開拓村:役立たず
どうも一部の人たちから「役立たずのよそ者」と疎まれているようだ・・・・・・
「じゃぁ、この部屋でええか?」
引っ越し先の領主の館に着き、部屋に案内された。寝室に使える部屋のうち暖炉付きは2部屋のみで、そちらは流石にパリッセ一家と未亡人シモーナさん一家に譲ることにした。ここの冬がどこまで寒いかわからないが、自分たちは若いし老人と子供に譲るべきだろう。そして、何よりよそ者が暖炉付きの部屋を使ったらまた何を言われるかわからない。
「いやーちゃんとベッドですね」
案内された寝室にはベッドがあった。枠組みに革のバンドを縦横に編み込んだものがあり、そこに敷布団を載せるようだ。スプリングなど凝った構造はないものの、今まで板の間に藁を敷き、その上にシーツを敷いただけの生活からすると高部君の言うように「ちゃんと」している。ただ、綿入りの敷布団は持っておらず、相変わらず藁で代用するしかなさそうである。
「さっさと終わらせちゃいましょう」
長く使われなかった部屋のため、こちらでもまずは掃除からである。瀧本さんに急かされるように掃除を始める。自分たちにあてがわれたのは3部屋であるが、比較的狭い部屋で家具もベッド以外は小さな箪笥、いわゆるチェストというやつがあるだけのため、すぐに終わりそうである。
「ちょっとペース上げましょう」
しばらくして、瀧本さんがさらに急かす。確かにそんなに根を詰めてやっているわけでもないが、さぼっているわけではない。この家は窓ガラスもあり吹きっさらしに近い前の家と比べると掃除も大分楽に終わりそうだ。まだ午後も早いこんな時間に何をこんなに焦っているんだろうか。
「自分たちの部屋だけで終わりじゃないんですよ?」
どういうことかと考える間もなく、瀧本さんは言葉を繋げる。
「この家は比較的ご高齢な人と子供しかいないんですよ。居間や台所やら、私たちがやらないと」
一瞬固まったのち、はっと気づいた。よそ者の自分たちは人一倍気を使わなくてはいけないというのをさておいても、若い自分たちが動くべきなのは当たり前のことである。全員がそれに気づき、慌てて作業ペースを上げる。山田さんもそれを分かっていたようで、最初から忙しく動いている。となると正確には、男達全員が気づいた、である。「まったく男どもは」という正月の親戚の集まりで聞いた叔母さんの声が聞こえた気がした。
「いやはや、面目ない……確かに」
「そ、そうっすね……よっしゃ、一気にやりましょう」
年長者の後藤さんと体育会系の小谷君、それぞれの反応の仕方は違うが、同じように納得して動き出した。
「あー、ちょっと待って。この部屋はまだ上の埃払ってないっす」
「じゃぁその間に水汲んできますね」
そこからはあっという間だった。自分たちの部屋はものの1時間ほどで終わり、廊下や階段に、さらには居間と台所に移動し掃除を続ける。
「やや、すまん。うちらが自分の部屋で手間取っている間に……」
2時間ほどが経ち、台所を掃除しているとパリッセさんが杖をつきながら出てきた。
「若い俺らがやるのは当然っす」
小谷君が胸を張って答える。最初はそれに気づいていなかったくせに、という突っ込みは自分にも返ってくるため辞めておいた。
「こらこら、ちゃんと絞って――」
後ろからは子供たちの声と奥さんの声がした。ちゃんとお手伝いをしているようだ。だが、まだ10歳にもなっていなそうな女の子、掃除の労働力としてはあまり頭数に入れて考えられないだろう。やはり、自分たちがさっさと動くべきなのだろう。
そうこう考えて、体を動かしているが、1つ頭から離れないことがある。いくら一生懸命頑張っても、「使えないよそ者」であることには変わらないのではないかという不安である。掃除のような単純作業でしか役に立っていない。いや、単純作業の中にも鍬の使い方など役立たずの部類に入るものもあった。
「よーっし、だいたい終わりですね」
「ほとんど全部やってもらってすまんのお」
夕方のそこまで遅くない時間に全てが終わることができた。
「じゃぁ今日はそのお礼もかねてチーズとお肉たっぷりのパスタにしちゃいましょうかね」
「もちろん、酒も出そう」
「またですか……」
「今日は彼らの見張りがない貴重な日じゃからええじゃろ」
「仕方ないですね……」
どうやら、というより、やはりお酒が出てくるようだ。
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「えー、やだー。お姉ちゃんたちともっとおしゃべりするのー」
