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開拓村:交換日記

魔法を使えるようになるのはいつのことか。そんな一足飛びに何か進歩を求めてはいけないのだろうが、それを考えると少し憂鬱になってしまう。

「交換日記でもしてみたらどうかしら」


 夕食を摂っているとパリッセの奥さんがそう提案してきた。突然のことにしばし固まってしまう。周りも目をぱちくりさせながら奥さんを見返している。


「ほら、文字に慣れるにもやっぱ書くのも大事よ」


 確かにその通りかもしれない。幸いなことに筆記具だけは潤沢にある。とは言え、交換日記と言われても何を書くべきか……。人生で交換日記などやったこともなく、一番近いのはせいぜい小学校の頃学校の先生にバレないように友達で回していたメモくらいである。


「書くのはなんでもいいのよ。日々の日常でも魔法の練習の感想でも、読んだ本の感想でもいいし」


 そうしたこちらの表情を読み取ってか、さらに言葉を続ける。


「あなたたち燻製に凝ってるじゃない?その記録でもいいし」


 週に一回のちょっとした宴会には以前うまくいった燻製を作るのが定例となっている。


「研究を重ねて宿屋で出したら名物になるかもよ?」


 なるほど、そう考えると具体的な実益も兼ねられるのか。


「まぁ肩肘張らずになんでもいいから書いてみたら?」


――2日後


 自分の番が回ってきたが、何を書いていいのかトンと分からない。居間でただただペンを回して頭を悩ませていた。前の2人は何を書いているのだろうとみてみたが、瀧本さんが料理の味付けの話、小谷君が筋トレの記録をつけていた。自分も肩肘張らずに何か日常のことを書けばいいのだろうが、それが思いつかないのである。


「うーん……」


 居間には食事や薪割りなどの当番でない何人かがいる。ただ、自然と自分が書く番まで読まないことがいつの間にか暗黙の了解になっており、覗き込んでは来ないし、話しかけても来ない。逆にこの空気のせいで書きづらくさせているのではと思えてきた。


「お、交換日記か。ばあさんが提案しそうなことじゃな」


 居間に入ってきたパリッセさんが日記を書いている自分を見てそう言った。


「ああ、大丈夫じゃ。中身は見んからな。ばあさんの悪口を書いてもええぞ」

「聞こえてますよー」


 台所から奥さんの声が飛んできた。


「いやー、しかし懐かしいな。ばあさんと仲良くなったのもこれがきっかけじゃ。もう60年は前かのぉ」


 そう言いながら、どかっと椅子に座り遠い目をした。


「お二人は幼馴染なんですか?」


 山田さんが質問をした。交換日記で仲良くなった幼馴染とは、想像するだけで少しほっこりしてくる。


「いんや、出会ったのは傭兵になってしばらくしてからじゃで」

「え……でも交換日記って……」


 答えは想像とは違うのが返ってきたため山田さんも戸惑っている。


「交換日記と聞くと子どもっぽいかい?でも、傭兵稼業をしていると普段言えないことを貯めこまずにするのに丁度ええからな」


 傭兵団で何かを貯めこんで仲違いをしてしまうと他の職種よりもまずいことが起きそうである。それを考えれば交換日記は1つ良い手法なのだろう。ただ、それ以上に気にかかるのは年齢が計算に合わないことである。二人はどう見ても60代、見方によっては50代でも通じそうである。


「ん?どうした?」


 年齢のことが頭に引っ掛かり、さらにそれを聞いていいのかと全員固まってしまっている。


「えっと……失礼ですが、お二人っておいくつなんですか?」

「じじいになると年齢がぱっと思い出せんのだが……ばあさん、わしはいくつだったかの」

「あなたが今年で97だったんじゃない?」

「おお、そうじゃったかの」


 意を決して聞いてみた。パリッセさんは大声で台所に呼びかけたが、返ってきた言葉は予想外であった。


「ええ!てっきり60くらいかと思ってました!」


 隣でぼーっとしていた後藤さんが驚きの声を上げる。


「あー……魔力の高い人間は老いが遅いし、身体も丈夫になるんじゃ。180歳の大魔導士もうちの国にはおるらしいぞ」


 よくよく考えてみればファンタジー世界だとそんな年齢の魔法使いがいても不思議ではない。


「はー……」


 ただ、あまりに衝撃的すぎて言葉を失ってしまう。


「あ!えっと……てことは?」

「ん?どうしたんじゃ?」


 山田さんが何かを思いついたようだ。


「紙と筆記具を売った魔女さんって……」

「おお、あやつな。えーっとわしとは時期が被ってない年の離れた妹弟子だからちゃんとは覚えておらんのじゃが……」


 パリッセさんが思い出すように声を出した。


「確か、60は超えていたかの」

「はえー……」


 山田さんが情けない声を出しながら驚いている。ただ、驚いているのは自分も一緒ではある。あの露出の多い魔女はせいぜい30代半ばくらいに思っていた。魔女恐るべしである。


「あ、もし万が一次会うことがあってもわしが年のこと言ったのは秘密じゃぞ」


 口に指をあて片目を瞑りそう言った。それを伝えたらえらいことになりそうなのはなんとなく想像できる。


「あ、日記にこのこと書こうかな。他の5人には順番が回ってくるまで内緒にしましょう」


 そう言うと後藤さんと山田さんも面白そうに頷いた。


「奥さん」っていう書き方、今の時代には相応しくないような気がするものの、中世ですからね……

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