開拓村:半人前の手習い
意気込んで、村の産業を提案してみたが、半ばけんもほろろだったようである……
「さて、今日の授業はここまでよ」
教師役のパリッセさんの奥さんがそういうと、子供たちは椅子でガタガタと音を立てて教室を飛び出していった。
週に何回か子供たちに混じって文字を習い始めてから2週間ほど経った。最初は子供たちと一緒に習うことに対して気恥ずかしさもあったが、すぐに慣れた。そして、文字の方もすぐに慣れそうだ。というのも、五十音にそれぞれ文字が対応しており、いわば日本語のひらがなが別の文字に置き換わっただけである。
「神様が私たちに都合よく設計してくれたんですかね」
山田さんはそう言っていた。そんなことなどあるのだろうか。とは言え、「なぜ」を考えても結論など出ようはずがない。ならば、そう考えておくしかないのだろう。
「もう文字は読めるようになったみたいね」
そう問いかけられた。子供たちがいなくなった周囲は嵐が去った後ようだ。学校代わりである領主の館の広間にはようやくしばしの静寂が訪れた。
「そうですね。あとは読みと書きの慣れでいけそうです」
「そう。あっという間に卒業ってことね……あ、ちょっと待っていてね」
問いかけに答えると何かを思い出したかのように奥さんは、自室へと戻っていった。
文字を理解するだけならすぐであったが、そういえば文字の読み書きをすらすらやれるようになるのにはなかなか慣れることができないのでは、と自分の発言で考え込んでしまった。
慣れないことと言えばもう1つ、子供も教師もいなくなったこの空間に自分たちが取り残されることであった。というのもここ最近関係がどことなくギクシャクしている。心当たりはあるにはある。
――遡ること2週間前
「確かに具体的にどうするのかはほとんど分からないんだよな……」
ガラス製作の提案かなり懐疑の目で見られてしまった。その後、村の上役たちは引き続き相談ごとがあるということで一足先に帰宅し、広間――これが現在は学校代わりに使われているわけだが――で何をするわけでもなく集まっていた。
「図書館に戻れば具体的な方法書いた本もありそうですよねー」
瀧本さんが背もたれに大げさにもたれかかりながら呟いた。
「ま、今となっては無理なのは分かってますけど」
背もたれから背を起こしてそう付け足した。口先だけの異世界人という印象を持たれていることを聞いていたにも関わらず、それをさらに強めてしまっただけなのかもしれない。特段何か損失を産んだわけではないが、それを考えると明るく振る舞う気分になれなかった。
「というか、そもそもあんな提案しない方がよかったんじゃ?」
少しの沈黙の後に高部君が口を開いた。少し図星をつかれた感覚があり、彼を見返したまま黙ってしまう。
「あんなこと言ったせいで、また変な目で見られている気がするし……」
――バンッ!
高部君が言葉を続けた瞬間、瀧本さんが机を叩いて立ち上がった。
「今になってその言い方はないんじゃないですか!?提案するって言った時は反対しなかったですよね!?」
「それはそうだけど……」
あまりの剣幕に気圧されているのが見て取れる。確かに最初は反対しなかったのに後になってのこの言い方には腹が立たないでもない。一方で図星をつかれた面もあり、怒りに加えて狼狽という感情も一緒に来ている。
「高部君の言い方は悪かったけど、気持ちは分からないでもないかな」
自分が何を言ったらいいかわかず黙っている中、辻本さんが口を開いた。瀧本さんは疑念と不満の入り混じった視線を向けた。
「それって座して何もせずに流れに身を任せろってことっすか」
「いやいや、そういうつもりじゃなくて……まずは既存の技術でできることから……」
「両方やればいいじゃないっすか」
今度は小谷君が辻野さんに少し噛みつき始めた。
「鍬も使えない役立たずじゃ……」
「そう。まともに働けていない人間が何言ったところで信用されないんじゃ」
松田君の言葉を通訳するがごとく高部君が付け足す。そういえば松田君はようやく最近単語でなく文章でしゃべるようになってきたが、それにしても言葉数が少ない。そんなことが頭に浮かぶ一方で、痛い指摘ではある。多少慣れてきたとは言え、農機具の扱いも生活の知恵も何も彼にもうまくできない。こちらの世界の人からすれば足手まといとまではいわなくとも、半人前と映っているのだろう。
「うーん……」
年長者の後藤さんは腕を組んだまま、天井を見上げていた。
――
結局その日は、お互いに意見をぶつけあっただけで終わった。そして、その後も特に意見がまとまるわけではなく、ただ温度差が出来てしまっただけのようだ。それが広間に取り残された我々の席位置にも反映しているように思える。中間派の後藤さんと山田さんを挟んで、何か新しいことを始めたいという自分と瀧本さん、小谷君が座り、その反対側には辻野さんに高部君と松田君が座っている。これはここ学校だけでなく、食事の際なども含めてここ2週間の我々の席の固定配置になっていた。
「待ってて、ってなんででしょうね」
なかなか帰ってこないパリッセさんの奥さんの消えた方向に一番近い自分に、高部君が問いかけてきた。意見の違いだけで、お互いを無視しあうほど幼稚な者たちはいないが、少しずつ慣れてきて、同学年同士はため口になりかけていたのが敬語に戻ってしまっている。
「さぁ……」
そう口を開きかけたときようやく戻ってきた。
「はい、文字に慣れるのに本を持ってきたわ」
そういって戻ってきた奥さんの手には何冊か厚めの本があった。
「いわゆる歴史ものが中心ね。ついでにこの世界のこともある程度わかるはずよ。貸すから、回し読みするといいわ」
「ありがとうございます」
皆そういって本を手に取り回した。
「ただ、脚色もあるからそのまま真に受けない方がいいのと……」
パラパラと本をめくる我々にそう言い、少し言葉をおいてこう続けた。
「異世界の人のことを悪く書いている部分もあるけど、そこはあまり気にしないでね」
全員、ページをめくる手を止めて見上げる。誰も言葉を発しないまましばし固まってしまった。
「誇張もあるし、悪く思っているのは本当に一部の人だけど……それも含めて知っておくのは悪いことじゃないと思うわ」
そう言われて、我々は頷くしかなかった。
過疎小説でモチベーション保つのは大変です。
書き始めたからには書きたいキリのいいところまでは……
といっても先は大分長いのですが……




