会話が全くないというわけでもなくそれなりに上手くやっているはずである。ただ、野良仕事が終わった後の自由時間の行動は完全別行動に近くなっている。それを考えると「思われた」のではなく「現実」で、自分たちが思っている以上に深刻なのかもしれない。
「ところで、交換日記に書いてあった例のお酒って……」
別の話題に変えようとした瞬間である。暗闇になにか揺らめくものが見えた。
――ガサッ
遠くの茂みが動いた気がする。視界を確保するのに周囲は切り開かれており、近くの藪までは数十mは離れているはずで音などそうそう聞こえないはずだが、ともかくそう聞こえた気がした。
「出た?」
「わからない……」
茂みを見たまま固まった自分を見て、瀧本さんは鐘を叩く小槌を片手に小声で話す。それに対して少しかぶりを振りながら答える。この間も猪と魔物を勘違いして叩き起こされた。仕方のないこととは言え、勘違いで睡眠を妨げるのは憚られるものがある。
「うーん……」
お互い無言で暗闇に目を凝らして数分、いや10分は経ったであろうか。特に動きもないまま時間が過ぎて行った。
「何もいない……かな」
特に何も見つからない。気のせいだったのだろうか。緊張を解いて背伸びをする。
「で、さっきの話だけど……」
そうやって話を戻そうとした時のことである。先ほど動いた茂みの近くから何かが現れた。気を緩めた直後だからだろうか、驚きすら飛び越して呆然として固まってしまう。
「……」
隣の瀧本さんも同じように固まっている。出てきたそれがゴブリンだと認識できるやいなや、ぞろぞろと後続が現れてきた。
「な、鳴らして!」
「えっ、あっ」
瀧本さんよりも先に我に返り、鐘を叩くよう促した。瀧本さんが慌てて鐘を叩く。
――カンカンカンカンッ
現れたゴブリンはこれで逃げるように帰っていくのが今までの通例だった。だが、今回は様子が違うようだ。逃げていくどころかさらに後続が顔を覗かせる。
「あっ……」
現れたゴブリンが20匹を超えたかという時、瀧本さんがそう声を発した。一瞬何のことか分からなかったが、ゴブリンたちの後ろに大きい影が動いた。距離もあり、かがり火の明かりでは遠近感が掴めないが、明らかにゴブリンよりも大きなものが動いている。
――ザワザワ
後ろで人が起き出す気配を感じた。ただ、皆が起きてここに駆け付けるまで1、2分はかかるであろう。ゴブリンたちが前方の草原と畑を走り、堀と塀を超えるまでに間に合うであろうか。ゴブリン程度の背丈であればそんな心配はしないのだが、後ろの魔物の大きさはそれを心配するのには十分な気がしてくる。
――ガチャッ
瀧本さんが傍に置いてあった剣と盾を持ちあげた。自分も使えるのかどうかも分からない剣と盾を握りしめる。握りしめつつも、あれがトロールだとすると、こんなものを持ったところでどうするのかという考えが頭によぎる。
ときおり唸り声らしきものが聞こえるだけで一向に動きはない。早く誰か来てくれと祈るように固唾を飲んで見守るしかなかった。
「どうした?」
革の胸当てをつけ槍をもった村人が駆けつけてきた。さらに後に人が続く気配もする。鐘をならしてから、どれだけ時間が経ったのかわからない。数十秒だった気もするし数分だった気もする。ともあれ、これで一安心といったところだろうか。
「ゴブリンか」
「んー……数が多いな」
駆けつけてきた人が暗闇に目を凝らしながら、口々に言い合う。その脇で、自分の足が震えていることに気づいた。いつから震えていたのかは分からないが、たぶんずっとだろう。周囲で喋る人たちに気づかれていないことを祈りつつ、話に耳を傾ける。
「おー、ホブまでいやがるのか」
どうやら大きいヤツのことらしい。ホブゴブリン。聞いたことはある。ゴブリンの強化版というやつだったはずだ。ただ、想像以上にでかい。トロールとまではいかないようだが、それにしても大きく感じるのは暗闇と恐怖のせいだろうか。
「お?来るか?」
村人が言うように、ボブゴブリンらしき巨体が3体ゴブリンの集団を掻き分けるようにずいっと前に出てきた。周囲のゴブリンも30体は超えているように思える。いよいよもって、ガチガチと言う音が自分の歯から聞こえてきた。
不定期投稿……過疎ってるからやる気がでないなどというのが言い訳にならないくらい時間があいてしまった




