開拓村:無収入
無能な現代人は単純作業でしか役に立たないのだろうか……
「まーた、降ってきたねぇ」
「まぁ小雨だし続けるしかないか」
「時間もないしのぉ」
8月も半ばが過ぎた頃からこれまでほとんど降らなかった雨が降り始めた。その雨に周囲の人が愚痴っている。作業を急いでいるのには訳がある。少しでも村の資金の目減りを減らそうと慌てて作付け面積を増やそうとしているのだ。
「まぁ暑いくらいだし、逆にええかもな」
「風向きもええ具合だな」
「ああ、ただ、この分だと森にいる連中はご苦労なこって」
建材の確保と同時に村の周囲の見通しをよくするのを目的に村の近くの森が次々と伐採されている。さらには伐採後の土地やもともと森がなかった草地に火を入れている。いわゆる焼き畑農業ということになるのだろうか。自分たちは昨日火が入れられた区画を耕して種まきの準備をしているが、午前中に火を入れた隣の区画では煙が燻っている。その煙はどうも自分たちとは反対方向の伐採中の森の方へ流れているようだ。
「しかし、この菜種の種も村からの持ち出しよね」
「ああ、まぁ大した金額ではないし……」
「にしても、失敗したら丸損、成功しても微々たるもんだな」
魔物討伐が始まるまでの無収入の期間を少しでもなくそうと色々と調べてみたようだが、結局これというものは見つからなかった。苦肉の策として菜種の植え付けを始めることとなったが、どうもそこまで実入りのいいものでないらしい。さらに問題は菜種が取れるのは春先。うまくいったとしても、結局それまで村は無収入ということだ。
「岩塩でもその辺にたっぷり埋まってねえかな……」
「あったら、前の連中が見逃さないでしょ」
「ちげえねぇ」
自嘲気味に軽口を叩きながら作業を進めている。自分たちはというと、自嘲すらできずにその会話を片耳に作業を続けるだけである。
――メキメキ
一本の木が切り倒された音がする。ひときわ大きい木のため遠くからでも目立って見える。
「立派なブナの木じゃのぉ」
「あの森だったらいい豚が飼育できたろうに」
「できないことを考えても仕方ないでしょ。はいはい、口より手を動かす」
愚痴が多いのは女性陣よりもどちらかというと男性陣の方で、窘められながら作業を続けている。自分たちはというと相変わらず無言のままである。同じ作業班に妬みからくるにせよ自分たちを無能なよそ者と思っている人が混ざっていることで、単純作業だけでも村に貢献しなくてはという思いがますます強くなり、必死に作業を進めている。ただ、単純作業で貢献したとことでどれだけ評価が変わるのだろうか。
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「うまい話はなかなか転がってないってことっすかねぇ」
作業から帰ってきて、今日の見張り当番の4人が早めの夕食を摂っている。今日の当番は自分と瀧本さんがペアで、村の反対側には後藤さんと小谷君がつくことになっている。全員の顔が暗いのは単調な食事のせいか、一部の人から向けられる妬みの感情のせいか、はたまた、何もできない自分たちへのいら立ちなのかは分からない。
「家畜も飼えない、森の資源もあまり使えないってのがネックらしいですね」
オートミールを食べながら話す瀧本さんが答える。
「で、苦肉の策が菜種油ってことか」
「ええ。で、春には亜麻を植えようかっても言ってましたね」
自分もオートミールを押し込みながら瀧本さんと会話を続ける。
「でも、亜麻糸は手間暇かかるし、機織り機もないからどうしようかって」
手に持った匙をくるくると回しながら続ける。
「次の年には栽培できないって言ってましたね。連作障害ってやつですかね」
後藤さんも気だるそうに諦め顔で呟く。確か同じ作物を作り続けると土壌の養分のバランスが崩れて作物が育たなくなるとかいう話であったはずである。
「確かヨーロッパはそれを三圃制とかいう輪作でなんとかして人口増大に繋げたんですよね」
「ええ、そうですね。もちろん、その制度だけで魔法のようにではなく、重量犁などの技術の改良などと組み合わさってですけどね」
答える後藤さんはもちろん、意外にも、といったら失礼であろうが体育会系小谷君も博識である。
「水田は連作障害が起きないんでしたよね。なんでヨーロッパでは普及しなかったんでしょうね」
「さぁ、私はロシアの近現代史が専門で、中世近世のヨーロッパ史は一般の人よりは知っている程度ですから……まぁ気候や水資源のせいじゃないですかね」
ふとした疑問を口にしてみたが、後藤さんも分からないらしい。
「鈴木君、水田でも作るつもり?」
「まぁちょっと気になっただけで……別に水田を作ろうってわけでは……」
「いやー、でもお米食いたいっすねぇ……」
瀧本さんに聞かれて答えたが、小谷君の言うようにお米が食いたいのは事実である。
「あとは……果樹園なんかは当たり前ですが数年かかるし……」
前の村人が育てていたらしいブドウ畑のことが思い出された。それは魔物に食い荒らされたらしく、ブドウ畑というよりは単なる藪のようになっており、もはや用をなさないものになっていた。お米への欲求を減らすがために、慌てて出した別の話題であったが、皆それを思い出したのか無言の空気を作りだしてしまっただけであった。
「最初に避難した村を思い出すにたぶん、三圃制のようなことはやっていると思うんですよね」
しばしの沈黙を挟んで後藤さんが口を開き、さらに続ける。
「その土地の人が思いついていない魔法のような考えなんてそうそう出てこないってことですかね……」
そう言われてしまえば身も蓋もない。確かにその通りで、下手な考え休むに似たりなのかとも思えてくる。その一方で、諦めに聞こえる後藤さんの言葉への違和感が燻っている。
「でも……」
「ただいま」
その感情を吐き出そうとした時に丁度、洗濯やら水汲みに出ていた他の人たちが戻ってきた。
「あらあら、どうしたの?暗い顔をして」
パリッセの奥さんがその暗い空気を察して訝しがった。
「ああ、いえ、たいしたことじゃ……自分たちはそろそろ見張りに行きますね」
「あら、もうそんな時間なのね。竈に野菜のお付を作っておくから帰ってきたら温めなおして、黒パンと食べてね」
でも、の後に自分でも何が言いたいのかまとまっていなかったことに気が付いた。太陽も大分傾いており丁度いい時間であったため、これ幸いと慌てて会話を打ち切って見張りへ行くことにした。ただただ、このもやもやした感情はどこから来るのだろうかということが引っ掛かっていた。
週1投稿……