「だめよ。もう寝る時間よ」
「また明日おしゃべりしましょ」
瀧本さんが屈んで、顔の高さを同じにして駄々をこねている姉妹に諭している。楽しい食事の時間が終わったものの、大人はこれから酒盛りの時間である。子どもたちの前で飲みすぎるのはと一杯しか飲めていない瀧本さんの笑顔の裏に必死に子どもたちを部屋に戻そうとしている感じが読み取れた。
「はいはい、行きますよ……先に飲んでいてくださいな」
そういうと奥さんとシモーナさんは子供たちを連れて部屋に入っていった。
「全く、シモーナさんところに比べると、ちと我が儘に育ってしまったかの」
パリッセさんは酒瓶を取り出しながらそう呟いた。確かにシモーナさん一家の子どもたちは大人しく、何につけても大人たちの言うことを素直に聞いていた。年齢も小学生高学年以上から中学生くらいだろうか。リタとマルガリータよりも年上なのは間違いなく、それも仕方ないことのように思えた。いや、それ以上にシモーナさん一家の子どもたちの方が大人しすぎて怖いくらいだ。
「で、だ。子供たちの前では話せなかったが……」
パリッセさんが酒を注ぎ、その酒瓶を回しながら語り掛ける。
「その、なんだ。会合でひと悶着あったが、あれは気にせんでくれていい」
ひと悶着、が何を意味しているかは、この場にいる全員が理解できている。だが、気にしないでいいと言われても、理由がわからない限り気になってしまう。
「というと?」
パリッセさんが、その言葉を言い終えた瞬間に酒瓶が自分の手元に回ってきていた。その瓶で発言の順番が自分に回ってきたことを示されたように感じ、全員を代表して聞き返してみた。
「うーん……」
そういうとグラスについだワインをほとんど一気飲みに近い勢いで飲み干した後に言いづらそうに呟くと回っている酒瓶を眺めて止まった。
「どうぞ」
「お、すまんの」
隣に座った後藤さんは自分の分を注ぐ前に回ってきた酒瓶でパリッセさんのグラスを満たした。それを一口飲んでからパリッセさんは続ける。
「うちらの中にも序列ってもんがある。いや、傭兵集団であったからこそ、それが強い」
そこでチーズをひと齧りし、もう一口ワインを飲んでから続けた。
「当然、長くいた者、武功のあった者ほど優遇せにゃならん。それだけのことをしてきたわけだからな」
そういうと少し不自由な方の足をさすった。杖をついているのは昔の戦闘での負傷が原因なのだろうことは容易に想像がつく。
「当然、うちらの中でも古株は貯えもあるし、役職的にも金回りが良くなっちょる。比較的新参者にも付いてきた以上は不自由ない暮らしをさせるようにはしておるが……」
全員の眼差しがパリッセさんに向けられている。一番の酒飲みの瀧本さんすらグラスを持ったまま固まって聞いている。
「そうなると、さらに新参者のお前さんたちに自分たちの役割を奪われるんじゃないかとやきもきしてしまっておるんじゃ」
そう言うとさらに残ったグラスを一気に飲み干した。比較的若い層が反発していたのもこれで納得できる。
「まぁ、不安と嫉妬じゃな」
話の内容はよく分かった。よく分かったが、その言葉をどう受け取っていいのかわからない。
「まぁ、言ったように配分は決定事項じゃ。お前さんたちは安心していてくれればいい」
会合の雰囲気からしてもきっとこれは事実なのだろう。多少嫉妬されたにしろ、実害は何もなさそうである。ただ、それでも何か釈然としないものが胸の奥に残る。それが嫉妬であろうとも、自分たちが「役立たずのよそ者」であることは間違いないように思えてしまう。
「お、ばあさんも戻ってきたかな」
子供を寝かしつけたようで奥さんとシモーナさんが戻ってきた。
「さて、私たちもちょっとは飲みますかね。チーズもだしましょうか」
「確かナッツもあったな。一緒に出してええか?」
そういうと二人はおつまみをとりに席を立ってしまった。これでこれ以上話を続ける流れではなくなったようである。シモーネさんは複雑な顔をしている我々を見て少し居心地が悪そうだ。せっかくのお酒。これ以上暗い顔をしているわけにもいかない。とりあえず、お酒を楽しむことにしよう。
「いやー、うまいっすね」
「グラッパいきませんか?」
いつものごとく一番酒宴を楽しんでいるのは小谷君と瀧本さんである。もちろん、自分も楽しんでいるつもりだが、頭の片隅に問いが1つひっかかったままであった。どうすれば「役立たずのよそ者」から抜け出せるのかと……。
そろそろ村興し、産業パートに入りたいところだが……




